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一条春都の料理帖  作者: 藤里 侑
日常
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第四十九話 卵かけごはん

 ずいぶん静かな朝だ。

 慣れているはずだが、どことなくむなしい気持ちがするのは何だろうか。

 母さんは日が昇る前に、父さんは日が昇った直後に家を出た。どっちも見送りはしたけど、半分眠ったような状態でまともに舌が回っていたかは分からない。

 さて、今日は何をしよう。朝飯は昨日の残りがあるからそれでいいとして、昼と夜は。

 ……まあ、そん時考えるか。

 ぼんやりとしたまま、光を取り込むために居間のカーテンを開ける。

「――よく晴れてる」

 今日も暑くなりそうだ。


 煮物は温かいうちに食べるのもいいが、冷めたのもまたおいしいものである。炊きたてのご飯にのせて食べれば、温かいところと冷たいところ、どっちも食べられる。冷たい煮物はカボチャのねっちり感が強く感じられておいしい。

 そういえばカボチャは昔から好きだ。何なら物心つく前からずいぶん食べていたらしい。特にカボチャともやしのみそ汁。これは今でも好きなみそ汁の具材だ。

 最近は食べてないけど。

 久しぶりに作ってみようか……いや、なんか今日はそんな気分じゃない。また今度、気分が向いた時に作ろう。

 味噌玉を溶いて作ったみそ汁をすする。控えめな具材は確か豆腐だったかな。


「あー、また負けた」

 もうこれで何度目のゲームオーバーだろうか。セーブポイントに強制送還される。

 昔は育成へたくそだったなあと思っていたが、忘れていた。今もあんまり上手じゃない。

 そもそも戦うのが苦手なんだ。戦わなくていいなら極力戦いたくない。なんかもう、畑耕して牧場やら商店やら経営して、平和に暮らしていたい。そこにあるファンタジー要素はほんの少しでいい。

「やっぱ向いてないんだなあ」

 とりあえずもう一回セーブして、攻略本を手に取る。

 タイプの相性も、レベルもいい感じのはずなのだがなあ。やっぱ戦い方がへたくそなんかな。

 考え込んでいると腹が盛大に鳴った。そういやもう昼だ。さて、どうしようかな。

 何か作る気力もないしなあ。……コンビニでも行くか。


 コンビニの品ぞろえは結構すごいと思う。お、これコラボしてんじゃん。このアニメ見てないけど、最近ネットで話題になっているやつだ。父さんが気になってるって言ってたような。

 ……さて、何を食べたいだろうか。

 コンビニで飯を買うなんて、いつぶりだろう。自炊はじめてすぐのころは、うまいこと飯を作れなくてちょいちょい買いに来てたっけ。レジ横の保温機が無性に輝いて見える。おでんも魅力的だよなあ。

 とりあえず弁当を見てみよう。さっぱりしたようなものから、こってり系まで。

 冷やし中華も結構好きなんだよな。とろろそば、ざるそば、おろしうどんもいい。ざるそばの麺をほぐすために水がついてるけど、なんかあれ、好き。

 サラダもかなりの種類がある。チョレギ? うまそう。

 んんー、どうしよっかなあ。いいや、無難におにぎりにしよう。辛子高菜と明太マヨ。あとは大盛りのおろしうどんだな。そうだ、ポテトも買おう。コンビニのポテトも結構好きだ。ケチャップを忘れずにもらわないと。


 昼飯はダイニングテーブルじゃなくて、ローテーブルで食べよう。

 テレビをつければ、軒並みワイドショーが放送されている。あ、このチャンネル韓ドラだ。一時期母さんが見てたから、俺も一緒になってみてたことあったなあ。そん時に見たのは確か医療ものだったか。ワイドショーは夏休み編成というか、いつもとちょっと違う番組内容らしい。

 特に見たいものも何もないし、アニメでもつけよ。

「いただきます」

 うどんをほぐすのはちょっと下手だ。一回、盛大に滑って麺が丸ごと机にリリースされたことがある。ちゃんと食べたけど。

 大根おろしと麺をしっかり絡めてすする。大根の辛みはなく、みずみずしい。麺つゆの味が自分で作るのとは違う。甘みが強いのかな。かいわれ大根のピリッとした辛さがいいアクセントになるのだ。

 おにぎりの海苔はパリパリだ。このパッケージもうまく剥がせるようになるのにずいぶんかかった。辛子高菜は結構辛い。でも高菜の風味が好きなんだ。明太マヨはまろやかでいい。

 ポテトは端の方がちょっとかたい。その噛み応えが結構癖になる。塩気がじわーっと染み出して、ほくほくしている。ケチャップはたっぷりつけようかな。

「ごちそうさまでした」

 さて、晩飯まで時間があるけど何をしよう。

 そうだ。今度映画見に行ったとき、何食うか探しておこう。えーっと、ショッピングモールの名前なんだったっけ。

「おお、結構ある」

 確かに、よく聞くチェーン店の名前からよく知らない店の名前まで様々ある。ふーん、たこ焼き、ハンバーグ、パスタにとんかつ。へぇ、ステーキもあるのか。ビュッフェって……バイキングだったっけ。回転ずしもある。フードコートも結構より取り見取りだ。

「わふっ」

「お、うめずも一緒に見るか」

 うめずが近寄ってきて、スマホをのぞき込む。

 周辺にも飲食店はあるらしい。何があるんだろう。

 こっちは回らない寿司屋か。ファミレスもある。カフェって……腹にたまる飯あるかなあ。でもこのカフェ、確か量が多いって聞いたことがある。

 あ、この店、名前はよく聞くけど、行ったことないな。中華料理の店だ。ちょっと気になる。調べてみよう。……ふーん、結構安いんだな。餃子うまそう。から揚げとかもあるんだな。でも結構ショッピングモールから離れてんなぁ。


「あ、もうこんな時間か」

 メニューを色々調べていたら、もう夕方だ。

 うーん、今日の晩飯何にしよう。冷蔵庫に何があったっけ。卵と、漬物と、あとはバターとか……。

「……よっしゃ」

 まずは米を炊こう。


 どんぶり飯に、生卵を落とす。そこにさらに追加するのは、白菜、たくあん炒め、高菜だ。漬物はどれも刻んである。そこに少し醤油を垂らす。漬物がしょっぱいのでこれで良し。

「いただきます」

 ガーッと混ぜて、かきこむ。白菜の食感、高菜の風味、たくあんの香ばしさが卵のまったりした感じと相まっておいしい。結構ボリュームも増していいな。

 昼のうちに買ってきておいた、コンビニのみそ汁。具材はなめこだ。つるんとした口当たりと、プチプチとした触感。噛めば染み出すキノコの風味。若干トロッとした汁もうまい。

 さて、今日はここで終わりではない。

 お次も卵かけごはんだが、今度はバターをひとかけに醤油。バター醤油卵かけごはんだ。混ぜるとつやっつやで香りがすごい。バター醤油ご飯だけでもなかなかの破壊力だが、そこに卵って、どんな感じだろう。

 しょっぱなに襲ってくるのはバターの香り。醤油の香ばしさ。なんというかすごく濃厚だ。卵の存在がかすみそうだが、ちゃんとしっかり味がする。

 卵かけごはんって、結構アレンジできるものなんだな。また違うの試してみよう。

「はー……」

 なんか、今日一日、そわそわしていた気がする。

 でも、なんかいい感じに落ち着いた。今日は早く寝よう。そんで、また明日から頑張ろう。

 いや、特になにか頑張ることはないか。いつも通り、過ごすだけだな。


「ごちそうさまでした」


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