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一条春都の料理帖  作者: 藤里 侑
日常
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第七十四話 ししとうベーコン炒め

 食堂の隅では、パンやおにぎりなんかが売られている。食堂特製のお弁当もあって、生徒だけでなく先生たちにも人気だ。

 そして最近、少しだけお菓子とかも入荷するようになった。チョコとか、ポテチとか、大福とか。

「わ、安いな」

 スーパーなんかで買うよりも格段に安い気がする。

 食堂に来た時にはうすしおとコンソメのポテチがあったのだが、コンソメが売れてうすしおだけになっている。

 咲良、コンソメ食いたいっつってたから、すねそうだな……。


 食堂の一角に座り、ポテチの袋を開ける。いわゆるパーティ開けなのだが、ぶちまけそうになる。

「おまたせー」

 コーラと食堂のコップを持って咲良が来る。俺がポテチを買うかわりに、咲良には飲み物を買ってきてもらったのだ。

「あれ? コンソメは?」

「売り切れー」

「うそだろ~? ないわー」

 あからさまにがっかりしながら、ペットボトルのふたを開ける。プシュッといい音がした。

 炭酸が透明のコップに注がれる様子は結構面白い。泡がこぼれないようにしないと大変なことになる。

 ポテチのうすしおは、本当にうすしおだ。イモの味が結構する。

 コーラは結構甘い。んー、めっちゃジャンク。アニメとか、映画が見たくなる。

「はあ~」

 咲良はまだ納得いかないのか口をとがらせている。

「この世のポテチが全部コンソメ味になればいいのに」

「お前なんてむごいことを」

 そんなにコンソメがいいのだろうか。うすしお、結構うまいぞ。

「いやもう、革命レベルでしょ。コンソメ」

「俺はうすしおも好き。てか、一つの味しかなかったら飽きるだろ」

「コンソメなら無限にいける」

「まじかよお前」

 それからあれこれ味についてだべっていたら、聞きなれた声が聞こえてきた。

「あれー、二人もここにいたんだ」

「お、朝比奈。百瀬。どしたん」

「なんかおかし食べたいなーと思って。今日は作ってきてなかったからさあ」

 朝比奈が俺の隣に、百瀬は咲良の隣に座った。

「ポテチだ」

「食っていいぞ」

 やったー、と百瀬は遠慮なくポテチに手を伸ばす。

「あ、そうだ。二人はポテチで何味が好き?」

 咲良がさっきまでの話をすると、二人は少し考えて、百瀬が先に口を開いた。

「俺ねー、のりしお!」

「ああー」

 確かにそれも鉄板だな。

「もちろんうすしおも好きだけどね」

「そっかあ……朝比奈は?」

「俺は……」

 パリッ、とポテチを咀嚼した後、朝比奈はつぶやいた。

「辛いやつ。チリパウダーとか」

「お、そうきたか」

 食べてみたいと思いながらなかなか勇気が出ない筆頭の味だ。食べきれなかった時がもったいないもんなあ。

「辛いのは俺、あんま食ったことねえなあ」

「そうなのか」

「辛いのは勇気いるわ」

 朝比奈は不思議そうに首をかしげたものだ。

「そんなに辛くないと思うけどな……」

「辛さって、痛みらしいからねー」

 百瀬が笑って言った。

「やっぱ医者の息子ってことで、痛みに強いんじゃない?」

「いや、それは関係ないと思う……」

「俺、前に食った時、ひどい目に合ってさあ。それっきり辛いのはあんまり食わねえ」

 咲良はコーラを飲みながら苦笑する。

 あれだけ文句言ってた割には、めっちゃ食ってんなこいつ。

「辛さを和らげる方法って色々あるよな」

 ふとつぶやくと、咲良が真っ先にその話に乗ってきた。

「俺知ってる! 牛乳だろ?」

「あー、そうそう。水とかは飲まない方がいい、とかな」

 すると百瀬も何か思い出したようだ。

「油もいいって聞いたことあるよ」

「炭酸は逆効果らしいな」

「え、そうなん?」

 なるほど、辛さ対策とは結構あるものだな。

 今度牛乳でも買って、辛いポテチ、食ってみようかね。


 さて、辛いものは何も唐辛子だけじゃない。むしろこいつらの辛さはものすごくたちが悪いと思う。

 ししとう。

 いかにも「俺安全ですよ!」って見た目をしておきながら、えげつない辛さであることがある。もう唐辛子丸ごと食ったような、そんな感じ。

 そして今日、ばあちゃんからもらったししとうがある。辛いのがあるかもしれないから気を付けて食べてね、とのことだった。スリルも味わえる飯……いや、飯にスリルはいらんだろ。

 しかし、ししとうはおいしいのでもちろんありがたくいただく。

 薄切りベーコンを短冊状に切り、ししとうは洗っておく。油をひいたフライパンでこれを炒めたら完成だ。味は塩コショウのみ。

 万が一辛かった時のために、逃げ道として肉じゃがを用意しておく。これはばあちゃんが一緒に持ってきてくれたものだ。

「いただきます」

 さて、どうだ。辛いかな……。

 セーフ。辛くない。ピーマンにも似た青い香りがたまらない。結構うま味もあるし、ベーコンの味も相まってうまい。

 カリカリのベーコン、いいなあ。

 いくつか食べてみたけど、今回、辛いのないんじゃないか? 炒めてるときは辛いのあるなーって匂いしたから、だいぶ覚悟してたんだけど……。

「あっ」

 きた、油断したときにやってくるんだ。そうだった。

 一瞬で広がる辛さ。鼻に抜け、脳天まで突き刺すようだ。食道がジンジンする。気管すら痛い。息を吸ったらすごく痛い。

「っあ~、かっら~! お茶……じゃなくて、えっと。うあー」

 何とかしてジャガイモを口に放り込む。幾分かマイルドに……いや、辛いな。

 涙出てきた。痛い。百瀬の言ってた通り、辛さって、痛みだ。

「……よし」

 何とか落ち着いた。しかし、こういうのに当たると、次がなかなか食べづらい。

 ベーコンと一緒に、ちまちま食べよう。そうしよう。

「……肉じゃがうまいな」

 肉のうま味が溶け込んだ、トロトロの肉じゃが。胃にやさしいな。

 でもやっぱししとう食いたくなってきた。頼むから、もう辛いの、やめてくれよ。


「ごちそうさまでした」


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