川上(のぼ)りとはなんぞや?
川下りに川上り。
「向こうからやって来る舟は、こちらが川下りというのに対し、あちらは川上りといいます。古くは結婚式や披露宴などの花嫁舟の時に使われていました。ほら、川下りというよりも川上りという方が響きがいいでしょう。のぼるというと縁起がいいですからね。でも、現在は観光のお客様もよく利用されています。何度も川下りを楽しまれた方などが利用されていますね。実は料金は一緒、ただし予約が必要です。でも、船頭は川の流れとは逆方向に操船しますので、意外と体力がいります」
私はそう言うと、お客様に向かって笑いました。
初夏のある日のことです。
上りの出発地点は、沖の端となります。
普段なら終点場所からの出発ですね。
つまり、ガイドもくぐる橋も逆になる訳で、おまけに利用される方もそこまではいないということで、担当する時は緊張します。
1番目の沖の端橋をくぐり抜けて、御花邸のまわりをぐるり回ります。
そうそう、この御花邸の正式名称は国の名勝「立花氏庭園」といいます。およそ7000坪の敷地内に、松濤園、西洋館、大広間、立花家資料館、おみやげ物屋それから旅館等あります。
まあ、立花氏庭園といってもピンとこないお客様も多いので、御花邸と松濤園を入れて必ずガイドします。
松のトンネルや景色が素敵な2番目の橋出会い橋(本来なら12番目)を抜け、3番目、豊後橋をくぐると、御花邸を離れます。
次に各船会社の舟が並ぶ内堀を進むと、4番目、柳城一号橋の下、絶好の歌えるポイントで、私は「柳川おだん節」を歌い、舟はゆつらと進みます。
紫陽花がキラリ、昨日雨の水滴が花や葉に残って光っています。
「柳川川下りは、江戸時代より続いた立花家12万石の古き良き、町のたたずまいと日本が生んだ偉大なる詩人、北原白秋先生の故郷です」
そうそうこのあたりで、遅ればせながら言っておきましょう。
普段ならもう少し早めに説明するところですが、のぼりは勝手が違います(汗)。
川下りで一番低い橋、5番目、城西橋を抜けると、正面左手に「待ちぼうけ」のブロンズ像があります。ここで童謡白秋先生作詞「待ちぼうけ」と「雨ふり」を歌います。
石碑や漁師の仕掛け網、蜘手網を岸辺に見つつ、右へ曲がると今度は川下りで一番狭く、古い6番目の橋弥右衛門橋をくぐります。
「お客様、舟の木枠にお気をつけください。なお、頭上も注意をお願いします」
橋をくぐると、左手に田中吉政公の像、右手には柳川高校のテニスコートが見えてきます。
テニス部の物凄く強いんですよ。
新緑の眩しい木々に左手にはからたちの木が植えられています。
その先には桟橋があり、林の先には日吉神社があります。
水上売店には寄らなくてもいいですか?
はい、かしこまりました。
アオサギ(鳥)がいますね。
じっとしています、お魚を狙っているのでしょうか。
7番目、山王橋を抜けると、右手に椛島菖蒲園が見えてきました。
時期はちょっぴり過ぎましたけど、まだお花は咲いています。
正面の8番目、高門橋を望む景色は、なかなかですよ。
左に市役所、右に城内小学校体育館があります。
さぁ、橋桁があって、この橋は少しだけ狭いです、気をつけてくださいね。
左手に白秋先生の歌碑、そこの遊歩道は水辺の散歩道です。
水面が陽光でキラキラしていますね。
正面は木々が生い茂って、まるでジャングルのようです。
この季節は特に木の枝や緑の葉っぱが雄々しいです。
「木陰を通るさい、陽の光が射しこんでいますね。ここは、別空間のようで癒されるような素敵な場所です。私も好きな場所です」
お堀を左に曲がりますと外堀へ。
後ろには、柳川の名所並倉があり郷愁を誘います。
こちらには柳川海苔の倉庫、向かい側には古いなまこ壁の倉のおみやげもの屋「水産堂」があります。
9番目柳城橋の下で一曲「この道」を。
はあはあ、私ちょっぴり息があがります(笑)。
でも、橋の下は少しだけ涼しく、気持ちが整えられます。
勝島を右手に曲がりますと、お堀はより狭くなります。
住宅街、家の裏を通っていきます、ちょっとした非日常をお楽しみください。
木々の木陰が涼しくて快適ですね、まさに天然のクーラーです。
10番目、北長柄橋、続いて11番目、石橋をくぐります。
「右手に離れ庭ここには白秋先生の歌碑があります。向かいの家から川越しにお庭を眺める柳川ならではの風流なお庭となっています」
12番目、城堀水門橋をくぐりますと、お堀巡りは終わりです。
ここからが本当の川上りですね、でも、もう間もなく到着しますが(笑)。
「二つ川から最後の正面見える13番目の橋柳川橋をご覧ください。左右に新緑の柳、これが柳川の美しく懐かしい情景であります」
柳川橋を抜けると、終点はすぐそこでございます。
「本日はお熱い中、柳川の川下りにようこそおいでくださいました。様々な季節または船頭によっても、いろんな川下りお楽しみいただけると思います。普段は川下り、本日は逆方向の川上りでございました。またのお越しお待ちいたしております。ありがとうございました」
どんこ舟は終点の舟着場へと到着しました。
初夏の川下りでございます。