第七十五話 洋風弁当
「あ、しまった」
今日も今日とて重い荷物を背負って登校。
……したのはいいものの、教室後ろの黒板に書いてある時間割を見て気づいた。今日は午前中で学校終わりだった。
せっかく六時間目までの教科書を持ってきたというのに、こういうのを骨折り損のくたびれ儲けっていうんだな。
「……ま、いいか」
今更嘆いても仕方がない。
午後からは自由なんだ。ラッキーとでも思っておこう。
今日の昼飯は学食で食おうと思っていたので、弁当はない。まあ、学食ぐらいは開いているだろうと思って来てみたが、残念ながら閉まっていた。
「どうしよっかな~……」
家に帰って何か作るか。でもなんか今日は楽したい気分だ。
「あ、春都。今帰り~?」
「おう、咲良」
「なんか荷物多くね?」
隣に並ぶ咲良に事情を話すと、さぞ面白そうに笑ったものだ。
「えー、春都にしては珍しいミスするじゃん」
「まあ……だから昼飯どうしようかと思ってな」
そう言うと咲良は「ん~、そっかあ」と少し考えるそぶりを見せた。かと思えばぱっと笑って言ったものだ。
「じゃあさ、俺、春都のうち行ってもいい?」
「どうしてそうなった?」
あまりにも話が飛躍しすぎだろう。
「だってさー、もうすぐテストじゃん? 分かんないとこあるし、教えてもらいたいし、あと、十階からの景色が見たい!」
「それほぼ最後のやつが目的だろう」
「あ、ばれた?」
教えてほしいのは文系科目だから~、とへらへら笑う咲良。こいつ、もう来る気満々だな。
「まあ、いいけど」
「やったー! じゃあ、帰りにコンビニ寄って帰ろうぜ」
「コンビニかあ」
放課後のコンビニって、結構混んでるからやなんだよなあ……。
「あれ? 乗り気じゃない?」
「人多いだろ。スーパーの方がいい」
それもそうか、と咲良はすんなり納得した。
別に気にする必要ない、とでも言うかと思ったが、ちょっと意外だ。
「文系科目の範囲って、文理一緒だったか?」
「一組以外は一緒だったぞ」
「国語?」
「いや、英語。何のことやらさっぱり」
スーパーは思ったよりも混んでいなかった。青果コーナーを横目に、総菜コーナーへと向かう。
そういえば、ここの弁当、買ったことねえな。総菜は何回か買ったことあるけど。
「どれにしようかなー」
うーん、ハンバーグ弁当、チキン南蛮弁当、それに、焼き鮭弁当。結構バラエティ豊かだな。
「春都どれにする?」
「ハンバーグも、からあげも捨てがたい」
「分かるー」
なんかこう、ハンバーグとか、からあげとか、エビフライとか全部入ってるような弁当はないものだろうか。いわゆるファミレスにあるような……。
「あ、あった」
ハンバーグにからあげに、エビフライ。加えてウインナーやポテサラ、スパゲティまでついてる。
これはいい。これにしよう。
「あ、それいいな。俺もそれにしよう」
と、咲良も同じ弁当を手に取る。
「いいよな、これ」
「満足感ありそ~」
さっそく会計に向かう。途中、鮮魚コーナーを通ったところ、うちの制服を着たやつが二人いた。見れば寿司コーナーの前で何やら話している。
かと思えばおもむろに寿司のパックをそれぞれ手に取ると、談笑しながらレジへと向かって行った。
「……見た?」
咲良に聞かれ、頷く。
「寿司買ってたな」
「な、しかも結構いいやつ」
「金持ちだな」
確かに寿司は魅力的だが、俺は今食いたいものを手にしているのでいいのだ。
「お邪魔しまーす」
玄関で待っていたらしいうめずが咲良を見て少し戸惑ったように立ち上がる。しかしすぐに尻尾を振り始めた。
「お、うめずー。邪魔するぜ~」
「わふっ」
「邪魔するなら帰れってさ」
「ひでえや」
そんなことないよなあ? とうめずを撫でまわす咲良。まあ、こんだけしっぽ振ってじゃれついてくるぐらいだし、歓迎しているのだろう。
「麦茶でいいかー?」
「おお」
今日はローテーブルで食うことにしよう。
「いただきます」
出来立てだったらしい弁当は、まだほんのり温かい。ご飯にかかった黒ゴマが、買ってきた弁当って感じだ。
まずはデミグラスソースのハンバーグから。ちょっとかためだが、しっかり肉の味がしておいしい。下にひいてあるスパゲティにもデミグラスソースを絡めるのがいい。
「エビフライ、結構身があるな。こういう弁当のって、めっちゃ小さいイメージあった」
「そう、うまいよな」
タルタルソースがかかっているのがまたおいしい。
こういう弁当のウインナーって、普段買うようなのとはまた違う味がする。塩気が多いというか、結構うまい。ご飯に合うんだよなあ。
ポテサラもクリーミーでありながら、ごろっとイモの形も残っているのがいい。
からあげはちょっと衣が多い気もするが、スパイスの効いたその味は、家では味わえない代物だ。
なんか楽しいな、この弁当。
テストも、それのための勉強もなかなか体力がいるが、これなら十分頑張れそうだ。
「ごちそうさまでした」