ハイゴブリンとの戦い
洞窟の中がドンドンと広くなるにつれて、分かれ道も増えてきた。
それと共にゴブリンと接敵する数も増えるのだが、通路が増えたお陰で戦闘の幅も増えた。
孤立したゴブリンを見つけて、後ろから忍び寄って短剣で首を掻き斬る。
通路の死角となる場所で待ち伏せをして斬り伏せる。
即投げを使って一気に殲滅する。
「……なんだか盗賊っていうより、暗殺者になった気分だ」
実際に暗殺者という固有職は存在するが、今の俺ではレベルとジョブレベルが足りないために転職することができない。
物騒な職業ではあるがとても有用なので、いずれは転職できるようになりたいものだ。
そうやって洞窟のゴブリンに発見されないように討伐を繰り返し、盗賊のジョブレベルが七になった頃。洞窟の道が開け、広間のような場所にやってきた。
そこには二十匹ほどのゴブリンがたむろしており思い思いの様子で過ごしていた。
木材を加工したテーブルや腰かけのようなものがあり、ゴブリンにも最低限の知性と文化があるのだと確認できるな。
そんな風に見渡していると気になるものがある。
それは奥でふんぞり返っている大きめのゴブリンと杖を持っているゴブリンの存在。
他のゴブリンとは明らかに顔つきや体格が違う。それに他のゴブリンに敬われている様子で、明らかに上位者のような振る舞いだった。
気になったので鑑定を発動してみる。
ハイゴブリン
LV10
HP 88
MP 15/15
STR 63
INT 22
AGI 57
DEX 33
ゴブリンシャーマン
LV9
HP 34
MP 48/48
STR 23
INT 56
AGI 32
DEX 25
これまで出会ってきた魔物の中で、ステータスが段違いに高かった。
ゴブリンとは明らかに違う。
ハイゴブリンなんて俺とレベルが同じだ。
それにゴブリンシャーマンも中々にステータスが高い。
名前と魔法職のような偏ったステータスを見る限り、明らかに魔法を使ってきそうだ。
レベル差こそ少ないが、俺には固有職による補正があるために相手のステータス値は全体的に下だ。
そこに固有職の力が加算されると考えると負けるはずがない。
とはいえ、これまでの魔物と同じように考えていれば負ける可能性も十分もあるので、ジョブレベルを上げる目標があるとはいえ、全力で行かせてもらおう。
これだけレベルが高い魔物がたくさんいるんだ。討伐できた暁にはさぞかしジョブレベルが上がるに違いない。
鑑定で個々のステータスを確認し、それぞれのゴブリンの様子や位置をしっかりと把握すると、俺は一気に駆け出した。
「即投げ」
盗賊のスキルを発動し、五本の短剣を同時に投げる。
個々の状態をしっかりと把握していた俺は、眠りこけていたゴブリン五匹を即座に始末することに成功。
不意をつけている今が最大のチャンスだ。短剣を回収する手間を惜しみ、盗賊でありながら魔法を使う。
「念動力」
念動力によってゴブリンの額に刺さっていた五本の短剣を即座に回収。
俺もレベルも上がってかなり魔力も増えた。この程度の魔法ならば、魔力消費を気にせずにドンドンと使っていける。
そして、再びの即投げ。
このコンボによって広間にいた十匹のゴブリンの過半数を倒すことができた。
脳内でレベルアップの音が鳴り響くが、戦闘中なので確認することはできない。
さすがにこれだけ派手に攻撃を繰り出すと、ゴブリンたちもこちらを視認したようで敵意に満ち溢れた声を上げた。
奥でふんぞり返っていたハイゴブリンが偉そうにこちらを指さすと、残っていた八匹のゴブリンが一気に襲い掛かってくる。
やはり上位者がいると動きが違うな。
こんな風にゴブリンが乱れずに攻撃してくるのは初めてだ。
それでもやはりステータスが違う。俺の視界では跳びかかってくるゴブリンたちの動きがスローモーションのように見えた。
念動力によって二本の短剣を手にすると、跳びかかってきたゴブリンを順番に切り裂いた。
一匹、二匹、三匹、四匹、五匹と斬り、六匹目に斬りかかろうとしたところで視界の奥で橙色の光が見えた。
直感に任せて攻撃を注視すると、俺のいた場所目がけて火球が飛んできた。
その場所にいた六匹目のゴブリンが火球に直撃し、激しい悲鳴を上げる。
やがて炎がゴブリンの全身の呑み込むと、断末魔の声すら聞こえなくなった。
危なかった。あのまま斬りかかっていたら魔法を食らうところだった。
まさか、仲間ごと俺を攻撃してくるとは思っていなかった。
「あいつ、手下ごと俺のことを……」
思わず奥に視線をやると、ハイゴブリンとゴブリンシャーマンは特に気にした風もなかった。間一髪のところで躱されたことに不満げな模様。
手下の心配など欠片もなかった。
ああいった下の者のことをまるで考えずに振る舞う上司は、元の世界でもたくさんいたな。
どうやら異世界の魔物社会でもそういった腐った奴はいくらでもいるようだ。
「あいつは叩き斬ってやらないと俺の気が済まないな」
俺は盗賊から剣士へと転職を果たす。
短剣を懐に仕舞うと、鋼の剣を手にして駆け出す。
すると、ゴブリンシャーマンが杖をかざして火球を撃ち出してきた。
魔法の兆候を察知していた俺は、火球を躱し、お返しとばかりにスキルを放つ。
「衝撃波!」
剣から放たれた剣撃はゴブリンシャーマンの杖を持った右腕を飛ばした。
