ランクアップのための依頼
すみません、10話の虎猫亭のシーンが抜けてました。
大きくストーリーには影響しませんが、お手数ですが読んでいただけますと幸いです。
コボルトとレッドボアの討伐依頼を受けた俺は、再びラッセルの近くにある森にやってきた。
薬草採取で頻繁に出入りした浅い地点は既に越えている。ここから先はいつ魔物と遭遇してもおかしくない場所になる。
とはいえ、魔物を討伐するのは初めてではない。
この世界に飛ばされて謎のカマキリの魔物に襲われているし、集落ではシルバーウルフを、道中でもいくつかの魔物を討伐してきた。
その点を考えると、俺は既に初心者冒険者という枠組みを越えているのかもしれないな。
コボルトとレッドボアはどちらも比較的遭遇しやすい魔物と聞いた。
さて、どちらが先に見つかるか。
「はっ、いけない。すっかり薬草を採取していた」
などと魔物を捜索していたが、薬師になってひたすら薬草を採取していた影響で無意識に採取をしていた。
討伐依頼として並行して、採取をこなすのは冒険者として鉄板の稼ぎ方だが、今回はランクアップのかかった大事な討伐依頼だ。
非常に気にはなるが、今は討伐に集中することにしよう。
断腸の思いで視界に映るドズル薬草の採取を切り上げる。
その瞬間、後方にある茂みがガサリと音を立てた。
振り返ると、茂みからは真っ赤な体表に鋭い牙を生やした猪が一匹いた。
もしかして、レッドボアだろうか?
「鑑定」
レッドボア
LV4
HP 48
MP 12/12
STR 26
INT 10
AGI 24
DEX 19
鑑定士に転職して、ステータスを覗き見る。
すると、予想通り討伐目的であるレッドボアだった。
今朝、虎猫亭でボアのステーキを食べたのだが、もしかしてコイツの肉だったりするのだろうか? などという思考がよぎったが、今はどうでもいいので脳から追い出す。
ルイサが説明してくれた通りのレベルだな。
全体的なステータスはシルバーウルフと似たようなもの。
HPやSTRがちょっと高めなくらいだ。どれも俺のステータスよりも大幅に下回っている。
だからといって油断していいわけではない。ステータスに差があろうとも凶悪な牙に貫かれてしまえば、致命傷を負う可能性だってあるからな。
なんて考えていると、こちらの姿を視認したレッドボアが足で地面をかく動作した。
明らかに突進のための前動作。
「岩槍」
俺はすぐに鑑定士から魔法使いに転職を果たし、土魔法を放った。
すると、こちらに向かって突進をしてきたレッドボアの頭部に突き刺さる。
急所である頭を貫かれたレッドボアは、バランスを崩して倒れた。
「問題なく倒せたな」
討伐証明であり、売却値が高い牙を二本もぎ取ると、次のレッドボアを求めて歩く。
すると、すぐに二匹のレッドボアを見つけた。
こちらは番なのかこちらを見つけるなり、息を合わせたように二方向から突進してくる。
近接職なら一度攻撃を躱して反撃の隙を伺うところであるが、魔法使いには必要ない。
二方向の土を杭のように隆起させて、レッドボアをまとめて始末した。
レッドボアは直進的な突進を得意とする魔物だ。
こちらに向かって一直線にやってきてくれるのであれば、そこに合わせて魔法を飛ばせばいいだけだ。
照準をつける必要も躱されることもないので、魔法を放つのに神経を使わずに済む。
機動力の高いシルバーウルフよりもSTRとDEXが高いレッドボアであるが、それを容易に突破できる分、圧倒的に楽な相手だった。
そんな感じで残りの二匹も見つけて同じように魔法で討伐した。
「これでレッドボアの討伐依頼はクリアだな」
討伐証明である牙を採取しながらひとりごちる。
すると、頭の中でレベルアップの音が鳴り響いた。
名前 アマシキ ツカサ
LV9
種族 人族
性別 男
職業【魔法使い(転職師)】
ジョブLV6
HP 91
MP 750/795
STR 68
INT 92
AGI 68
DEX 42
ステータスを確認すると、レベルと魔法使いジョブレベルがアップしていた。
固有職になっている場合は、通常のステータスの上昇値は大きかったが、ジョブレベルも上がるとさらに恩恵は増すようだ。
いつもよりもMPとINTの上昇が大きいように感じられる。
順調にレベルとジョブレベルが上がってきている。
にしても、自らの能力が数値化され、目に見えて向上しているのがわかるっていうのはいいな。
色々な資格や経歴を並べるよりも、よっぽどシンプルでわかりやすい。
「よし、レッドボアの次はコボルトだな」
一つの討伐依頼を達成した俺は、次の討伐依頼をこなすべく動き出した。
●
コボルトはレッドボアと違い、森の少し奥まった場所にいる。
鬱蒼とした木々が増え、野道が増えだしたところでそれらしい魔物を三匹見つけた。
身長は百二十センチほどで、手には槍を所持している。
一見して人型の犬が歩き回っていて可愛らしく思えるが、隆起した筋肉やぎらついた視線を見るとまったく可愛さを感じないな。
コボルト
LV4
HP 27
MP 8/8
