ゴブリンの巣穴
五つの固有職のジョブレベルを十にすることで、アイテムボックスが手に入ることがわかった俺は破竹の勢いでゴブリンを討伐していく。
「二十匹目!」
「グギイィッ!?」
最後に残っているゴブリンを斬り捨てると、脳内でレベルアップの音が響いた。
確認すると、剣士のジョブレベルが五に上がっていた。
順調に上がっている。しかし、まだまだアイテムボックスを解放するには足りない。
既に二十匹のゴブリンを討伐しているので依頼としては達成ということになるが、規定数を討伐すれば切り上げなければいけないというルールはない。
特にゴブリンは繁殖力が強く、数が多いことから、できるだけ多くの討伐が推奨されている魔物だ。このまま狩り続けても問題はないだろう。
討伐証明である耳さえ持って帰れば、きちんと討伐報酬も貰えることだしな。
そんなわけで俺は二十匹を倒し終わっても、狩りを続行することにした。
既に依頼は達成しているのでゴブリンに拘らなくても問題はない。
俺の経験値となる魔物を探し求めて歩き回る。
すると、甲高い声が響き渡るのが聞こえた。
気配を消しながら騒音の方に近づいてみると、ゴブリンとコボルトの群れが縄張り争いをしているようだった。
槍を持ったコボルトと棍棒を持ったゴブリンが睨み合っている。
まだ戦いには発展していない模様だが、いつ殺し合いが始まってもおかしくない。
魔物同士でもこんな風に争うことがあるんだな。
そんな殺気立った雰囲気だが、今の俺にとってはアイテムボックス解放のための糧にしか見えない。
「数は合わせて十六匹……一網打尽のチャンスだ!」
そのまま飛び込みた欲求に駆られそうになるが、ここは魔法を使った方がいいだろう。
盗賊のパッシブスキルで両者に気付かれないように近づくと、魔法使いに転職。
「旋風刃」
転職したタイミングでゴブリンとコボルトがぶつかり始めたので、すぐに範囲系風魔法を発動。
すると、両者の中心地点に旋風が巻き起こる。
やがて旋風は勢いを増し、捕らえたゴブリンとコボルトを風の刃で切り裂いた。
ゴブリンたちの甲高い悲鳴が聞こえたが、しばらくするとまったく聞こえなくなった。
旋風がなくなると、そこには身体中を切り裂かれたゴブリンとコボルトたちの死体が横たわっていた。
ゴブリンとコボルトは使い道になる素材がないので、素材のことを気にせずに倒すことができるので楽だな。
ゴブリンとコボルトの群れを一気に倒すと、レベルアップの音が響いた。
名前 アマシキ ツカサ
LV10
種族 人族
性別 男
職業【魔法使い(転職師)】
ジョブLV10 (転職師ジョブLV10)
HP 103
MP 800/855
STR 115 (+30)
INT 125 (+20)
AGI 79
DEX 52
【条件を解放していないためにアイテムボックスの使用はできません。
五つの固有職のジョブレベルを十まで到達することによって解放されます。
現在の到達固有職、薬師、魔法使い】
よし、魔法使いのジョブレベルが十だ。
アイテムボックスの詳細を確認してみると、しっかりと到達固有職の欄に魔法使いが追加されていた。あと三つの固有職のジョブレベルを十にすればいい。
方向性が問題ないことを確認した俺は討伐証明を剥ぎ取ると、次の獲物を求めて歩き出す。
ゴブリンの群れの足跡を追っていくと、やがて森の中でも開けた場所に出てきた。
奥を見てみると小さな洞窟があり、入り口には槍を手にしたゴブリンが立っていた。
しばらく様子を見ていると、四匹ほどのゴブリンが獲物を手にしてやってくる。
入り口に立っているゴブリンは、やってきたゴブリンに一言ほど声をかけると洞窟に入っていく四匹のゴブリンを見送った。
どうやらあそこはゴブリンの巣穴のようだ。
