表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/40

ランクアップ



 レッドボアとコボルトの討伐を終えた俺は、冒険者ギルドに戻ってきた。


「レッドボアとコボルトの討伐を確認しました。おめでとうございます。これでツカサさんはEランクに昇格です」


 討伐証明である素材を提出すると、ルイサがそのように言ってくれた。


「ありがとうございます」


「軽いですツカサさん! このギルドに登録して五日もしないうちにランクアップされたのは、ツカサさんが初めてなんですよ!? ものすごい快挙なんです!」


 ぺこりと頭を下げて礼を言うと、ルイサが大きな声で言ってくる。


 かなり興奮してるのか、大きく身を乗り出しており顔が近い。


「固有職を持っていれば、別に珍しいものではないのでは……?」


 早速、Eランクになれたことは嬉しいが、下から二つ目のランクだ。


 大喜びするのはなんか違うと思った。


「固有職を持っているからといって、速やかに依頼をこなせるわけではないんですよ? 他の支部の最短昇格記録でも十日はかかっているんです」


「そうなんですね」


「そうなんです!」


 ふむ、様々な固有職の力を使って、圧倒的な功績を叩き出した俺だからこそ、異例の昇格速度のようだ。確かに剣士の固有職を持っていても、薬草採取や清掃なんかに活きてくるわけでもないしな。


