薬師の解放スキル
日刊総合ランキング1位です。
今年もよろしくお願いします。
翌朝、虎猫亭で朝食を食べるために一階にある食堂へと向かう。
食堂にやってくると滞在客らしき人たちが、自由に席について朝食を食べていた。
「ツカサ、おはよう!」
「おはよう、ノーラ」
給仕をしているノーラと朝の挨拶を交わす。
ビジネス以外でこうやってフレンドリーに挨拶をするのは、随分久し振りなような気がした。
「昨日はよく眠れた?」
「ああ、お陰様でぐっすりと」
昨晩は風呂帰りに屋台の食事を食べて帰り、そのままベッドに入って眠ってしまった。
思っていた以上に旅の疲れが溜まっていたようだ。
「よかった。朝食はなに食べる? オススメはボアステーキだよ」
「じゃあ、それで」
正直、異世界の料理はわからないものばかりだ。
色々と考えて悩むより、従業員であるノーラのオススメに従った方が良いだろう。
そんなわけで脳死でノーラのオススメを頼み、食事代として三百ゴルを支払う。
「毎度あり! お父さん、ボアステーキ一つ!」
「ああ」
ノーラが声を上げると、厨房から低い声が響く。
視線を向けてみると、そこには大柄な体格をした獣人がいた。
タイプからするとライオンなのだろう。金色の荒々しいたてがみのような髪が特徴的だ。
他に給仕している女性を見ると、そちらはノーラと同じく可愛らしい猫耳をしている女性だった。あちらが母親なのだろう。
なるほど。『虎猫亭』というのは、ライオン系である父と猫系である母とノーラのことを指しているのか。
そう考えると、宿の名前もしっくりとくるしわかりやすい。
何となく『虎猫亭』に親しみを覚えた瞬間だった。
「はい、お待たせ! ボアステーキだよ! 鉄板が熱いから気をつけて!」
なんて考えていると、ノーラが朝食を運んできた。
鉄板の上で大きなステーキが鎮座しており、じゅうじゅうと音を立てていた。
サイドメニューとしてサラダとパン、野菜スープも付いている。
ボアステーキなので多分猪系の肉なのだろう。思っていたよりもボリューミーだ。
というか、割と重そうなのに小さなノーラはよく運べるな。
などと感心していると、両手に一つずつ持って違う客にも配膳していた。
幼くても立派に獣人というわけか。
「さて、いただくとするか」
ステーキは熱いうちに食べるのが一番だ。
ナイフで一口サイズに切り分けると、フォークで熱々のボアステーキを頬張る。
口の中に広がる圧倒的な肉の旨みと脂身。
猪肉のような味をしているが臭みはほとんどない。
味付けは塩、胡椒、ハーブと単純であるが、それ故に純粋に肉の旨みを感じられた。
料理人の腕がいいのだろう。
前の年齢なら胃もたれすること間違いなしだが、若返った影響か朝のステーキでも問題なく完食することができた。これが若さというものか。
●
虎猫亭で朝食を食べると、俺は冒険者ギルドにやってきた。
すると、朝から掲示板の前で冒険者が激しい依頼の取り合いをしていた。
「なんだこれは……」
「依頼書が張り出されるのは早朝ですから、この時間帯は特に混み合うんですよ」
想像以上に混雑具合に愕然としていると、昨日受付を担当してくれたルイサが苦笑しながら教えてくれた。
「依頼書を巡って殴り合いとかになってますが大丈夫なんです……?」
「いつものことですから」
乱闘騒ぎかと勘違いしそうになるほどの暴言と拳が飛び交っているが、ルイサは特に気にした様子はなくお淑やかに笑っていた。
あれくらいの暴力は日常茶飯事ということだろう。
荒くれものたちの対応をしているだけあって、ルイサの肝も据わっている。
「よろしかったらこちらの依頼を受けてみますか?」
罵り声が飛び交っている人混みに入っていくことにげんなりしていると、ルイサが一枚の依頼書を見せてきた。
「ああ、ドズル薬草の採取ですか」
シルバーウルフを退治する途中で見つけて採取したものと同じものだ。
どうやらこの辺りでも生えているらしい。
「ご存知でしたか?」
