武具屋
ランク1の治癒ポーションを買い取ってもらったお陰で八十万ゴルもの大金を獲得することができた。
Fランクの薬草採取依頼もぼろ儲けではあったが、今回の稼ぎはそれよりも遥かに高額だ。
別に冒険者の依頼を受けなくても、これだけで食っていけるな。
などと怠惰な悪魔が誘惑をかけてくるが、俺はその言葉を頭から振り払う。
いかんいかん。俺の目的はすべてのジョブを極めて、キャリアアップすることだ。
一つの固有職の力だけで満足してはいけない。
ポーション作りだけでは他の固有職のジョブレベルは上がらない。
それに今後ポーション作りの技術が発達して、錬金術師以外の者でもポーションが作れるようになるかもしれない。そういった意味でも一つの稼ぎ方に固執することはリスキーだからな。
とはいえ、これだけ大金が手に入ったんだ。そろそろ自己投資をするべきだろう。
現在の俺の装備はエスタに貰った旅人装備に剣だ。
急所を守れる革鎧こそ装備しているものの、それ以外の衣服や外套に防御性能は皆無だ。
いい加減何かしらの防御性能を備えた装備を購入する必要があるだろう。
魔法使いや剣士の固有職を使っているせいか、DEXの値もいまいちだからな。
Eランクに昇格したことだし、装備を揃えよう。
自分で鍛冶師になって武具を作るという案もあるが、今回はお金を持っていることだし素直に購入することにする。
そんなわけで俺は武具屋を探して歩いてみる。
すると、程なくしてハンマーが交差している看板マークを見つけた。
近づいてみると『ドラン武具屋』と書いていたので、早速お店の中に入ってみる。
石造りの店内にはたくさんの武具が並んでいる。が、店員らしき人物は見えなかった。
代わりに奥の方から金属を打ち鳴らす音が聞こえている。
恐らく、そちらで何かを作っているのだろう。
特に俺は奥に行って声をかけることもなく、店内の武具を眺める。
包丁やナイフとは比べ物にならない質量を誇る刃物が堂々と佇んでいる。
鈍く光る武具を見るだけで得体の知れない迫力を感じた。
『鋼の剣』
STR+30
『ショートワンド』
INT+20
『メタルヘルム』
DEX+25
『バトルアックス』
STR+45 装備レベル10
『火炎斧』
STR+150 装備レベル30
鑑定士に転職し、鑑定をしてみると武具にそのような詳細が現れた。
どうやらこの世界での武具は、装備することによってステータスに大きな恩恵を与えるシステムらしい。装備するだけで、ステータス値が上昇するとは実にわかりやすい。
しかし、それと同時に装備レベルというものもあるようだ。
現在の俺のレベルは九なので、バトルアックスや火炎斧といった武器は装備できないことになる。
レベルが足りない状態で触ったら、どんな風になるのだろう?
武器が所有者を認めず弾くのか、あるいは本来の恩恵を授かることができないのか。
むくむくと好奇心が湧いてくるが、さすがに売り物なのでやめておこう。壊れたりでもしたら大変だ。
『鉄剣』
ちなみに俺が装備している剣には、何も補正がなかった。
本当に初期装備だ。
これならちょっとでもいい剣を買えば、今よりもSTRが上昇することだろう。
とりあえず、まずは剣を買うべきだろうか? いや、魔法の補助のために杖を買ってみるのもいい。
そう考えたところで、俺ははたと気付く。
俺は転職師だ。魔法使いにも剣士にも槍使いにもなることができる。
つまり、色々な固有職に転職するということは、それぞれの固有職に合わせた装備になるわけで……。
魔法使いに合う装備が、剣士に最適なわけがない。
「俺って、一体どれだけの装備を揃えればいいんだ……?」
現在転職できる固有職だけでも軽く二十は越えている。
つまり、最低でも二十種類もの装備が必要になる。
そう考えると八十万ゴル程度では全く足りない。
小金持ちになった気分だったが、一瞬にして夢が冷めた気分だ。
落ち着け俺。いきなり最上の装備を固有職の数だけ揃える必要はない。
それだけの数を買ってもどうやって持ち歩くというんだ。
現在使っている固有職に合う武具を装備すればいいのだ。
今の俺のレベルは九だ。現段階では装備レベルに達していない武具がほとんどだ。
レベルにあったもので、他の固有職と兼用して使えるものを買えばいい。
「すみませーん! 武具を買いたいんですが!」
武具を購入するために声を張り上げると、しばらくしてから髭を生やしたドワーフが出てきた。他に従業員なんかはいないようなので、この人がドランだろう。
ドランは仏頂面を浮かべながらジーッと俺を見つめるなり一言。
「……変な奴だな」
初対面でいきなり変な奴扱いされてしまった。
「なにがでしょう?」
「長年この仕事をやってれば、やってきた奴がどんな武器を使って戦ってきたのかは一目見ればわかる。だけど、お前さんの場合どうもわからん。剣で戦うようにも見えるし、魔法を使って戦うようにも見える。体つきやオーラ、すべてがちぐはぐだ」
ドランの抱いた違和感。
それは俺が転職師の力で、色々な固有職に転職して戦っているからだろう。
それを考えるとドランが俺のことを変というのは納得だった。
「……何か固有職を持っているのか?」
「魔法使いです」
「……魔法使いだぁ? にしては、足さばきが剣士くせえが……まあいい。どれが欲しいんだ?」
ドランは胡散臭いものを見るような目をしたが、気にしないことにしたようだ。
俺が今主力として使っている戦闘固有職は、魔法使い、剣士、狩人、槍使い、盗賊だ。
一番優先度の高い武器は剣と杖だ。
「鋼の剣とショートワンド、それと短剣をください」
「おいおい、そんなに種類の違う武器を買って扱えるのか?」
「問題ありません」
「まあ、俺としちゃ売れる分には文句はねえけどな」
ドランが不思議そうにしながらも指定した武器を下ろしていく。
「あと、あそこのアイアンジャベリンもお願いします」
「今度は槍か。本当に節操がねえな」
槍使いのために槍も買っておくが、さすがに他の装備と違ってかさばり過ぎるので普段から持ち歩くことはできないな。
しばらくは虎猫亭の部屋で寝かせておくことになりそうだ。
「ああ、ゲームのような世界ならアイテムボックスやマジックバッグの類があってもいいのに……」
そうすれば、どれだけたくさんの装備があっても持ち歩くことができる。
ため息をつきながら言葉を漏らすとドランが反応した。
「アイテムボックスってやつは知らねえが、マジックバッグなら存在するぞ」
「本当ですか!?」
「高位の冒険者や権力者だけが参加できるオークションで売られている。容量の小さなもので数千万ゴル以上するらしいけどな」
「……さすがにそれは手が届きませんね」
もしやと思って期待したが、どうやらかなりの希少品らしい。
治癒ポーションをかなり売りさばいていけば、近い金額を稼ぐことはできるが、最低で数千万だもんな。場合によっては一億やそれ以上に跳ねる可能性がある。
そもそもEランクの俺ではオークションにも参加できないだろう。
現状ではマジックバッグを手に入れるのは不可能に近かった。
とはいえ、そういったアイテムがあるという情報は嬉しかった。
ランクが上がったら、いずれはそういったオークションにも参加して、便利なものを手に入れたいものだ。
『面白い』『続きが気になる』と思われましたら、ブックマーク登録をお願いします。
本作を評価していただけると励みになります。




