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一条春都の料理帖  作者: 藤里 侑
日常
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第五十話 わがまま飯

 今日は朝からセミがやかましい。

 カンカン照り、入道雲、蝉時雨、クーラー。これでもかというほどに夏を凝縮した日だ。十倍希釈ぐらいしてくれていいんだけどなぁ。

『不要不急の外出は控え、こまめな水分補給を――』

 気象予報士もそう言ってることだし、今日は一日家にいよう。

 いつもであれば何をしようか考えるのだが、今日はもうやることは決めている。というか、昨日からずっと準備してきた。

 今日は食いたいもんを食いたい時にただ食う日だ。

 特に理由はない。ただ、たまにそうしたくなる時がある。しょっちゅうはできないが、せっかくの長期休みだし、そういう日があってもいいだろう。

 たいていは食いたいもんを食いたいときに食ってるんだが、なんかそれとはちょっと違う。普段はお菓子とかは我慢するというか、悩んだら買わない、というスタンスを取っている。今日は逆だ。悩んだもんは全部食う。

 そして、手間を惜しまない。手の込んだものが食べたくなったらとことん手をかけるつもりだ。

「さて、と」

 朝飯はサバの塩焼きと、カボチャともやしのみそ汁。そしていんげんのごま和え。しかもサバはただの塩サバではなく、昆布締めの柚子風味だ。スーパーで見つけて食いたかったから買った。ご飯はもちろん炊きたてだ。

「いただきます」

 まずはみそ汁を一口。カボチャともやしのみそ汁は昔っから好きだ。ほろっとした食感のカボチャは味噌の風味と相まって、煮物とはまた違った風味がする。もやしもしゃきっとしていてみずみずしい。

 そしてサバ。パリッとした皮目に箸を入れれば、否が応にもテンションが上がる。ほくっとしたような身の部分を食べてみる。昆布締めしているからなのか、塩気がマイルドだ。柚子の風味は……おぉ、結構するな。めっちゃ柚子じゃん。正直ちょっと期待してなかったけど、いい風味。

 さて、脂ののった部分をいただく。じゅわーっとうま味が染み出す、というかあふれ出してくる。ご飯をそこにかきこめば理想的だ。

 いんげんの胡麻和えは結構好きで、冷凍食品のやつを弁当に入れることもある。豆の味とすりごま、醤油の味がよくなじんでおいしい。

 朝からこんな最高の飯が食えるとか、この時点でほぼ満足だ。しかし今日は己の食欲に素直になる日だ。さて、次は何を食べようか。

「ごちそうさまでした」


 腹ごなしにうめずの相手をしたら、ちょっと小腹が空いた。うめずは満足したようにソファで眠っている。

 昨日のうちにお菓子は買っておいた。ポテチ、チョコレート、アイス、その他もろもろ。ジュースもより取り見取り、コーラ、サイダー、オレンジ、メロンソーダ……使うコップは使い捨て。かち割り氷をたっぷり入れて、メロンソーダを注ぎ入れる。

 わざとらしい緑色が目にまぶしい。普段なかなか買わないから新鮮だ。そして今日はそこにアイスクリームをのせてクリームソーダにする。なんと今日は缶詰のサクランボも買ってきている。刺激的な緑に少しとろけたクリーム色、そしてシロップ漬けの赤。

 想像していたクリームソーダだ。まずはアイスを崩さずにジュースを飲む。

 シュワッとした甘さにぱちぱちはじける爽快感。メロンソーダは炭酸が少し強い気がする。そこにアイスを一口。若干表面が凍っている。シャリシャリしていながらも、ちゃんとクリーミーでいい。

 少し混ぜて飲んでみる。おわー、甘ぁ。なんか歯が浮いた感じするけど、おいしい。サクランボの甘さがかすみそうだ。でもシロップ漬けの威力たるや。うにうにした食感、わずかな歯ごたえ。これを食べると運動会を思い出す。弁当に絶対入ってたんだよなぁ。

 そして余ったアイスはポテチと一緒に食べる。うすしおとコンソメ、どっちもおいしい。うすしおはイモとアイスって感じで、コンソメはしょっぱさと甘さのバランスがちょうどいい。

