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一条春都の料理帖  作者: 藤里 侑
日常
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第七十九話 ファストフード

 都会という場所は、とにかく人が多い。

 二両編成ではなく八両編成の電車を降り、着いた先は都会の街。駅はビルというか、大型商業施設の中にある。いろんな店が詰め込まれ、いろんな人たちが行き来している。

 何とか改札を抜け幅広い階段を下りていけば、巨大なビジョンが目に入る。そこでは地元のテレビ局のコマーシャルとかが流れていて、待ち合わせにはもってこいの場所だ。

 ビジョンから見て右手にはアーケードがあるが、地元の町とは大違いだ。老舗の雑貨屋や食事処、文具店や二階がカフェになっている青果店……と挙げきれないほどの店の賑わい、人の多さ。左手は高層ビルが立ち並ぶ大通りとなっている。

「人めっちゃいるな」

「なんだよその感想」

 今日は咲良と一緒に来たからよかったものの、一人だったらどうすればいいか分かんなくなってそうだ。

「で、どこ行くんだったか?」

「えっとねー、まずはー……」

 咲良はスマホを操作してある画面を見せた。

「ここ」

 どうやらアニメのポップアップストアらしい。このアニメ、見たことはないけど名前は知っている。俺とは見る作品が違うだけで、咲良も結構アニメ好きである。

「ん、分かった。じゃあ行くか」

 目的の店はこの商業施設にあるらしい。巨大ビジョンがある場所を挟んで駅の反対側、そちら側も店になっている。駅がある方がお土産物とかを中心に売っているとすれば、そちら側は洋服屋や雑貨屋、目的地である企画展示コーナーなんかがある。

「おー、ここだ、ここ」

 おしゃれな店が並ぶ中、それは唐突に現れた。キャラクターのパネルがずらりと並び、BGMはそのアニメの主題歌だ。キーホルダーや缶バッチ、Tシャツに高そうな食器やフィギュアまで。すごいなあ。

「なかなかこっちでこういうイベントないからなあ」

「ゆっくり見て来いよ。俺はなんか他のとこ見てくるから」

「おう!」

 一時間後にここで落ち合うことにして、俺はふらりと適当に歩き出す。

 うーん、一時間って結構あるよな。どうやってつぶそうか……。

 嗅ぎ慣れない匂い……アロマか、香水か。こういうにおいを感じると、都会に来たなーって感じがする。あ、ここはコーヒーの匂い。なるほど、カフェか。げ、コーヒー一杯四ケタ? やっぱ高いやつは味が違うのかな……。

 少し歩いていると、空中歩廊までやってきた。結構好きなんだよな、ここ。少し色のついたガラス窓を通って差し込む光は、少し古めかしい感じもする。音楽とかは何もかかっていなくて、ただ遠くから喧騒が聞こえるばかりだ。

 人通りが少ないので、ちょっと立ち止まって、窓から下をのぞき込んでみる。

 幅の広い道路には様々な車が行きかって、歩道には人があふれている。なんか行列ができてるな。あとで行ってみるか。地下に続く階段もあちこちにあって、人が吸い込まれては吐き出されている。こういうの見るのはちょっと面白い。

「……ん?」

 空中歩廊を抜けた先、何やら見覚えのある色合いで満たされた空間が現れた。

「えー、まじかー」

 どうやらそこは、俺が最近はまっているアニメのポップアップストアらしい。咲良の方と比べて、空間は限られているし人もあまりいない――というかレジの人しかいないのだが、これは予想外だ。

 ……せっかくだし、なんか買ってくか。


 好きな物と向かい合っている時間は早く過ぎていくもので、一時間はあっという間に過ぎた。うん、満足。いい収穫だった。

 それから店を出た俺たちは例の行列へ向かった。そこはどうやらタピオカドリンクの店らしかった。

「せっかくだし飲むか」

「いいな」

 いまだ短くならない行列に並び、色々と見慣れない横文字のメニューの中から俺は黒糖ミルクティーなるものを選んだ。咲良は普通のミルクティーにしたらしい。

「こういうの、タピるっていうらしいぜ」

「タピる。タピオカだからか」

「多分な」

 丸みを帯びた容器に、黒くてそこそこの大きさがある丸い物体。この模様みたいなやつが黒糖か。一般的なストローより太めのやつをブスッと突き刺す。

「いただきまーす」

 そういやタピオカってすっげー久しぶりな気がする。

 黒糖と牛乳。それとなんかシロップだろうか。すごく甘い。タピオカ自体の甘さはそこまでなくて、もちもちした食感が面白い。

「昼飯どうする」

「んー、そうだな。この辺って、高い店が多いもんなあ」

 俺たちはオフィス街の方ではなくアーケードに向かうことにした。と、ちょうど入り口に、自分たちの町では見ないファストフード店が目に入った。

「お、ここいいんじゃね?」

「空いてるな」

「あの窓際の席座りたい」

 窓際、なるほど、人の流れが見えるんだな。

「行くか」

 メニューを見る限り、とんでもない値段のものはなさそうだった。できれば野菜が入っているやつがいい。うーん、よし。

「BLTバーガーのセットにしよう」

「じゃあ俺は――これ、限定のやつにする!」

 まだ客は少なく、注文したらすぐに出てきた。ずいぶん分厚く、ずしっと重みがある。

 窓際の席はカウンターのようになっていて、一面の大きな窓からの眺めはなんというか、とても開放感がある。

「おお~、神様か何かになった気分」

「えらく俗っぽい神様だな」

 席は選び放題だったので、真ん中のあたりに座った。ぞろぞろと規則的なようで不規則な人の動きは見ていて面白い。子どもなんかは予測不可能な動きをするからな。まるでちょろちょろと走り回るミニカーかラジコンの様だ。

「食うか」

「いただきます」

 おお、パンがフワッフワだ。なんだか甘い香りがするし、肉は荒めのひき肉でバーベキューソースがかかっている。包み紙を外すときの、カサカサという音が好きだ。

 レタスのみずみずしさと、トマトの酸味。そこに噛み応えのある肉が相まっておいしい。パンは軽く、バーベキューソースが染みこんだところがジュワッとしていていい感じだ。オレンジジュースとよく合う味。

 ポテトは太めでほくっとしている。

 バーベキューソース付けて食うのもいいな、ポテト。挟んで食うのもまたいい。

「ここのピクルスでかいな」

「ああ、すごくいい」

 酸味は程よく、くにっとした食感と染み出すうま味がおいしい。

 ハンバーガーは均等にすべての具とパンを食べていくのが難しい。でもこのパンは具としっかりくっついて食べやすい。

「この後どこ行く?」

「んー、地下街? ちょっと見てみたい」

「いいな。何なら地下鉄乗っちゃうか?」

 しょっぱいの食ったら、また甘いものが食いたくなってきた。なんかいい感じのお菓子とか売ってないかな。


「ごちそうさまでした」


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