第七十六話 パフェ
「そこまで」
試験監督の先生の言葉とチャイムの音にシャーペンを手放す。と、とたんに教室中が騒がしくなる。
紙がこすれる音、ため息の声。テストの終了時というのはいつもこういうものだ。
テストのときは出席番号順に座りなおさなくてはいけないので、俺の席は窓際の前から三番目だ。窓際といっても、ちょうど柱があるところで外は見えないが。でも隣が壁というのは落ち着くものだ。
後ろから回ってきた答案に自分の答案用紙を重ね、前に回す。あちこちで嘆きやら歓喜やらの声が聞こえてくるが、まあ、終わった今、何を考えても答え合わせをしてもしょうがない。
そんなことより、頭を使ったので大層疲れた。
先生が集まった答案用紙の枚数を数えている間、ぼーっと壁に寄りかかる。早いクラスはもう号令も終えて、帰る準備を始めているらしい。
「はい、学級委員号令かけてー」
「きりーつ」
流れるような、というか気だるげな号令に立ち上がり、礼をする。誰もお手本のような挨拶はしていないが、先生もそれをとがめない。
出しておいた鞄にシャーペンなんかをしまいに行こうと廊下に目を向けるが、まさにすし詰め状態。しばらく人がはけるのを待とう。
「ねっむ……」
かたい体をほぐすように伸びをする。
やっと試験も終わったことだし、なんかやりたいことやろう。まあ、一日は咲良とどっか行くけど。
どこ行くんだっけか。こないだ行ったのとはまた違うショッピングモールだったか。何回か行ったことあるけど、あそこ、複雑で一回本気で迷子になったんだよなあ。帰り道が分からなくてぐるぐる回って、結局店の人に帰り道聞いたっけ。一応地元民なのに、観光客と間違われた。いい思い出だ。
人が減ってきたので廊下に出る。あとは掃除して帰れる。
教室掃除は結構骨が折れる。机運んで埃集めて、雑巾がけしてまた机運んで……黒板掃除もあるけど、それはいつもなぜか決まった人がやっている。そういう決まりはないけど、暗黙の了解みたいなものだ。
早く終わらせて、早く帰ろう。まあ、俺の一存でどうなることでもないけど。
ずいぶん空が秋めいてきた。真夏に比べて空の青は薄く、真冬よりも風が熱を持っている。
そして今、とても頭が回っていない。回っていないというか、考え事ができない感じ。小説を読んでいて、同じ行を何回も読んでしまうような感覚に似ているだろうか。
こういう時はあれだ。甘いものだ。
そうと決まればスーパーへ行かなければ。今日はちょっと贅沢してやる。
パフェ、という言葉には完璧という意味があるのだとか。
完璧なスイーツ。確かにな。クリームとか、アイスとか、コーンフレークとか、フルーツとか入ってるしな。店によってはケーキがのっていることもある。あれ、どのタイミングで食うのが正解なんだろうなあ。
さて、今日は俺の裁量で、パフェを作ろう。
何を入れたい。やっぱりコーンフレークか。徳用サイズしかないけど……ま、余ったら余ったで小腹空いたときとかに食えばいいか。
アイスも外せないよな。何味にしよう。バニラ、チョコ、抹茶、イチゴ……へえ、ピスタチオとかもあるんだ。業務用のアイスもあこがれるけど、ここは小さいカップでいろんな味を買うことにしよう。バニラと、チョコと、あと季節限定のキャラメルナッツ。
フルーツは……缶詰のにするか。みかんとかパインとかいろいろ入ったやつ。
そして生クリーム。もちろん自分で泡立てるのもありだが、今日は、絞るだけのやつにする。あ、これもチョコ味とかあるんだ。でもプレーンにする。
こんなもんかな……あ。
サツマイモや栗のお菓子の特集コーナーがある。チョコ、ポテチ、餅みたいなやつ。そういえばアイスにもあったな、イモと栗。
「これ、いいかも」
見つけたのはサツマイモ味のプレッツェル。これ、アイスと一緒に食ったらうまそう。
よし、これも買ってお会計だ。
パフェというものは、とかく背の高い器に盛られているものだが、うちにそう都合よくそんな器はないので、うちで一番背の高いコップで代用する。
コーンフレークは袋のまま、アイスはふたを開けて、フルーツの缶詰は別の器に出しておく。生クリームはちゃんとほぐす……なじませる? とにかくもんで、準備完了だ。
「まずは……これか」
底に入れるのはやっぱりコーンフレークだろう。どれくらい入れようか。多すぎてもバランス悪いので、加減しながら入れていく。なんかこの作業、パフェの下地作ってるーって感じがして楽しい。
さて、次は何にしようか。アイスか、クリームか……よし、キャラメルナッツのアイスにしよう。スプーンですくって入れる。
そしてもう一段コーンフレークを入れて、今度はクリーム。ぶにーっと絞るのはめちゃくちゃ楽しい。……あっ、バフッていった。空気が入ってたか。まあいい。フルーツも入れちゃえ。
で、チョコレートアイス。チョコチップが入っているものと迷ったが、何も入っていないシンプルなやつにした。
その代わり、うちにあったのを偶然見つけ、急遽追加したこれを入れる。おやつに買っておいた麦チョコ。
いつ買ったんだったか、最近だったような気がする。賞味期限はまだ先だし、でもこのまま置いとくとまた忘れそうなので今日使っておく。いいね、豪華になってきた。
クリーム、またのっけちゃえ。
で、最後にバニラアイス。もちろんクリームもてんこ盛りだ。余ってもどうしようもないしな。ちょっと残った分は……そのまま吸うか。フルーツで彩ったら、あとは、サツマイモ味のプレッツェルを突き刺して、完成だ。
「おぉ、壮観」
なんとなく一枚写真を撮っておこう。
「いただきます」
まずはクリームだけ。うん、控えめな甘さがちょうどいい。みかんと一緒に食べると、みかんの酸味が強くなる。パイナップルは食感がいい。
冷たいアイスはバニラの風味が強い。プレッツェルも一緒に……おお、めっちゃサツマイモの味だ。ちょっと砂糖がかかっているらしい。甘みが増したし、香ばしさが加わっておいしい。
あ、黄桃。食感が好きだ。プチプチーッと繊維が切れていく感じ。
チョコレートに到達。麦チョコが冷やされて食感がちょっとかたくなっている。まったりとした甘さが疲れた頭に染みわたるようだ。
コーンフレークの食感がたまらない。これを生クリームと一緒に食べると、一気にパフェらしくなる。
キャラメルナッツのアイス、だいぶいろんな味と混ざってしまったけど、おいしい。カリッと砕けたアーモンドの香ばしさと、とろけるキャラメルがいい塩梅だ。チョコレートと合わせてもおいしい。
今度はプリンものせてみようか。うまそうだよなあ。
うん、正しく完璧なスイーツだ。ひとつひとつの味を楽しめるし、全部を混ぜてもなおおいしい。
甘いものが無性に食いたいテスト終わり。いいご褒美になった。
「ごちそうさまでした」