 ナッツ入りのチョコレートをアイスに埋め込んでみる。一口で食べるにはちょっと量が多いか……うお、やっぱキーンッてする。チョコレートのとろける甘さととアイスのすっきりとしたバニラの風味にナッツの香ばしさがおいしい。

 クリームソーダを飲み干した後の氷にはアイスが少し雲の様にまとわりついている。これをなめるのがちょっと楽しみだ。水っぽい甘さだけど、癖になる。

「……さて」

 冷えた口にポップコーン。フライパンで作ったやつだ。ポンポン、ボンボンはじける様子は見ていて飽きなかった。塩味とカレー味。塩は安定のおいしさで、カレーはスパイスの風味が強くて食欲を増進させる。あ、そういや今度映画の時に食うんだったか。ま、いっか。

 そういえば撮り溜めていたドラマがあった。普段はあまりドラマを見ないし、ましてや今回録画したのは医療ものだ。いつもであれば医療ものは特に見ない。

 しかし、アニメの録画予約を消し忘れてたまたま録画されていたのだが「せっかく撮れてるしもったいねえな」という気持ちで見てみたら、これが面白かった。なんとなく展開が少年漫画っぽくてかっこいいんだ。

 新しいお菓子とジュースを開けて、準備万端だ。

 ちなみに用意したお菓子はカステラ、ジュースはオレンジだ。カステラは底にザラメが引いてあって、紙をはがすのがちょっと難しい。ふわんとした生地にジャリッとしたザラメ。うんうん、このザラメが好きなんだ。

 しかも今日は普通のやつだけじゃなくて、抹茶とチョコも買った。抹茶は風味がよく、チョコは意外とほろ苦くてさっぱりしている。むしろ抹茶の方が甘いんじゃなかろうか。

 さて、再生再生。録画はCMを飛ばせるのがいいよな。


「あ~、よく見た」

 ぶっ通しで見たからちょっと疲れた。ぐーっと伸びをして立ち上がる。

 昼飯はホットサンドを食べた。挟んだのはキャベツの千切りとレトルトのハンバーグ。味は照り焼きだ。かりっともちっと香ばしい食パンにシャキッとしたキャベツ。ハンバーグは甘辛くておいしかった。パンにもたれが染みてよかった。

 そしてもう一つ作ったのはチーズインハンバーグ。こっちはデミグラスソースである。トロっとしているというより、ほろほろっとした感じのチーズは結構香りが強かった。

 さて、お菓子やら何やらを食べていたので晩飯は控えめに――するわけもなく、しっかり腹が減っているのでがっつり食べる。

 今日の晩飯はから揚げ。もう下ごしらえはしている。キャベツの準備もばっちりだ。しかも今日は、もも肉と胸肉、どっちも準備した。贅沢だなあ。

 やっぱり揚げている途中に食べたくなるのだ。それも仕方ないよな。だってニンニクと醤油のにおいがスゲーんだもん。ちょっと一つ味見。……んー、おいしい。もも肉はめちゃくちゃジューシーだ。胸肉はさっぱり、肉の味がよく分かる。

 あー、早くご飯と一緒に食べたい。

 盛り付けは手際よく。今日はから揚げとご飯で腹を満たしたいのでみそ汁とかはなしである。

「いただきます」

 そのまま、まずはもも肉のから揚げ。カリッと香ばしい衣、プルンと、かつ、もっちりとした身。肉汁があふれ出し、飲めそうなほどだ。皮は焦げたニンニクの風味がする。

 もも肉は噛み応えがいい。レモンをかければよりさっぱりだ。

 ここでキャベツを一口。オリーブたっぷりのドレッシングがよく合うな。

 そして今日は、ポン酢をつけて食べてみる。さて、どうなるか。……お、結構いける。酸味でさっぱりしつつもうま味が加わっておいしい。へー、ポン酢結構合うなあ。今まで何でやらなかったんだろう。

 そうそう、マヨネーズも忘れないようにな。

 そしてやっぱりご飯に合う。月並みな表現だが、これに尽きる。

 あー、おいしい。最高に幸せだ。朝からずっと食べたいものを食欲のままに食べて、なんだか罰が当たってしまいそうだ。

 でも、たまにはいいよな。めいっぱい幸せ補充して、また頑張れたらそれで上々だ。


「ごちそうさまでした」


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