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一条春都の料理帖  作者: 藤里 侑
日常
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第七十三話 春巻き

 風が涼しいと感じるときが増えてきた。特に朝晩はそうだ。

 昼間の日照りはまだまだ暑いが、それでも、真夏のような暑さはない。多少は過ごしやすくなってきただろうか。

「さて」

 カーテンを開けて日光を取り込めば、照明は必要ない。

 それにしてもいい天気だ。こんな日はぼんやりしながら本でも読んで、昼寝するのがいい。しかしそうもいかない。学習机の上には試験範囲とワーク。定期テストの勉強だ。

 ま、お菓子でも食べながらやるかね。

 今日は理系科目をするか。というか、テスト勉強として費やす時間の内、理系科目に割く時間が圧倒的に多いので、テスト勉強=理系科目対策という認識になってしまっている。もちろん、文系科目も手を抜いているわけではない。

 今日の勉強のお供はアーモンドが中に入ったチョコレートだ。スライド式の箱を開けて中の紙をめくる瞬間はワクワクする。ころころしたチョコレートはつやがあり、いい香りがする。

 飴焼きのアーモンドはカリッとしていて香ばしい。チョコレートも甘く、疲れた脳に染みわたるようだ。

 数学のワークが一通り終わったので休憩する。次は……化学基礎でもしようか。

「範囲どこだっけ……」

 付箋をつけておいた教科書をぱらぱらとめくる。

 理解できないわけではないが時間がかかるのでできるだけ見たくない化学式。周期表は中学で覚えた。ああ、炎色反応は少し楽しいかも。

 生物基礎も一応確認しとく。こっちはあまり苦手意識がないように思う。計算とかは当然面倒だし、覚えないといけないことも多いし大変だけど、結構好きかもしれない。

「さて、やるかー」

 提出しないといけないプリントもあるし、さっさと終わらせるか。


「……あ、なくなった」

 パクパク無心で食っていたら、あっという間にチョコレートはなくなってしまった。

「ん~……」

 教科書を閉じ、机の上を片付ける。

 いいや、今日はこれで終わりにしよう。

「わふっ」

 部屋の扉を開けて居間に行こうとしたら、うめずが座っていた。

「おー、ちょっとごめんなー」

 頭を撫でてやり、別のお菓子を取りに行くため台所に向かうとうめずも後ろからついてきた。

 これこれ、マカダミアナッツのチョコ。これもうまいんだ。

 ソファに座りパッケージを開けると、隣に座るうめずが鼻を近づけてきた。

「あ、だめだぞ。お前は食べられないからな」

「くぅん……」

 うめずにはうめずのおやつを準備する。犬用クッキー、結構いろいろ種類もあるし何なら俺のおやつの値段よりもはるかに高い。

 うめずが移動して広くなったソファにだらけて座り、テレビをつける。

 マカダミアナッツの食感は独特だ。アーモンドとかとは違う、こう、うまい例えが見当たらない。結構この食感が好きなんだよなあ。

『さて、今日の先生は……』

 CMが終わって始まったのは、料理番組だった。ああ、本とかも出てるあれか。

『今日は秋の味覚、キノコとサツマイモを使ったお料理です』

「キノコとサツマイモかあ」

 もうそんな季節か。何を作るんだ?

『今日は秋の味覚の春巻きをご紹介いたします』

 春巻き。春巻きか。

 そういや手作りしたことあったかな。いつも食う時は冷凍のやつとか買ってきてるし、精肉コーナーに春巻きの皮が置いてあるのは知ってるけど。

 ……手作り、うまそうだな。


 今日は買い物に行く予定ではなかったが……仕方ない。春巻きが食べたくなったのだ。

「あ」

 青果コーナーにはサツマイモが並んでいた。今日、テレビであっていたレシピだと使うのだが……。

「むぅ……」

 サツマイモ自体は食べたいけど、春巻きに入れるのはどうしようか。おいしそうではあったのだが、うーん。

 いいや。今回は入れないでおこう。でもイモは買っておく。ゆでるだけでうまいんだ。あとはたけのこの水煮。普段だったら買わないが、今日はしっかり作りたい。

 で、春巻きの皮と豚小間肉。春雨もちゃんと買わないと。

「こんなものか?」

 調味料は大体家にあるし、うん、これでいいだろう。


 よっしゃ、じゃ、作るとしますか。

 買い物に行く前に水で戻しておいた干しシイタケ、水気を切って刻む。戻し汁はとっておく。

 春雨はお湯で戻す前にはさみで切っておく。

 たけのこは細切りにする。豚小間肉も切っておかないと。

 フライパンにゴマ油をひいて、すりおろし生姜、豚小間肉を炒める。少し火が通ってきたら干しシイタケ、お湯で戻した春雨、タケノコの水煮を入れてさらに炒めていく。

 全体に火が通ったところで、戻し汁を入れる。味付けは、酒、醤油、オイスターソース、鶏ガラスープの素、そしてゴマ油だ。水溶き片栗粉でとろみをつけたら火を止める。

 粗熱が取れたところで、包んでいく。さて、上手に包めるか?

 ひし形に見えるように皮を置いて、手前の方に具をのせる。まず手前の皮を折って、ふちに水溶き片栗粉、そしたら左右の皮を折って、手前から折りたたんでいく。

 ……まあ、初めてにしては上出来だろう。

 具の配分はうまいこといったようだ。にしても集中しすぎた。肩が痛ぇ。

「あとは揚げるだけか」

 フライパンに油を注ぎ、熱したところにそっと入れる。

 よしよし。いい感じ……。

「うわっ!」

 いかん、爆発した。あー、包み方しくじったかあ。まあいいや。うちで食うやつだし。

 こんがりいい色に揚がったら完成だ。味付けはしてるけど、ポン酢とかも合いそうだ

「いただきます」

 春巻きは中がすごく熱いので気を付けて食べないとやけどしてしまう。

 表面はパリッパリで香ばしい。具に面したところはモチモチだ。餡はトロッと熱々で、オイスターソースの風味がいい。たけのこのシャキッとした食感に、シイタケの噛み応え。じゅわりとうま味が染み出してくる。

 春雨も程よく歯ごたえがあっていい。豚小間肉もやわらかくていいな。

 ポン酢をつけるとさっぱりといける。

「うん、おいしい」

 初めてにしてはうまいことできたんじゃないか?

 材料も手間も結構かかるから、そうしょっちゅうは作れないけど冷凍とはまた違っていい味出てる。

 今度は海鮮でも作ってみようか。海老とか入れるとうまそうだ。

 あとはいつか、サツマイモときのこのやつにもチャレンジしてみようかな。


「ごちそうさまでした」


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