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一条春都の料理帖  作者: 藤里 侑
日常
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第八十二話 かぼちゃコロッケ

 朝もクーラーがいらないぐらいに涼しくなってきた。でもなんか湿気がすごい。除湿だけかけよう。

「ふぁ~……っふ」

 さて、朝飯は何にしようか。

 なんか玉子食べたいな。あ、そうだ。みそ汁に卵入れよう。今日はちょっと時間に余裕もあるし。そうだなあ、もやしのみそ汁でも作るか。それとご飯と、買い置きしてある漬物でいいだろう。

 鍋に水を張り、粉末の出汁を溶かす。火にかけて少しふつふつとしてきたところに、ざっと洗ったもやしを入れる。味噌を溶いて、あとは卵を割り入れる。

 白身が固まってきたらいいだろう。仕上げにねぎを散らし、破れないようにそっとお椀に入れる。

「よし、いただきます」

 卵はなんだか割るのが惜しいくらいに真ん丸だ。ボールみたいにも見える。破らずにまずは一口。味噌の香りが香ばしい。もやしもしゃきっとしていい食感だ。

 ぷつ、と箸を入れれば目が覚めるような黄色がとろりとみそ汁に溶けだす。もやしを絡めて食べるのがおいしい。きゅうりの漬物にも少し卵をつけてみる。お、結構いけるな。

 汁にすっかり黄身が溶けてしまった。これ、ご飯と合うんだよなあ。ネギとの相性も抜群だ。

 さあ、今日もほどほどに頑張るとしますか。

「ごちそうさまでした」


「それでさあ、結局昨日は寝落ちして。結果惨敗ってわけ」

「……その結果は本当に寝落ちだけが原因なのか?」

「ひでぇなあ」

 昼休み、いつも通り咲良とだらだら過ごす。咲良は今日の英単語テストのやり直しをしていた。

「これでもちゃんとやれば合格してるんだぞ?」

「こないだは体調不良だろうが何だろうが点数変わらねえって言ってなかったか」

 それはそれ、これはこれだ、と咲良は訳の分からないことを言う。

「よーし終わり! 放課後出しに行くからついてきてくれ」

「なんで」

「あの先生、基本職員室にいないから探さなきゃいけねえんだよ」

「一人で探せ」

 自分が提出しないといけないんだから、人を巻き込むなよ。

「あ、いたいた。おーい、一条~井上~」

「ん?」

 あーだこうだと言い合いをしていると、廊下から俺たちを呼ぶ声がした。そこで手を振っているのは百瀬のようだ。隣には朝比奈もいる。

「なんだぁ?」

 百瀬が手招きをするので、俺たちはそれに素直に従うことにした。

「どしたん?」

 咲良が聞くと、百瀬は朝比奈を見上げた。

 朝比奈はおもむろに口を開く。

「お前ら、野球は好きか?」

「野球?」

 出入り口では邪魔になるので、ロッカーの方に移動する。

「野球って、なんでまた急に?」

 そう聞くと朝比奈は「実は……」と話し始めた。

「親が招待券もらってさ。本人たちは行けないから、友達と行ってきたらどうだって」

「招待券? すげえ」

 そういや、中学までは結構見に行ってたなあ、野球。外野席でガンガン応援してたっけ。いまだに中継やってると絶対見るもんな。

「結構いい席なんじゃないか?」

「内野の前の方だって言ってた。一塁側」

「すげえ。俺行きたい」

 俺がそう言うと、咲良も同意した。

「いいなー。野球、あんま見に行ったことないし、行ってみたい」

「じゃあ決定だ。楽しみだな~」

 試合の日程は休日のデーゲームとのことらしい。ナイターも楽しいけど、デーゲームはデーゲームの楽しさがあるというものだ。

「俺、ユニフォームもってる。背番号のワッペン付けたやつ」

「マジで。すげーね」

 俺の部屋のクローゼットにあるはずだ。帰ったら探しておこう。

「何で行く?」

「野球場前までのバスがあるらしい」

「なるべく早めに着いときたいな。グッズ見たい」

 最近はグッズ類見てないからな~、めっちゃ楽しみだ。

「じゃ、三人とも行くってことで。詳しいことはまたあとで話そうか」

 朝比奈がそう言って、俺たちはそれぞれ別れる。

「そういやお前、野球好きだったなあ」

 教室に戻り、咲良が筆記用具を片付けながら言う。

「ああ、最近は全く行ってないし、楽しみすぎる」

「珍しくテンション高いもんな」

「当たり前だ」

 試合も当然楽しみだが、そこで食べる飯もまた楽しみだ。

 野球場には、野球場ならではの飯があるからな。ま、ちょっとお高めだけど。

「鼻歌出てる。それ、応援歌だろ」

 咲良がにやつきながら指摘してくる。

 いかん。この調子だと授業中にまで歌いだしてしまいそうだ。ちょっと落ち着かなければ。


 さて、野球場で飯を食いグッズを買うとなれば、必要となってくるのは当然お金だ。グッズ類は言わずもがな、そこで買える飯は少々お高い。

 試合を見に行くのは今週末で、長期間に渡る貯金などはできないが、ある程度の節制はできよう。

 というわけで今日の晩飯は、うちにある冷凍コロッケだ。キャベツも買い置きしてあるのを切ればいい。

 今日のコロッケはかぼちゃだ。

 熱した油に冷凍コロッケを入れれば、ぱちぱちと音が立った。油跳ねがあまりないのはいい。

 初めて野球を見に行ったのは確か小学三年生ぐらいの頃だ。その時は内野席で、人の多さに圧倒されたっけ。でも一番印象に残っているのは球場に入った瞬間の光景だ。

 ドーム型の球場にはこれでもかというほどに照明が焚かれ、外野席の後ろにはドンと大型のモニターが鎮座している。応援の太鼓とラッパ、そして鳴り物の音はけたたましく、そろった声が地響きすらをも生み出す。

 外野席、怖いなあと思ったのもほんのわずかだったな。ピンチの時は呼吸を忘れるほど緊張するし、チャンスの時は声がかれるまで応援したものだ。

 それと、七回裏――すなわちラッキーセブンでは応援歌に合わせて、チームカラーのジェット風船を飛ばすんだ。初めて行った時は買ってなくて、近くの席の人が一個くれたんだ。買った時は白星の風船……白のジェット風船を飛ばす。

「楽しみだなあ」

 おっと、コロッケが焦げてしまう。

 キャベツを盛った皿に移し、完成だ。

「いただきます」

 このコロッケには何もかけないのが、俺は好きだ。

 ざぐっとした衣は香ばしい。焦げなくてよかった。かぼちゃはほっくり、とろっとしていて甘い。自然な甘さがおいしい。

 皮も入っているのがいい。

 キャベツはドレッシングで食べよう。今日は和風のドレッシング。さっぱりとしていて、醤油の風味が程よい。

 またコロッケに戻る。しっかりと味付けもされ、なによりかぼちゃのうま味があるのでこれだけでご飯が進むのだ。

 あ、そうだ。明日の昼飯はコロッケパンにしよう。その時は少しソースを入れようかな。


「ごちそうさまでした」


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