第五十二話 外食
開いたばかりのショッピングモールは人が少なく、空気が澄んでいるように思う。開店前の店舗もあって、この独特な雰囲気は結構好きかもしれない。
「映画館何階だっけ?」
「んーと、四階だ。四階」
咲良と百瀬が先を行き、その後ろを俺と朝比奈がついて行く。
映画館は周囲のきらびやかな空間とはまた違い、暗いながらもどこかにぎやかだ。上映中、あるいは上映予定の広告はまぶしく、ポップコーンやポテトなんかのにおいで満たされている。
ポップコーンは塩やキャラメルの他にも、バナナやチョコ、チョコミント、果てはコーラやソーダ味まである。俺は塩とキャラメルのハーフを約束通り咲良におごってもらった。おごってもらった、といっても二人で食うが。朝比奈と百瀬は二人で一つ買うらしい。
「で、結局何にしたんだ?」
咲良が朝比奈と百瀬を振り返った。結構大きめの入れ物は持っているだけでワクワクした。
「チョコとバナナ!」
「あれ、コーラは?」
「いざ目の前にするとちょっとためらった」
あはは、と笑う百瀬の隣で、朝比奈はほっとしたような表情を浮かべている。茶色と黄色のポップコンのコントラスト。実にファンシーだ。
「スクリーン、どこ?」
「三だね」
最初の回とあってか客は少ない。すでに予告編や劇場マナーが映し出されていて、家では絶対に出さない大音量の音が響き渡っている。
通路側に百瀬が座り、朝比奈、俺、咲良と並ぶ。咲良との間にポップコーンは置くことにした。
俺は早くポップコーンが食べたくて仕方がない。スマホをマナーモードにして、バッグにしまう。
映画館のポップコーンって、自分ちで作ったりスーパーで買ったりするのとはやっぱり違う。塩だけの味じゃない感じ。うま味があるっていうのかな。
で、塩食ったらキャラメルが食いたくなる。カリッとサクッとした感じ、いいな。ちょっと厚めにかかったところもあるんだ。鼻に抜ける風味が好きだ。
「キャラメルポップコーンとか久しぶり過ぎ。うまいなぁ」
「な、ホントそれ」
「塩とキャラメルは王道だわ」
そうこうしているうちに画面が暗くなり、静かになると、照明がじわーっと落ち始めた。お、そろそろ始まるぞ。
このタイミングが一番ワクワクしている気がするのは、俺だけだろうか。
映画館を出て、すぐ近くのフードコートに席を取る。昼前なので食事をとっている人たちは少ないが、客の数はかなり増えてきた。
「すげー映画だったな」
咲良の言葉に、ぼんやりした頭が目を覚ます。映画の後は決まってぼーっとしてしまう。
「な、それ。すげー疾走感」
「出オチじゃんあんなの」
「常に画面がうるさかった」
でも楽しかったな、という意見で一致した後、各々で行きたい店に行った。といっても俺と朝比奈、咲良と百瀬は行きたい場所が一緒だったので、用が済んだらまたフードコートで落ち合うことにした。ちなみに俺たちはアニメグッズ専門店、咲良たちは洋服屋である。
結構早めに用が済んだ俺たちは近くにあったゲームセンターで時間をつぶすことにした。そしたら何の気なしにプレイしたユーフォーキャッチャーで二人そろって、両手で抱えるほどのバカでかいぬいぐるみをゲットしてしまった。
一応袋に入れたがはみ出す。合流した咲良たちにそれは盛大に笑われたし、不本意ながらその光景を写真に撮られた。
「昼飯何にするー?」
咲良が俺の取った景品を写真におさめながら聞く。まるっともちっとしたそのぬいぐるみ。結構抱き心地がいいので枕元にでも置いておこうか。
「フードコートでよくね?」
「だなぁ。お、いい写真取れた。春都入り」
「消せや」
フードコートには色々な店がある。まだ昼のピーク前なので、客の姿は少ない。
「今のうちに行こうぜ。人が増えると面倒じゃん」
「そうだねー」
席を確保しておくためにも二人ずつで買いに行くことにした。まずは朝比奈と百瀬が行く。
「それにしてもすげーね。春都、ユーフォ―キャッチャー上手なん?」
「いや、たまたまだ」
「にしても、妙な顔してんなぁ」
ぬいぐるみをもちもちしていたら二人が帰ってきた。
「何にした?」
「俺たこ焼き~」
「……うどん」
咲良と二人、入れ替わりに店に向かう。
俺はもう何を食べるか決めていたので、その店に一直線だ。
「お、ちゃんぽんか~」
出来上がりを待っていると、咲良が来た。咲良はラーメンにしたらしい。
「餃子付き」
「豪華~」
ちゃんぽんと餃子のセット。こんなところに来ないと最近はなかなか食べないもんなあ。家の近くにも店はあって、小さいころは家族と一緒によく食べに行ったものだが。
席に戻ると、今度は百瀬がぬいぐるみの写真撮影をしていた。
「お待たせ~」
「おー」
飲み物は……セルフサービスの水でいいだろ。
「いただきます」
豚骨ラーメンよりはあっさりしたスープ。野菜も結構山盛りで食べ応えがある。薄く黄色い麺は噛み応えがあって、ほんのり甘い気もする。
スープに浸しながら、野菜を食う。キャベツ、玉ねぎ、もやし、にんじん、あときくらげ。きぬさやが一番好きだ。パリッとした食感がたまらない。ピンクと白のコントラストがまぶしいかまぼこは長方形で、これもまたうまい。お、コーン発見。程よい甘さがいい。
「人増えてきたなー」
咲良の言葉に顔を上げれば、確かに家族連れや集団の客がわらわらいる。
「早めに買っといてよかった」
「待ち時間、ばかになんねーもんな」
俺たちがいる席は窓際の、人があまり寄り付かないところだった。すごく居心地がいい。
さて、餃子を食おう。この店の餃子は特製たれと、柚子胡椒で食べるのがいい。小さめだが結構数がある。しっかりした焼き目ともちっとした皮。タネは噛みしめると肉汁があふれる。ピリッと柚子胡椒がいいアクセントになっている。
このたれ、ちゃんぽんの麺につけるのも好きなんだよな。スープと一緒に麺を食べるのもいい。
あ、海老だ。ちっちゃいけど、あればうれしい。イカゲソとかも入ってるんだ。
「この後どうするー?」
百瀬の言葉に、咲良がいち早く反応する。
「あ、俺もゲーセン行きたい」
すると百瀬も楽しげに笑った。
「みんなで取っちゃう? ぬいぐるみ」
「いいねー、じゃ、決定だ」
そう簡単に取れるものではないが、俺も朝比奈も嘘のように取れてしまったので何とも言えない。
ま、こうやってだらだら過ごすのも悪くないな。
「ごちそうさまでした」