まさか剣士が中距離から攻撃を放ってくるとは思わなかったのだろう。
「グギギギッ!?」
ゴブリンシャーマンは腕を飛ばされたこともあって激しく動揺の声を上げていた。
その隙に俺は一気にゴブリンシャーマンへと肉薄すると、剣を振るって首を刎ねた。
ゴブリンシャーマンをこれだけすぐに処理できたのは、相手の予想できない攻撃手段をもっていたからだろう。色々な固有職に転職し、手札を多くしておいたのは正解だった。
ゴブリンシャーマンがやられると、これまで余裕の態度だったハイゴブリンの顔つきが変わった。
イスの傍に立てかけてあった大きな棍棒を手にすると、それを引きずりながらこちらにやってくる。
背丈は俺よりも少し大きい百八十センチといったところか。
これだけの大きさになるとゴブリン種とはいえ、中々に迫力が出るものだ。
石を加工した棍棒かなりのサイズで大人と同じくらいの長さがある。
ステータスが俺よりも下とはいえ、あれだけの質量のものが直撃してしまえば、致命傷になる可能性がある。ハイゴブリンのパワーには十分注意する必要があるな。
そんな風に観察していると、ハイゴブリンが動き始めた。大きな棍棒を手にし、その巨体に見合わない俊敏さで棍棒を振り下ろしてくる。
バックステップで回避するが、打ち付けられた地面がドゴンッという音を立てた。
同時に巻き上がる砂埃。視界が遮られる中、砂埃に紛れて棍棒が薙ぎ払われた。
「危なっ!」
反応に遅れながらも俺は身を屈めて回避。ハイゴブリンが膝蹴りを繰り出してくるが、そのまま転がることで逃れることに成功した。
一度距離を取ると、俺とハイゴブリンは睨み合う。
ステータスと知能の高い魔物を相手にすると、これだけ厄介だとは思わなかった。
だが、速度に関しては俺が上だ。反応が遅れたとしても攻撃を躱せたことがその証だろう。
だったら速度を活かした立ち回りを意識すればいい。
「風撃」
俺は剣士のままで風魔法を発動。
砂埃が滞空した空気の塊をそのままハイゴブリンへぶつける。
威力こそ大したことのないが、砂埃を大量に含んだ風はハイゴブリンの目を強かに襲った。
「グギャアアアアッ!?」
目つぶしをされたことでハイゴブリンが呻き声を上げた。
その隙に俺は即座に加速して、ハイゴブリンの胸を切り裂いた。
しかし、完全に動体を両断することはできなかったみたいだ。DEXが高い恩恵か。
追撃を入れようとするが、ハイゴブリンが闇雲に棍棒を振るってきたために中断。
回避すると同時にハイゴブリンの右手に衝撃波を放った。
指が落とされ、棍棒がドスンと地面に落ちた。
その際に自らの足が下敷きになったようでハイゴブリンは痛そうに蹲る。
重い武器を持っていると、あんな風なトラブルが起こるのか。
ハイゴブリンに少しの同情心を覚えながらも、俺は肉体と剣に魔力を注いでスキルを発動させた。
「一閃」
身体強化による加速の一撃を乗せた一撃。
それは低い位置にきたハイゴブリンの首元に見事に吸い込まれ、一撃で首を飛ばしてくれた。
それと同時に俺の脳内でレベルアップの音が鳴り響いた。
名前 アマシキ ツカサ
LV14
種族 人族
性別 男
職業【剣士(転職師)】
ジョブLV8 (転職師ジョブLV12)
HP 188
MP 760/990
STR 180 (+30)
INT 169 (+20)
AGI 151
DEX 91
【条件を解放していないためにアイテムボックスの使用はできません。
五つの固有職のジョブレベルを十まで到達することによって解放されます。
現在の到達固有職、薬師、魔法使い、盗賊】
ステータスを確認してみると、数値が大幅に上昇していた。
剣士のジョブレベルが三から七に上がり、盗賊のジョブレベルが三から十に上がっており、転職師のジョブレベルが二上がっていた。さらにレベルが四も上昇している。
それらによる恩恵がすべて重なったのが急上昇した要因だろう。
ゴブリンを四十匹以上倒した経験値もあるが、やはり大きいのはゴブリンシャーマンとハイゴブリンの討伐だろうな。
レベルも高かったし、今までの魔物の中で一番の強敵だった。それだけに得られる経験値も多かったのだろう。
「残っている固有職は剣士と槍使いだな」
剣士のジョブレベルをあと三つ上げて、槍使いのジョブレベルをあと七つほど上げれば、夢のアイテムボックス解放だ。
少し疲労は感じているが、今日中にアイテムボックスを獲得したい。
「うん? ハイゴブリンの胸が光っている?」
討伐証明部位を剥ぎ取ろうとすると、ハイゴブリンの胸の辺りが光っていることに気がついた。
魔物の中にはごく稀に魔力を内包した魔石を持つものがきると聞いたことがある。低ランクの魔物からは、滅多に取ることができないと聞いていたが、もしかすると魔石なのかもしれない。
気になってナイフで胸の辺りを抉ってみると、紫色の綺麗な石が出てきた。
『ハイゴブリンの魔石』
ハイゴブリンの魔力が内包された石。武具や魔道具、アイテムの加工などに使える。
鑑定してみると本当に魔石だった。
運が良い。魔石は高値で売れるらしいので、しっかりと手に入れておこう。
ハイゴブリンの魔石と他の討伐証明部位を取ると、俺はレベルアップのための狩りに勤しむのであった。
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