「はい、ここにやってくる途中で採取したことがあるので。これならやりやすいので受注します」
ちょうど薬師で試してみたいスキルがあったので悪くない。
「本当ですか! 助かります! すぐに手続きをさせていただきますね!」
受注することを告げると、ルイサが嬉しそうな声を上げた。
「もしかして、ドズル薬草が不足していたりします?」
「需要は高いのですが、そこまで見つけやすいという薬草でもないので不足しがちなんですよ。こうやって職員が配っている依頼は、ギルド的に消化して欲しい依頼だったりします……」
周りを見ていると、冒険者に依頼を勧めている職員がいた。
しつこく勧誘したり、脅しているような感じはまったくない。冒険者が嫌がればすんなりと引いている。
まあ、依頼に悩んでいたり、争奪戦に混ざりたくない場合は、ああいった一押しがあれば受けやすいのも確かだな。
「では、できるだけ多く採取してきます」
「ギルドとしては大変助かりますが、ツカサさんは固有職持ちとはいえ登録したばかりです。身の安全を第一にお願いしますね」
「はい。それでは行ってきます」
手続きを済ませると、俺はギルドを出てラッセルの近くにある森に向かった。
ラッセルの近くの森は、集落よりも木々が低いお陰で全体がすごく見やすい。
鬱蒼とした辺境の森を経験した俺にとっては、そこまで不便に感じない環境だった。
今の固有職は魔法使いだが、狩人になるまでもないだろう。
ドズル薬草は森の比較的浅い位置に生えている。この辺りであれば、あまり魔物は出現しないので安全だそうだ。とはいえ、外で絶対の安全なんてないことは言うまでもないだろう。
一応、周囲に魔物がいないか確認しつつ、森の中を歩いていく。
すると、程なくしてドズル薬草を見つけた。
念のために鑑定してみるも、間違いなくドズル薬草だった。
一本で五十ゴル。十本採取すれば依頼は達成だ。達成報酬として二百ゴルがプラスされるが、それだけではたった七百ゴル。虎猫亭の一日分の宿賃を稼ぐくらいが精々だ。
そう考えると、Fランク冒険者というのはまるで稼ぎにはならない。
今の俺にはエスタやジゼルからの報酬のお陰で多少はゆとりがある。
とはいえ、貯金を崩す生活というのは中々にストレスだ。
一度で通常以上の稼ぎを叩き出すか、一刻も早いランクアップが求められるな。
そのために使えるのが固有職の力だ。
「転職、【薬師】」
俺は転職師の力を使って、数ある固有職の中から薬師を選択した。
薬師としての初期スキルは薬効効果の上昇、薬作成能力だったのだが、ジョブレベルが十に到達した瞬間に新しいスキルが解放されたのだ。
「薬草感知」
手に入れたばかりのスキルを発動してみると、体内の魔力がソナーのように放たれた。
すると、視界の中でところどころ赤いシルエットが確認できた。
近寄って確認してみると、それはドズル薬草だった。
薬師であるために鑑定するまでもなくわかる。
念のために二個目、三個目と確認してみると、どちらもドズル薬草だった。
「なるほど。これは採取したことのある植物を効率的に見つけ出せるスキルなのか」
ステータスウインドウを開いて、スキルを確認してみると俺の推測通りだった。
ソナーとして魔力を放った範囲内の植物を感知できる。
ただし、採取したことのない植物なんかは感知することができないらしい。
試しにゲルダに教えてもらった他の薬草なんかで薬草感知を行ってみたが、反応はまるでなかった。他にも魔物や植物とは関係ない素材なんかは感知することはできないようだ。
感知範囲はソナーとして飛ばす魔力量や薬師のジョブレベル、INTによって変動するらしい。
「これがあれば薬草採取の依頼は無敵だな!」
俺は薬草感知を使って、次々とドズル薬草を採取していく。
他の雑草や薬草に紛れるように生えているものや、木の裏などの死角にあるものでも薬草感知があれば見つけ放題だ。
俺は次々とドズル薬草を見つけ、採取していくのだった。
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