STR 28
INT 12
AGI 22
DEX 17
鑑定してステータスを覗き見ると、やはりコボルトだった。
特に特筆すべきステータスはない。
しかし、相手ははじめての人型であり、武器を手にしている。
それに三匹で固まっている様子から、ある程度連携するだけの知能を備えているとわかる。
シルバーウルフやレッドボアのような単純な獣と思ってかかると、痛い目を見るので注意が必要だな。
よし、相手はこちらに気付いている様子はない。
魔法使いに転職し、魔法を放って一気に先手を取ろう。
そう考えた俺だが、ふと自らのステータスの偏りが気になった。
それもそうだ。今の俺は戦闘の時に魔法使いを多用している。レベルアップ時に加算されるステータスが固有職に左右されるのであれば、魔法使いに最適化されたステータスになるのは当然だ。悪い結果ではない。
しかし、俺は転職師だ。
一つの固有職に固執する必要はなく、臨機応変に固有職を使い分けて戦えるのが強み。
魔法使いばかり使ったせいで、前衛職に転職した時に力が発揮できないというのは困る。
それに一度転職して獲得した能力やスキルは、違う固有職に転職しても引き継がれるシステムだ。
切り札は少しでも多い方がいい。
できるだけ多くの固有職に触れておくのがいいだろう。
ゲームでは均等にステータスを上げたり、職業を上げるのは悪手とされるが、転職師や継承されるスキルを考えると例外になるだろう。
どうせ最終的にはすべてのジョブを極めるつもりだ。今のうちに新しい固有職に慣れておいて損はない。
幸いにして相手はおあつらえ向けに武器を持っている。まずはそれを奪わせてもらおう。
「転職、【盗賊】」
盗賊は隠密や罠の設置、解除などを得意とする固有職だ。
剣士などの前衛職に比べると、火力こそ低いものの手先がとても器用になり、スタン攻撃などを繰り出して相手の動きを止めることができる。所謂補助寄りの前衛職だ。
その中でもっとも凶悪なのはその名を表すスキルにならない。
パッシブスキルの忍び足を利用し、相手に悟られないように距離を詰める。
「窃盗!」
コボルトの死角に回った俺は、手をかざして盗賊のスキルを放った。
すると、コボルトの手にあった木の槍が、俺の手に収まっていた。
「ガウウ!?」
手にしていた槍を奪われてしまったコボルトは激しく動揺していた。
つい先程手にしていた装備が急になくなってしまったのだ。驚くのは当然だろう。
これが盗賊の代名詞といえるスキルだ。
相手の装備を奪うことができる。
何を奪えるかはランダムではあるし、失敗することもあるが、気付かれずに発動すると成功率は大幅に上がるのだ。
まあ、俺とコボルトのレベル差を考えれば、真正面からでも成功するのは当然だな。
とはいえ、盗賊は短剣や鞭を得意とするだけで、そこまで槍の扱いが得意というわけではない。
そういうわけで槍を奪った俺は、それを得意とする専門職に転職することにした。
「転職、【槍使い】」
槍使いは高い白兵戦の技術と、卓越した槍さばきを持ち味とした固有職だ。
槍など手にしたことのなかった俺だが、転職した瞬間にまるで手足の一部のように感じられた。
試しに回してみると、意のままに動く。どれくらいの重さをしており、どのように傾ければ重心がずれて動いてくれるのか手に取るようにわかった。
「よし、いける」
槍の感触を確かめた俺は、コボルトたちのところに一気に飛び込んだ。
槍をなくしてうろたえているコボルトの喉に一突き。
喉を貫かれたコボルトは何が起きたかもわからないというように目を見開き、血を流して崩れ落ちた。
襲撃を受けたと理解した二匹のコボルトが、左右から槍を手にして襲い掛かってくる。
俺はコボルトから槍を一気に引き抜くと、コボルトの攻撃を槍で防ぐ。
槍で弾き、流し、槍を起点にして身体を動かして躱す。
槍使いになったからこそわかる。コボルトたちの槍の使い方はまるでなっていない。
基本的ともいえる槍の握り方、使い方、足さばき、それらのすべてがダメダメだ。
ただ長い得物を振り回しているだけ。槍の長所をまったく活かせていない。
槍使いになって槍の扱いがわかるからこそ、稚拙な槍の扱いにモヤモヤとする。
「槍っていうのは、こうやって使うんだ!」
不満を爆発させるように叫び、遠心力を利用した殴打をコボルトの首に。
ゴキリという骨の感触を感じながらも、そのままエネルギーを殺さないように反対側のコボルトの足を払う。
足元をすくわれて宙に浮いた隙だらけのコボルトに、俺は上段からの振り下ろしを叩き込んだ。二匹のコボルトはピクリとも動くことはない。
討伐を確信した俺は討伐報酬の牙を剥ぎ取った。
コボルトの肉は食べられるわけでもなく、目ぼしい売却素材もないのでそれ以上の剥ぎ取りはしない。
俺は槍使いのまま森の中を探索し、続けて二匹のコボルトを討伐。
こうして俺はギルドでのはじめての討伐依頼を達成するのであった。
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