薬草採取の成果
「お帰りなさいませ、ツカサさん。ドズル薬草は採取できましたか?」
「はい、今採取したものを納品しますね」
ラッセルの冒険者ギルドに戻ってきた俺は、午前中に採取したドズル薬草の成果を見せることにした。
カウンターの上に大きな袋をドンと置くと、ルイサが目を丸くした。
「あのツカサさん?」
「ここにドズル薬草が二百本ほど入っています」
「いや、さすがに午前中だけで不可能では……」
「確認してみてください」
「か、かしこまりました」
ルイサが疑念のある顔をしながら袋を開けてドズル薬草を一本ずつ確認していく。
さすがに量が多いせいか、他の職員も一緒に確認してくれた。
「二百六本、すべてドズル薬草……ですね」
集計が終わると、ルイサが愕然としたように呟いた。
手伝っていた職員も目を見開いて驚いている。
「そうですか。それは良かった」
「ええ? こんな短時間で一体どうやったのですか?」
固有職持ちとはいえ、魔法使いでは到底無理な数だ。
ルイサが思わず尋ねてしまうのも無理はない。
とはいえ、転職師のことを話すわけにもいかない。
「辺境の薬師に厳しい教えを受けまして、薬草採取は得意なんです」
「薬師に教えを……? それならばあり得るのでしょうか?」
ルイサは固有職の方の薬師だと思い込んでいるみたいだが、ゲルダは固有職持ちではない。
が、信憑性を上げる意味では勘違いしてくれた方が好都合だ。
俺は特に否定はせずににっこりと笑った。
しばらくはブツブツと漏らしていたルイサであるが、近くにいる職員に小突かれて我に返る。
「すみません、取り乱してしまって。規定量の採取が確認できました。依頼は達成となります。残りの百九十六本もまとめて売却されますか?」
「はい。売却でお願いします」
ドズル薬草は一本五十ゴル×二百六となると、全部で一万三百ゴルか。
そこに達成報酬の二百ゴルがプラスされて一万五百ゴル。
Fランク冒険者の午前中だけの稼ぎと考えると、かなり破格だろう。
他にも並行して薬草採取を受けて、大量に採取していけばもっと効率的に稼げる。
薬草採取の依頼だけで十分に生活していけるレベルだな。
ルイサから金貨一枚と銅貨五枚を受け取ると懐に仕舞う。
薬師の固有職があるからとゲルダに散々こき使われ、心の中で悪態をついたこともあったが、お陰でかなりの稼ぎを叩き出すことができた。
これもゲルダのお陰だ。
彼女の言っていた通り、薬師のジョブレベルを上げることは無駄ではなかったな。
心の中で俺はゲルダに感謝する。
薬師のお陰で思っていた以上にドズル薬草の採取が早く終わってしまった。
まだまだ仕事をやる時間はあるな。
報酬を受け取った俺は掲示板へと移動する。
早朝は混雑していたがこの時間になると混雑していない。
『キリク草の採取依頼』
『スベールの採取依頼』
じっくりと眺めると、ゲルダに教えてもらった薬草の採取依頼があった。
キリク草は解毒薬や解毒ポーションの材料になる解毒草で、スベールは非常に使い勝手のいいハーブだ。若葉なんかはサラダやスープに使えるし、お茶にも使える。
どちらも使い勝手のいい薬草らしく、随時買い取りを受け付けているようだ。
「よし、これにしよう」
薬草の採取依頼を引っぺがすと、俺はルイサのところに持っていく。
「こちらの採取依頼をお願いします」
「もしかして、これらの薬草も大量に採取するおつもりで?」
「はい。色々と入用なものですから」
爽やかにそう答えると、ルイサは引きつった表情を浮かべながら受注の手続きを進める。
討伐依頼を受けてレベルやジョブレベルを上げるのも先決であるが、まずはお金が大事だからな。
その日はキリク草を二百五十本、スベールを百八三本ほど採取して、冒険者一日目の生活は幕を閉じた。
●
「ツカサさん、そろそろ討伐依頼を受けてみませんか?」
「へ?」
薬師による薬草感知スキルを駆使し、採取依頼をこなすこと四日。
ドズル薬草とキリク草、スベールの集計を終えたルイサが、そのようなことを申し出てきた。
「でも、最初はこういった採取依頼からこなしていくのがいいんじゃないですか?」
登録した時に、ルイサは固有職であろうとも地道に採取依頼や、お使いなどをこなしてステップアップすることを勧めていた。
それなのにたった四日でいきなり討伐依頼を勧めてくるとは、どんな心境な変化だろう。
「普通の冒険者ならそうなのですが、ツカサさんは明らかに異常です! なんですか! 半日で何百本もの薬草を採取してくるFランク冒険者なんて聞いたことがないですよ!」
「そうなのですか?」
「そうなんです!」
小首を傾げると、ルイサがバンッとテーブルを強く叩きながら言った。
ルイサの思わぬ大声に職員や冒険者から注目が集まる。
ルイサはハッと我に返ると、澄ました声で「失礼しました」と一礼をした。
さすがはギルド職員。立ち直りも早かった。
「討伐依頼と言いますが、ラッセルでは薬草が不足しているのではなかったのですか?」
薬草採取によるお金稼ぎにすっかりとハマってしまった俺としては、突然討伐をしろと言われても
気乗りしない。
薬師になって黙々と採取を続けるのも意外と楽しいのだ。
「……ツカサさんのお陰ですっかりと満ち足りました。その件については、とても感謝しています。しかし、ツカサさんがただのFランク冒険者ではないことは明らかです。実力のある者をくすぶらせておくのをギルドは良しとしません。ランクアップのために討伐依頼をこなしませんか?」
などと思っていたが、ルイサの言葉に俺は大きく目を見開いた。
「ランクアップ!? もしかして、討伐依頼をこなせばランクが上がるのでしょうか?」
「はい。ツカサさんは固有職をお持ちですし、薬草採取の功績から、いくつかの討伐依頼をこなせば昇格させても問題ないとギルドは判断しています」
「受けます! 討伐依頼!」
キャリアアップが約束されているのだ。
採取依頼にハマっているとはいえ、討伐依頼を渋るわけがない。
すぐに昇格できるのであれば、どのような魔物が相手でも駆逐してみせよう。
「あ、ありがとうございます」
ジョブホッパーとしての性にすっかり火が付いてしまった。
そんな急変した俺の反応を見て、ルイサがちょっと引いた顔をしている。
いけない。重要な仕事の時こそ落ち着くことが大事だ。過去にそれで何度か足元をすくわれている。あの時のような悔しい思いは二度としてはならない。
俺は過去の屈辱を思い出し、深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。
「それで、どの討伐依頼を受ければいいのでしょう?」
「コボルトの討伐依頼とレッドボアの討伐です」
ルイサから二枚の依頼書を提示される。
確認してみると、どちらも標準レベル五程度。
俺のレベルはすでに八だし、固有職の力もあるので問題ないだろう。
達成条件はどちらも五匹ずつだ。
「では、二つとも受注をお願いします」
「いきなり二つですか!? いや、魔法使いのツカサさんなら問題ないですね。くれぐれも気を付けてください」
Eランクへの昇格をかけた討伐依頼を二つとも受注すると、俺は冒険者ギルドを出た。
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