そういえば、Eランクの討伐依頼の中には巣穴の殲滅依頼もあったな。
どうせジョブレベルを上げるために魔物を討伐するのであれば、ついでにランクアップのための依頼を消化する方がいいだろう。
別に依頼を受注していなくても討伐を証明するだけの手立てさえあれば、後程報酬を貰うことができるからな。
あそこに大量の経験値があるのであれば、見逃す道理はない。
効率的に考えるなら洞窟に魔法をぶち込んで一網打尽にできるのであるが、生憎と魔法使いのノルマは既に達成している。
残りの剣士、槍使い、盗賊のジョブレベルを上げるべきだろう。
その中から俺は盗賊を選択し、転職する。
大量にゴブリンがいるとわかっているのだ。魔法を使わないという縛りの中で、多対一の戦闘はあまり起こしたくない。そのための盗賊だ。
洞窟の前は開けているので盗賊のパッシブスキルをもっても視認されてしまう。
しかし、スキルが使えなくてもやりようはある。
俺は腰のベルトから買ったばかりの短剣を抜くと、ゴブリン目がけて投げた。
ゴブリンとの距離は二十メートル。通常なら当たるはずがない。
が、短剣の扱いにある盗賊に転職しているお陰か、この程度の距離ならば当たる気しかしなかった。
事実、投擲された短剣は一直線に突き進み、ゴブリンの額に突き刺さった。
額を射貫かれたゴブリンは悲鳴を上げる間もなく倒れ込む。
サイレントキルのお陰で、他のゴブリンが異変に気付くことはない。
短剣を回収し、ゴブリンの死体を茂みへと隠すと、そのまま洞窟へ侵入する。
洞窟の中はとても暗い。
灯りが一切ないということは、ゴブリンはこれでも平気ということなのだろう。
しかし、それは俺も同じだ。
盗賊のパッシブスキル『夜目』のお陰で、俺の視界は鮮明に見えているので暗闇の中奇襲を食らうようなことはない。
派手なスキルやパッシブスキルこそないものの、盗賊はこういった時に非常に便利な固有職だな。
気配を消しながら細道を進んでいくと、四匹のゴブリンが前方からやってくる。
恐らく先程の調達班が、再び獲物を調達しに外に向かうところだろう。
隠れようにも残念ながら通路は一本道なので隠れようがない。
「即投げ」
俺は短剣を四本ほど引き抜くと、盗賊のスキルを発動して投げる。
すると、四本の短剣が同時に投擲されて、そのどれもが同時に額に刺さった。
まるで投擲の名手だな。自分でもビックリするくらいの速さで身体が動いた。
四匹のゴブリンが音もなく死んだことを確認すると、脳内で再びレベルアップの音が鳴る。
名前 アマシキ ツカサ
LV10
種族 人族
性別 男
職業【盗賊(転職師)】
ジョブLV3 (転職師ジョブLV10)
HP 112
MP 830/870
STR 124 (+30)
INT 127 (+20)
AGI 95
DEX 56
盗賊のジョブレベルが一気に三に上がっていた。
にしても、レベルが上がっていないのにジョブレベルがポンポンと上がっていくお陰でステータスの伸びが著しいな。
これも固有職の大きな恩恵の一つというわけか。
これがあるのとないのとではステータスの上昇値が大きく異なる。
ということは、転職師の力で数多の固有職についている俺のステータスはとんでもないんじゃないだろうか?
なにせいくつもの固有職のジョブレベルが加算されるのだ。
一般人は勿論、固有職を持っている者と比較してもべらぼうに高いのかもしれない。
ポーションを売りに行った時も、俺のステータスを鑑定したリゼルもそんなことを言っていた。
ラッセルに戻ったら他の冒険者のステータスを覗き見しておこう。
そんなことを考えながら短剣を回収し、ゴブリンの耳を剥ぎ取って進んだ。
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