 FランクからEランクの一般的な昇格速度がどのようなものか知らないので、実感が湧かないがルイサの熱弁具合からなんとなくすごいことはわかった。


「とはいえ、まだEランクになり立てなので。これからも精進して、Dランクを目指していこうと思います」


「相変わらずツカサさんは謙虚ですね」


 そんな俺の言葉を聞いて、ルイサが柔らかな笑みを浮かべる。


 謙虚に言っているが、心の中では満足していない。


 もっとレベルを上げて、ステータスを上げるんだ。


 より多くのジョブを極めて、キャリアアップを目指す。


 Eランクなどはじめの一歩に過ぎない。遥か高みであるSランクを目指すんだ。


「Eランクからは討伐依頼も増えますので、お金が貯まりましたら魔力回復ポーションや治癒ポーションなどの常備をオススメしますよ」


 などと熱い思いを秘めていると、ルイサがサラッと重要なことを言った。


 ポーション。錬金術師が作り出す魔法のアイテムで、飲むだけで魔力を回復したり、傷を癒すことができる。


 簡単な依頼ばかりこなしていたので、今まではあまり必要としていなかったが、これからの活動を考えると持っていた方がいいだろう。


 僧侶に転職すれば、自分の傷を癒すことはできるが、戦闘では相手がそんな時間をくれるかがわからない。


 ルイサの言う通り、保険として持っておいた方がいいな。


 錬金術士に転職すれば自分で作れるだろうが、勉強のために現物を見るのはアリだ。


「それはどの辺りで販売されていますか?」


「冒険者ギルドを出て、大通りを真っすぐに北上したところに錬金術師の経営するポーション屋がありますよ」


「もしかして、固有職をお持ちの方ですか?」


「ええ。まあ、はい。ポーション作りの技術は確かな方ですよ」


 おお! この世界にやってきて初めて固有職を持っている人の情報を聞いた。


 後学のために親交を深めたい気持ちはあるが、どうにもルイサの歯切れが悪い。


 固有職は鼻もちならない者が多いと聞いたけど、もしかして性格に難があるのだろうか。


 まあ、その辺りは会ってみないとわからない。


 ルイサから簡単な地図を貰った俺は、早速ポーション屋に向かってみることにした。




 ●




 地図を頼りに北上してみると、ルイサの言っていたポーション屋らしきものを見つけた。


「うわあ……」


 店舗を見上げた瞬間、思わずそんな声が漏れてしまった。


 区画の一画だけ明らかに建物の質が違うのである。


 大きなガラスが張られており、店内は大理石で造られている。


 それだけならまだしも、店内の至るところに金の装飾や像が飾られているのだ。


 悪趣味としか言いようがなかった。


 それでもここにポーションがあるのであれば、確認する他ない。


 店内に入ると、いくつものガラスケースが並んでいた。


「なんだか宝石店みたいだな」


 ケースの中にはたくさんの液体の入った瓶が陳列されている。


 恐らくこれがポーションなのだろう。


 説明書きを見てみると、翡翠色の液体をしたものが治癒ポーションのようだ。


 右から順番にランク1,2,3と並んでおり、数字が上がるにつれて濃度が上がっている。


 ランク1は多少の傷や骨折まで治せる。


 ランク2は複雑骨折、中程度の怪我なんかを治せる。


 ランク3は大きな怪我や切断された手足なんかを修復できる。


 なんとも治せる基準が曖昧だが、ランクが上がるごとに効果が劇的に上がるみたいだ。


「ランク1のポーションで金貨10枚!? 高っ!」


 治癒ポーションの値段の高さに思わず、そんな声が漏れてしまった。


 ランク2になると金貨三十枚。ランク3になると金貨五十枚。


 保険と勉強のために持っておこうくらいの気分でいたがとんでもない。十分に財産になるような値段だ。


 薬草採取で荒稼ぎできた俺でも全財産は金貨十四枚ほど。ランク1の治癒ポーションをやっとこさ買えるレベルだった。


 あれだけ稼いだ俺でこの状態というわけなら、普通のFランク、Eランク冒険者ではランク1すら買うのは難しいだろうな。


「うちのポーションに何か不満でも……?」


 俺の声が聞こえてしまったのだろう。


 髭を生やした恰幅のいい男性が近づいてくる。


 俺の言葉を聞いて、不満という態度を前面に押し出してくる。


「すみません。Eランクになって、はじめてポーションを見にきたもので、値段に驚いてしまいました」


「フン、これだから低ランクの冒険者は困るのだ。原材料だってタダではないのだ。希少な素材を集め、錬金術師である我輩、自らが調合してやっているんだ。そこそこの値段はして当然だろう? むしろ、良心的な値段設定をしている我輩に感謝してほしいものだ」


 失言を謝罪したが、店員は侮蔑の視線を向けながら憤慨した。


 謝罪しているのにそこまでの言葉を飛ばしてくるのか。なんだか嫌な奴だ。


 というか、コイツが【錬金術師】の固有職を持っているのか。


 その後も錬金術士の男は、自らがどれだけ立派であることを主張してきたので、俺は社会人として培ってきたスルースキルを発動すると、ある程度満足したのか去っていった。


 固有職のタメになる話は欠片もなかったな。


 俺と同じ固有職持ちということで軽く話をしてみたいと考えていたが、さっきの言葉を聞くとまったく仲良くしてみたいとは思えなかった。


 これが固有職持ちの一般的なイメージだとすると、エスタやルイサが微妙な顔をしていたことにも頷けるものだ。


 錬金術師の男がいなくなると、俺は再びポーションを眺める。


 翡翠色をした瓶の他に水色の液体が入ったポーションがある。


 こちらは魔力回復ポーションのようだ。治癒ポーションと同じようにランク分けがされているが、こちらはべらぼうに高いというわけでもなかった。


 さすがに命を救うポーションと魔力を回復させるポーションは同列にはできないと考えたのだろう。こういうちょっと賢い塩梅を攻めているところにちょっと腹が立つな。


 その他に眺めてみると、力のポーション、俊敏のポーションといった一部のステータス値を一時的に引き上げることのできるポーションや、水中呼吸ポーション、暗視ポーション、爆破ポーションなどの補助となり得るポーションもあった。


 想像以上にポーションの種類が豊富で驚きだ。


 そういったポーションも気になるが、やはり一筋縄ではいかない値段だ。


 転職して固有職を切り替えることのできる俺のことを考えると、やはり優先度が高いのは治癒ポーションや魔力回復ポーションだ。


 しかし、それらはかなり高い。


 この先、装備だって揃えたいし、色々と入用になってくる。


 ここでほぼ全財産を使い込んでランク1の治癒ポーションを買うのはかなりリスキーだった。何かあった時に一気に生活が苦しくなりかねない。


 お金で買うには高いとなれば、やはり俺自身が錬金術師となって自作するしかないな。


 俺はポーションの原料を調べるため、槍使いから鑑定士へと転職。


 そして、目の前で展示されているランク1の治癒ポーションを鑑定。



『治癒ポーション ランク1』

 ドズル薬草、魔力水、ベースハーブを調合し、ガラス瓶に封入することでできる。

 原価は二千ゴル。


 めちゃくちゃ安く作れるじゃないか! 


 でも、それができるのは固有職を持った錬金術師だけ。固有職を持っていない者がごねたとしても、文句があるなら買うなと言うだけ。


 それがわかっているから、あの錬金術師は強気な値段で販売しているのだろう。


 きっと他の店でも同じような値段なのだろう。


 錬金術師に転職すれば、ジョブレベルが一でもランク1のポーションが作れる。


 だったら、お店で買うより自分で作ってしまう方がよっぽどいいな。


 素材を集める手間や多少の道具の準備するコストを考えても、金貨十枚より遥かに安くつく。


 それがわかったのであれば、もうこんなお店に用はない。


 俺は何も買わずに、ポーション屋を出ることにした。







『面白い』『続きが気になる』と思われましたら、ブックマーク登録をお願いします。

本作を評価していただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちら新作になります。よろしければ下記タイトルからどうぞ↓

『異世界ではじめるキャンピングカー生活~固有スキル【車両召喚】は有用だった~』

― 新着の感想 ―
[一言] 主人公が集めた薬草は、全部この店に安値で売られて、ボッタクリポーションに化けるのか。 この店をボロ儲けさせるために主人公が薬草採ったようなものだなー。
[気になる点] 現代人感覚だと骨折を10万、複雑骨折を30万、欠損を50万ですぐ治せるって安いと思うんじゃないかなあ 特に欠損50万とか
[一言] 一気読み完了! 面白かったので続きも期待して待ってます!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