錬金術師になってポーション作り
ポーションの作り方を知った俺は、市場で必要な素材を買って虎猫亭に戻ってきた。
「よし、ポーションを作るか」
ポーションが買えなければ、自分でポーションを作ってしまえばいい。
俺は数ある固有職の中から錬金術師を選択し、転職する。
「転職、【錬金術師】」
素材を調合することによってポーションなどのアイテムを作り出せ、金属や鉱石の精錬ができる生産職である。
基本的な戦闘能力は低いが、アイテムを駆使した補助が得意な固有職だ。
錬金術師となった瞬間、作りたいと思っていたポーションの作り方がわかる。
まずは魔力水の準備だ。
鍋の中に綺麗な水を入れると同時に俺の魔力を注いでいく。
水に魔力を流し込みながら念動力を使って鍋を浮かせる。
火魔法で火球を生み出すと、その上に鍋を浮かせて加熱させる。
魔法を扱うには魔法使いに転職するのが一番であるが、こういった小さな魔法なら少ない魔力消費で魔法を扱えるために転職する必要はない。レベルも上がって魔力もかなり増えたことだしな。
加熱されるにつれて魔力と水がドンドンと融和していく。
見た目上ではそれほど変化しているように見えないが、錬金術師の能力によってしっかりと把握できた。きた。
本来であれば、ジョブレベル一の錬金術師だとここまで詳細に把握できない。
それなのに把握できているのは、恐らく俺が魔法使いとして魔力感覚を磨いてきたお陰なのだろう。
他の固有職の力を経験していたから、ここまで上手くできたのだろう。
やはり、転職師の力は偉大だ。
火球の温度を調節し、ギリギリ沸騰しないぐらいの塩梅で加熱しつつ、魔力をゆっくりと流し込む。
そうやって五分ほど様子を見ていると、水がほのかに淡い光を放ち出した。
水と魔力が見事に融和した証である。
魔力水が出来上がると、火球を解除してしばらく冷ます。
そうすることによって、より魔力と水の定着性が増すのだ。
その間にドズル薬草とベースハーブの下処理だ。
ポーションに使うための薬効成分はどちらも葉に含まれている。それ以外の部分はポーション作りには邪魔になってしまうので、花弁や根といった部分は切り落としてしまう。
冷ました魔力水を市場で買ってきた抽出機の中に注ぐと、そこにドズル薬草とベースハーブを入れる。
「粉砕」
錬金術師のスキルでドズル薬草とベースハーブだけが粉砕される。
そこで再び火球を生み出して、魔力水を加熱。今度は沸騰させる勢いでだ。
加熱されることによって砕かれたドズル薬草とベースハーブから薬効成分が溶け出す。
それを錬金術師のスキルで成分を引き上げてやる。
「薬効成分強化」
淡い光を放っていた魔力水とドズル薬草、ベースハーブの薬効成分が混ざり合い、液体の色が緑色へと変わっていく。
薬効成分がしっかり混ざり合っている証だ。
「成分固定」
混ざり合った水を沸騰させ、しっかりと煮詰めると最後に成分を固定。
出来上がった液体を市場で買ったポーション瓶へと丁寧に流し入れる。
そして、しっかりと蓋をしてやれば……。
「ランク1の治癒ポーションの完成だ」
念のために鑑定を使って調べてみると、きっちりとランク1の治癒ポーションだと表示された。
鑑定にも認められたのであれば、ちゃんとしたポーションだと胸を張って言えるだろう。
ドズル薬草は持っていたので、かかった費用は市場で買った鍋、ベースハーブ、ポーション瓶を合わせて二千ゴルくらいなものだ。
今作った分だけでポーション瓶十個くらいの量があるのでかなりお得だな。
店で買ったら二百万ゴルだが、自分で作ってしまえば、二千ゴルも必要ない。
これを大量に売りつけるというのだから、錬金術師というのはぼろい商売だ。
あの男が、あれだけお金のかかった店を持っているのも当然と言えるだろう。
治癒ポーションが完成すると、錬金術師のジョブレベルが一上がった。
こちらも薬師と同じようで作ったものに対しても経験値が入ってくるらしい。
初めての製作で治癒ポーションを完成させられたのが大きかったのだろう。
「よし、このままポーションを作りまくるか」
ジョブレベルが上がり、テンションの上がった俺は、そのまま続けてポーションを作っていくのであった。
●
ポーション作りに没頭した次の日。俺は市場へ向かっていた。
目的は昨日作り過ぎてしまったポーションを売るためである。
ポーション作りがつい楽しくなってしまって、気が付けば作ったポーションの数は六十を越えていた。
お陰でジョブレベルが一気に五にまで上がったが、一人では使い切ることは難しい。
ポーションにだって消費期限はあるので、新鮮な内にいくつかは売っておこうという算段だ。
とはいえ、ポーションというのは錬金術師しか作り出すことのできないアイテム。
錬金術師の固有職を持っているわけでもない者が売り込んでも、怪しまれるのは確実だろう。
