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一条春都の料理帖  作者: 藤里 侑
日常
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第九十九話 オムライス

「いただきます」

 今日も一日疲れた。部活やってるやつとか、パワフルだよなあと思う。

 晩飯はオムライス。しかも今日はハンバーグ付きだ。帰りにスーパーに寄ったら、冷凍のハンバーグが安かった。デミグラスと大根おろし。中学の頃はたまに、夏休みの昼飯で出てきてたやつだ。いつもは結構高くて買わないのだが、お買い得だった。

 どっちも二つずつ買ってきて、オムライスにはデミグラスソースの方をかけた。結構分厚くて満足感があるのだ。湯煎するだけで食えるのでいい。

 スプーンを入れて驚くのはその肉汁である。あふれ出るとはまさにこのこと。きらきらとした肉汁は飲めそうなほどである。ソースもたっぷりなのでオムライスを食うのに不足はない。

 かために焼いた卵、シンプルなチキンライス、ハンバーグと肉汁たっぷりのデミグラスソース。これ、最高の組み合わせなんじゃないか? すごくおいしい。

 あっつあつのハンバーグと甘めのチキンライスはよく合う。卵もデミグラスソースでいい感じにうま味が上乗せされ、鶏肉の食感もしっかり分かっておいしいのだ。

 オムライスにデミグラスソースをかけるとおいしいと知ったのは、確か店で食った時のことだ。うちでは基本ケチャップだったし。


 小学生のころ。まだ低学年だったかな。

 めったに行くことのないファミレス。メニュー表が妙にきらきら輝いて見えたし、そこに載っている写真はたいそう魅力的に思えたものだ。まあ、今でも鉄板に肉がのってるだけでテンション上がるけど。

 基本はお子様ランチ。おもちゃ付きで、量もちょうどよかったから。

 でもその日はどうしても大人のメニューが食べたかった。ハンバーグ、チキンソテー、ミックスグリル――とにかくそういうのが食べたかった。なんならデザートまで、と思っていたんだよなあ。

 いざメニューを見てみる。ハンバーグはソースが四種類から選べたし、ミックスグリルにはエビフライやソーセージもついている。ステーキが添えられているのもあるし、チキンソテーの皮目はカリッカリだ。セットのサラダもおいしそうだし、ドリンクバーも捨てがたい。

 今なら余裕で食べきれるメニューも、あの頃は完食するのは当然難しいわけで。

「全部食べたい!」

 と思った矢先、目の前をある料理が通り過ぎて行った。

 ウエイターが運んでいたのは、淡いタンポポ色に輝く料理。メニューの隙間からその料理が運ばれた席をそっと見る。

 チキンライスの上にのせられたそれは何やらプルプルしている。卵焼きにも見えるが、形はラグビーボールのようで。不思議に思って見つめていると、ウエイターがおもむろにナイフを取り出し、その黄色いプルプルした物体をそっと切り込んだ。

 するとどうしたことだろうか。まるで花が開くように、いや、せき止められた水が流れ出すようにトロォッと半熟卵があふれ出してきたではないか。

 しかもそこにかけられたのはケチャップではなく、焦げ茶色のとろとろした甘い香りのソース。見たことのない形をしたオムライスだ。

「あれ食べたい」

 まあ、そういう光景を見せられれば食べたくなるわけで。

「あら、こっちはいいの?」

 その日は父さんと母さん、それにじいちゃんとばあちゃんも一緒に来ていた。ばあちゃんにそう聞かれ、はっとしてメニューに視線を移す。

 ああ、やっぱりエビフライもいいなあ。ハンバーグも食べたいなあ。

「う~ん……」

 しばらく悩んで「全部食べたい~」と言えば、大人たちは顔を見合わせる。

「量はどれくらいかな」

「結構多いよね」

「じゃあ……」

 なんて会話をしていたのかは分からなかったが、母さんがこちらを向いて、にっこりと笑って言ったのを覚えている。

「全部頼もうか!」

 自分の要望が通ったことに対する喜びがはじめに来たのだが、子どもながらに「え、大丈夫かな?」と自分の胃袋が心配になったのを思えている。

 まあ、ドリンクバーに行っている間にその心配も忘れたんだけどな。

 その頃からジュースといったらオレンジジュースだった。で、避けていたのはメロンソーダ。あの色にはめちゃくちゃひかれたのだが、あの味と強い炭酸がどうも苦手だった。今ではもう平気なんだけどな。

 で、料理が来るのを待っている間、先に来たコーンスープを飲んでいた。ファミレスのコーンスープって妙にうまいんだ。コーンの甘さが絶妙で、クルトンもおいしい。

「お待たせしました~」

 最初に来たのはミックスグリルだった。それは父さんの前に置かれた。一緒に来たハンバーグは和風ソースで、それはばあちゃんの前に。

 次に来たのはチキンソテー。これはじいちゃんが頼んだものだったらしい。そんで、満を持してのオムライス。俺の隣に座っていた母さんの前に置かれた。

「こちら、ソースをかけさせていただきますね」

 もう一度、今度は目の前で見ることができたその手さばきはすごくワクワクするものだった。見れば、かけられたソースにはごろっと肉が入っている。

 で、俺の前に置かれたのは何ものっていない皿。

 なんで? と混乱していたら、反対隣に座っていた父さんが、一口大に切ったエビフライと、ウインナー、そんでハンバーグ――こっちはガーリックソース――そしてサイコロステーキをのせてくれた。ばあちゃんも和風ハンバーグをのせてくれたし、じいちゃんはチキンソテーにたっぷりトマトソースをかけて、付け合わせの野菜と一緒にのせてくれた。母さんはデミグラスソースたっぷりのオムライスを肉と一緒に。

 即席特製お子様ランチだ。

 あれ、今まで食ったお子様ランチの中で一番うまかった気がする。タルタルソースたっぷりのエビフライ、甘いケチャップのついたウインナー、ガーリックの香ばしいハンバーグにやわらかいステーキ、ごろっとトマトソースのチキンソテー、大根おろし爽やかな和風ハンバーグ、そしてトロッとなめらかで甘くておいしいオムライス。ソースにまぎれた肉はほろっほろだった。

 食いたいものを食えるのが幸せだと実感した瞬間だったなあ。


 それからたまに家でもデミグラスソースのオムライスを食うようになったんだっけ。ぶなしめじとか入れたソースはうま味があってさらにうまいんだよ。なかなか半熟オムライスは作れないけど、それでも十分うまい。

 今日はハンバーグにしたが、これはこれでうまいものだ。少し冷めると肉汁が流れ出てこなくなるが、噛めば染み出してくる。そういや、肉汁こぼしたくなくてハンバーグの上を器みたいな感じになるように掘ったこともあるっけ。

 そういやこないだ、うちでも半熟オムライスが簡単に作れるコツとかあったような。たまに食いたくなるんだよ、半熟オムライス。デミグラスソースもキノコ入れて作って。

 ハンバーグとかソーセージも添えようか。エビフライもいいなあ。

 よし、今度贅沢したい時に作ろう。


「ごちそうさまでした」


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