表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一条春都の料理帖  作者: 藤里 侑
日常
34/867

第三十四話 かき揚げサンド

「ん、なんだこれ」

 日曜の昼下がり。外も暑いから散歩にも行けず、することも特になかった俺は部屋の片づけをしていた。一応もうすぐ模試があるのだが、まあ、気分転換だ。

 台所の片付けに取り掛かったとき、何やら見慣れぬ箱が出てきた。

 正方形、ではなく若干長方形で厚みはそこまでなく、ずいぶんきれいな様子だ。白地の表面には黒文字で何やら書かれているが、全部英語だ。

「えーっと……ホット――あー。あれか」

 正体がわかったので中身を取り出す。

 出てきたのはホットサンドメーカーだ。こう、小さいフライパンを重ね合わせたような形をしている。そういや買ってたなあ。ほとんど使ってないけど。そもそもうちはパン食が少ないし、何回か焼いてからは、使ってないや。

「なんか作んねえとなあ~」

 せっかく買ったのだから使わなければもったいない。

 さて、何を作ろう。


「肉まん挟んで焼くとうまいって聞いたことあるぜ!」

 翌日、咲良にホットサンドメーカーのことを話すと、得意げにそう言われた。

「それ、もうやった」

「うまかったか?」

「んー、まあ、うん」

「その反応だと、あんまり代わり映えしなかったって感じだな?」

 図書館に何か本があるかとも思ったが、めぼしいものは見当たらなかった。

 昨日、スマホで調べてみようと思ったが、すっかりゲームに没頭してしまった。ウィークリーミッション、忘れてたんだ。

「そもそも俺、パン食わねえからなあ、あんまり」

「じゃあなんで買ったんだ」

 その指摘はもっともだ。

 でも、ほら、なんかちょっとあこがれたんだよ。キャンプとかで焼いてるの見たら、なんか楽しそうだったし。……まあ、キャンプ行かねえけど。

 どうしたものかとうなっていると、咲良が「じゃあ」と声を上げた。

「いっそのこと米焼いたら?」

「は?」

「パンの部分をご飯にしてさ、こう、なんか挟めばいいんじゃね? 焼きおにぎりみたいになりそうじゃん」

 確かに。パンは挟んでもいいけど、ご飯を挟んではいけないという道理はないよな。だって、肉まんも挟むし。

「お前、たまにはいいこと言うなあ」

「それは誉めてんの?」

 でも、何を挟もうか。焼きおにぎりとして考えたら……やっぱ肉か? うーん、何にしようか。

「あ、そうだ。お前んち行くの、模試の次の日どう?」

 咲良の声に思考が中断される。ま、後で買い物しながら考えるか。

「ん? ああ、今のところ予定はないな」

「じゃあさ、昼から来てもいい?」

「おー、いいぞ」

 今回の模試の結果をもとにして、三者面談をすると先生が言っていたな。

「模試やだなー。春都、勉強した?」

「んー、まあぼちぼち」

 特別に対策もしていないし、かといって全くやっていないわけでもない。ほんとにぼちぼちって感じだ。だが咲良はそれを信じていないのか、納得いかないという表情を浮かべた。

「そういう奴ほど勉強してんだよ。俺知ってる」

「なんだそれ」

「絶対点数悪い~って言っておきながら実は結構な点数取ってました、ってオチだろ、それ!」

「知るかよ」

 咲良はなぜか自信満々に腕を組み、胸を張って言ったものだ。その姿に思わず笑ってしまう。しかしまあ、咲良は真剣そのものだ。それがさらに笑いを誘ってくる。

「俺は、勉強してないって言ったら勉強してないし、詰んだと思ったら本当に詰んでる」

「そこ威張るとこじゃねえだろうよ」

 ふと時計を見ればそろそろ予鈴が鳴るころだった。

「じゃ、うちに来るのは今週の日曜だな」

「そうだな。ちゃんとお菓子買って来るから、安心しろよ!」

 いや、俺はお前の成績が心配だ。

 だがその言葉は飲み込み「楽しみにしてるよ」とだけ言って教室に戻った。


 あっけなく結論が出ることってあるもんだ。

 結構悩みに悩んだ、ご飯の間に挟むもの。ご飯は結構なんにでも合う、それゆえに選択肢が多すぎて一向に決まらなかった。

 しかし、総菜コーナーでそれを見つけた瞬間、その問題に決着がついた。

 かき揚げ。

 玉ねぎ、にんじん……その他さまざまな野菜がカラッと揚げられた、結構大きめのかき揚げだ。これを見つけたとき、なんというかしっくりきた。

 これ挟めばかき揚げ丼みたいになるんじゃね? と。

 そう考えると、牛肉とか豚肉を炊いたのを挟めば牛丼や豚丼みたいになるだろうし、鶏の照り焼きとかを挟んでもいいだろう。照り焼きのにはマヨネーズ入れてもいいかもしれない。

 しかし、かき揚げであれば、肉を炊く手間も照り焼きを作る手間も省ける。食べてみたいのは山々だが、また今度にしよう。

 まずはホットサンドメーカーに油をひく。そしてご飯をのせ、主役であるかき揚げをどんと豪快に。醤油をちょっと垂らしておこう。そしてまたご飯で挟んで……ギュッと!

「結構難しいなこれ……」

 何とか閉じて、焦げないように焼いていく。一回パンで作ったとき、めちゃくちゃに焦げたんだよな。確かそれで挫折したんだっけか……。

 恐る恐る開いてみる。おお、結構うまく焼けたみたいだ。

 皿に移して、出来上がり。

「いただきます」

 あとから醤油をまた少しかける。これ、どっから食べるのが正解なんだろう。とりあえずかぶりついてみる。

 ご飯のところ、挟んでいたからかちょっと餅感がある。かりっとおこげもできていておいしい。

 二口目でやっとかき揚げに到達する。玉ねぎの甘さがいい。醤油もいい感じに染みている。

 こうやって食べると、ご飯とおかずいっぺんに食えるからいいな。ご飯も香ばしいところともちっとしたところと食感が違っていて飽きない。かき揚げは正解だった。玉ねぎはもちろん、ニンジンの食感もいい。あ、このかき揚げ、海老の風味がする。桜エビが入ってんのか。

 それにしても、これ一つでかなりの満腹感だ。米、詰め過ぎたか?

 でもパン以外にも使えると分かれば、これからは使いこなしていけそうだ。昼飯とかにちょうどいいかもな。


「ごちそうさまでした」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