そんな問題を乗り越えられる店を、俺は昨日の市場散策で見つけたのである。
大賑わいしている市場の通りから脇道にそれて進むことしばらく。
人の流れが緩やかなところに、小さなお店があった。
リゼル雑貨店と書かれており、店内には雑多な商品が置かれているのが見えた。
その中で注目するべきところは外看板に書かれている売り文句である。
『鑑定士います。素材やアイテムを鑑定し、適正な価格で買い取ります』
そう。ここには鑑定士の固有職を持った者がいるのだ。
鑑定士に鑑定してもらえれば、俺の作ったものがしっかりとした治癒ポーションだと理解してくれるだろう。
品質のいい現物があれば、変に疑われたり、門前払いされることはないだろう。
そんなわけで早速俺は店へ入ってみる。
扉を開けると、チリンチリンという涼やかな鐘の音が鳴った。
店内にはイス、テーブル、食器、衣服、小物、リュック、細工物とジャンルに問わず多彩な商品が並べられておる。
ジャンルにはこだわっておらず、まさに雑貨店というようなラインナップであった。
「いらっしゃーい」
中を見て回ると、奥のテーブルで金色の髪をしたツインテールの少女が気だるげな声を上げた。
整った顔立ちに葉っぱのような形をした耳は、エルフ族の証だ。
しかし、整った美貌もテーブルに突っ伏して、気だるげな目をしていては台無しだった。
閑散としている店内から察するに、あまり儲かっていないのかもしれないな。
「すみません。買い取りをお願いしたいのですが……」
「買い取り? 何を売りたいの?」
「ランク1の治癒ポーションです」
買い取ってほしい品物を告げると、期待に満ちていたエルフの少女はあからさまにげんなりとしたものになった。
「あのねえ、外の看板見てなかった? あたしは鑑定士の固有職を持ってるの。だから、偽物のポーションを売りつけようったって無駄よ」
「偽物を売りつけるつもりはありませんよ」
「嘘言わないで。だって、あなた魔法使いでしょ? レベルの割りにステータスはなんかバカ高いけど、高ランクってわけでもない。そんな人が治癒ポーションを売りにくるわけないわ」
やる気がないような態度をしていたが、きっちりと鑑定をしていたらしい。
ポーションを買い取ってもらうには錬金術師に転職するのが一番であるが、既に魔法使いとして噂が広まっているからやりづらい。
「では、ポーションの方も鑑定してもらえませんか? 偽物なのかどうか」
「そんなの偽物に決まってーー」
溜め息を吐いていたエルフだが、俺が治癒ポーションを見せるなり顔色を変えた。
「え? 本物? しかも十本とも? どれもかなり品質がいいじゃない!」
鑑定でしっかりと本物の治癒ポーションだとわかったのか、凝視していたエルフが驚きの声を上げた。
「本物の治癒ポーションだとわかってもらえましたか?」
「え、ええ。疑ってごめんなさい。あなたの持ち込んだ治癒ポーションは本物みたいね」
呆然としていたエルフだが、我に返るとぺこりと頭を下げて謝罪した。
「では、買い取っていただけますか?」
「買い取りたいのは山々だけど、あたしの店じゃこれだけの数を買い取るだけのお金はないわ。この品質のポーションだと一本十万ゴルからが相場だもの」
「でしたら、一本八万ゴルの買い取りでいかがです?」
「ええ? それなら何とか買い取れるけど、他のお店に持ち込んだ方がよっぽど高く売れるわよ?」
「鑑定士である、あなたと取引きをした方が、面倒は少なさそうなので」
俺は世の中に出回っているポーションの値段が不当だとか、義憤に駆られたりしているわけではない。自分が生きていくのに必要なお金を稼ぎたいだけだ。
「その代わり、出処については詮索しないってことね?」
「話が早くて助かります」
面倒なやり取りや手続きはやりたくない。
俺はポーションを売るだけで大金を手に入れ、このエルフが上手く流して儲ける。
どちらにとってもWINWINな関係だ。
「乗ったわ! あたしの名前はリゼル! よろしくね!」
「ツカサといいます。よろしくお願いします」
リゼルの差し出した手を握り込み、ここで契約は成立となった。
昨日出会った錬金術師があんな男だったので、ちょっと不安だったがこのエルフとは上手く付き合っていけそうだ。
「ツカサのポーションは、あたしが買い取ってあげるわ。また手に入れたなら遠慮なく持ってきなさい」
「本当ですか? 実は魔力回復ポーションを含め、五十本ほど残っているんですが……」
「ごめんなさい。買い取れるだけのお金がないから、そっちはもうちょっとだけ待って……」
こうして俺はリゼルにランク1の治癒ポーションを買い取ってもらい、八十万ゴルものお金を稼ぐことができた。
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