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一条春都の料理帖  作者: 藤里 侑
日常
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第八十九話 ビーフシチュー

 休日の朝はゆっくりだ。特に今日は課題も終わらせているし、特別のんびりできる。

 しかし明日はちょっと忙しい。日直の番が回ってくるのだ。学級日誌も書かないといけないし、朝課外の前に配布物の確認にもいかなければならない。だから家を出るのは少し早めだ。

「あ~、日直やりたくねえ~」

 ソファに寝っ転がり伸びをする。

 日直は基本、二人一組でやる。相手次第では押し付けられたりめちゃくちゃこだわりがあるやつがいたりして、結構大変だ。

「わぅ?」

「相手がうめずだったらなあ。それなら楽しいのになあ」

「わふっ!」

 首をかしげて近寄ってきたうめずを撫でてやる。さっきまで日向ぼっこをしていた毛並みは温かい。

「いい天気だし、散歩にでも行くかー」

 反動をつけて起き上がる。

 カーテンの向こうからは、それはもうずいぶんと穏やかな日の光が差し込んでいた。


「今日はどこ行こうかな~」

「わふっ」

 エントランスを出て行き先を思案する。うめずは早いところ出発したいのだろう。そわそわと俺の前を行ったり来たりしている。

「落ち着けうめず」

 ま、適当に歩くか。

 日差しが落ち着いてきたこの頃、絶好の散歩日和である。

 水を流す音や、テレビの笑い声が時折聞こえてくる住宅街を歩く。古い家も多くて、少し朽ちたようにも見えるブロック塀には苔が生えていた。

 それにしても、人っ子一人いないな。誰ともすれ違ってないぞ。

 この静けさは嫌いではないが、時々不安になる。新しい店もできているとはいえ、閉店したところも多いし、街の方に引っ越していく人だっている。

「静かだなあ」

「わふっ」

 うめずの声がこだましたように聞こえた。

 吹く風も心なしか涼しく、なんとなくさみしい感じがするな。

「……ん?」

 なんか風に乗っていい匂いが。

 この香りには覚えがあるぞ。甘くてやわらかい香り。

「ああ、これか」

 民家の庭先に植えられていた、オレンジ色の可憐な花が、その香りの正体だ。

 きんもくせいだ。

「いい匂いだなあ」

 確か小学校の裏にも植えられていたような。見ごろは短くて、散ってしまうとオレンジ色のじゅうたんが出来上がる。あれ、結構掃除が大変なんだよな。秋雨と重なって濡れたらその大変さは倍増する。

「よし、じゃあ買い物して帰るか」

 アーケードを通って花丸スーパーに向かう。そういや、アーケードには細い通路がいくつかあるんだよな。ちょっとのぞきこんでみた感じ、飲み屋街みたいだった。といっても空いている店はいくつもない。ほぼ廃墟然としている。

 でもああいう雰囲気、結構好き。今度行ってみようかな。


 うちに何があっただろうか。卵はある、調味料類も今のところ不自由していない。昼飯もあるもので済ませられそうだが、晩飯を何にするかだな。

「うーん、何が食べたいかなー」

 とりあえず今日の広告をチェックする。店内には等間隔にチラシが掲示されているのでとてもいい。

 休みの日はたいてい、レトルト食品が安い。レトルトのみそ汁やスープ、それにカップ麺とか。レトルトのカレー、買っておくか。あれあると結構便利だ。ご飯があればかけるだけでいいし、カレーうどんにもドリアにもできる。

「お」

 なんだ。今日はルーも安いのか。ご来店の皆様だけに、と値札に書かれている。なるほど広告には載っていないのか。これはいい、得したな。

 カレーと、シチュー……あ、ビーフシチューだ。

 そういえば最近食ってねえなあ、ビーフシチュー。ホワイトシチューはちょいちょい食うけど、ビーフシチューはそれに比べると頻度が低いように思う。それに作ったとしてもビーフであったことは少ない。たいてい豚とか鶏で代用している。 

 だから厳密にいえば、ポークシチュー、チキンシチューというわけだ。まあうまいけど。ハヤシライスと大差ないように思えてしまうんだよなあ。

 精肉コーナーも見てみるか。

 豚肉、鶏肉。うん、安いな。買っておくとしよう。さて、牛肉はどうかなー……。

「お、安くなってる」

 薄切りの牛肉、しかも赤身が少し安くなっている。これなら手が出せそうだ。

 よし、今日の晩飯はビーフシチューで決定だ。それなら明日の朝もさっと食べられるな。


 ビーフシチューの作り方はハヤシライスと同じようなものだ。

 使う野菜はジャガイモ、ニンジン、玉ねぎといったところだろう。ああ、野菜が結構入っているあたりがハヤシライスと違うかな。

 ジャガイモとニンジンは一口大に切り、玉ねぎは程よい厚さにスライスする。

 カレーとかを作るときに使う大きめの鍋に油をひき、まずは牛肉から炒めていく。やや火が通ったところでジャガイモ、ニンジン、玉ねぎを入れてさらに炒める。炒めたところに水を入れ、コトコトと煮込む。

 ある程度煮込んだらルーを溶かし、とろみがついたら完成だ。

 フランスパンも買ってきたので焼いたら準備オッケー。

「いただきます」

 牛肉が入ったビーフシチューは久しぶりな気がする。ホワイトシチューのようなミルクっぽさとは違い、デミグラスソースのうま味が舌に溶けだす。また違ったコクがあっておいしい。

 ジャガイモはほくトロッとしていて、ニンジンは程よく甘い。玉ねぎはトロットロだ。

 焼いたフランスパンはかたいので、浸して食べるぐらいがちょうどいい。カリッとした食感に香ばしさ。中心近くは少しもちっとしている。

 明日になったらもっと野菜のうま味が出ておいしいんだ。ご飯にかけて食うか。

 ビーフシチューって、なんかクリスマスっぽいよな。お店とかではパイ包みとか毎年出てるし。

 あれって、うちで作れないだろうか。ちょっと作ってみたい。

 ……今年の冬、チャレンジしてみるか。ニンジンとか星形にしたらクリスマスっぽくなりそうだし。型抜き、探しとかなきゃなあ。

 今年のクリスマスは、ちょっと料理頑張ってみよう。

 なんて、気が早いか?


「ごちそうさまでした」


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