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一条春都の料理帖  作者: 藤里 侑
日常
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第十一話 フライドポテト

 そろそろ夏服の生徒も目立ち始めた校内は若干落ち着きがない。それもそのはず。来週には中間試験が控え、しかもその二週間後には文化祭があるのだ。今は勉強プラス文化祭の準備で、皆一様にそわそわしていた。特に生徒会や文化部の生徒の中には嫌にピリピリしている奴ら多い。

 一方俺はというと、着実に近づいてくる梅雨の低気圧と夏の暑さの気配に憂鬱になりながら、テスト明けの飯のことを考えていた。

 最近はまともに弁当も作れてなかったし、どうせならおかずとしても弁当に入れられるものがいい。何があるだろうか。レンコンきんぴら、ハンバーグ、から揚げ……あ、豚のから揚げもありだな。カリカリに揚げるとうまい。いや、でもそれ弁当のおかずになる前に食いつくしてしまいそうだな。揚げるなら、がんもどきとかもいいかも。

 いろいろ作りたいものはあるが、まあ、後はその日の気分だ。これ作るぞーって朝に決めても、夕方までに二転三転することあるし。

「ほれ、席つけー」

 そうこうしているうちに次の授業の先生が来た。確か次の授業は古典だったか。今日から漢文に入るとか言ってたような。

「予習してきたかー? テスト範囲じゃないが、ちゃんとしとけよ。木曜から入るって言ってたろう」

「あ」

 思わず俺が声を上げると、教壇に立っていた先生がこちらを向いた。

「どうした一条、忘れたか」

「いや、ちゃんとやってます」

「そうかー? さっき、あ、って言ったの聞こえたぞ」

「何もないっす」

 いかん、忘れていた。

 今日は――海苔と卵が安いんだった。


 目当ての海苔は買えた。だが、卵はあいにく売り切れで、次に安いものを買った。

「えーっと、後は……」

 そういえば野菜のストックがあまりなかったので青果コーナーに向かう。トマト、キャベツ、もやし……あ、ジャガイモが安い。

 最近、イモ類を食ってなかった気がする。特に理由はないが、手っ取り早く食べられる葉物野菜ばっかりだった。キャベツをレンチンしてポン酢かけて食うのがいい。レタスがきれいなのがあったら、ゴマ油と塩でいける。

 しかし、イモ、なんか食いたいな。どうやって食べようか。こふきいも、肉じゃが、フライドポテト。

 ハンバーグの付け合わせのこふきいもってうまいんだよな。肉汁のうま味たっぷりのソース――デミグラスでも和風でも、トマトソースでもいいが、それをしみこませて食うのがいい。肉じゃがだったら、ニンジンと肉、あとは白滝だな。材料さえそろってしまえばなんてことはない。フライドポテトも久しく食べていないな。

 よし、一袋買っておこう。結構たくさん入っているので、色々使えそうだ。


 学校の定期テストはどうも苦手だ。

 普段の復習だけでこなせるならいいが、先生ごとの出題傾向とか、サービス問題とか、学習内容以外のことも考えなければならない。そういうのは苦手だ。だからまあ、中学一年生の途中からは考えなくなったわけだが。

「あ~、腹減ったあ」

 テスト前最後の休日。急遽、テスト後に提出しなければならなくなった国語のワークを朝からしていたわけだが、非常に疲れた。

 国語は割と得意なので高を括っていたが、「できる」ということと「疲労がない」ということは同義ではないということが分かった。得意だからといって疲れないわけではない。そりゃそうだよな。きついもんはきついよな。

 昼飯は食ったが、小腹がすいた。冷蔵庫に何か残っていただろうか。

「……んん~」

 これといってないな。さて、どうしたものか……

 あ、そういえばあれがあったな。ジャガイモ。フライドポテトでもするか。

 そうと決まればさっそく作ろう。ジャガイモの泥を洗い落とし、包丁で皮をむいていく。いくつぐらい揚げようか。小さめだし、五、六個にしようか。余れば晩飯にも回そう。

 うちで揚げるポテトの良さといえば、やや太めであることだろう。ファストフード店や冷凍のもののような細さも、それはそれでいいのだが、ここではやっぱり太めがいい。ていうかあの細さに切る自信がない。

 ざっくざっくと切ったら、片栗粉をまぶして、フライパンに熱した油で揚げていく。バチバチバチッと激しい音とともに油跳ねがすごいが、これもうまいものを食べるために必要なことだ。

 大皿にキッチンペーパーをひき、カリッと揚がったものからのせていく。糖度が高いのだろう、焦げやすいみたいだ。

 味は塩一択。あとでケチャップとかマヨネーズをつけるのがいい。最近気づいたが、焼き肉のたれとケチャップを混ぜると、バーベキューソースみたいになる。まあ、バーベキューって海外式焼肉みたいなもんだし、そりゃ味も似るか。

 さ、熱々が一番だ。さっそくいただこう。

「いただきます」

 サクッとした後にホックリした食感。めっちゃ熱い。これも家ポテトの醍醐味だ。塩気もちょうどよく、イモの甘さが引き立っている。やっぱり甘いな、このジャガイモ。

 ケチャップの酸味はイモの味を消してしまいそうだが、程よくつけるとうま味が増す。マヨネーズは塩気がマイルドになっていい。なんちゃってバーベキューソースもおいしくできた。もちろん明確な配合割合はないので、毎回味が違う。

 これ、タバスコ混ぜてもうまそうだな。入れてみるか。

 ピリッとした辛さと、酢の酸味が加わって味が引き締まる。これ、結構好きかもしれない。

 冷めてもうまいから、弁当に入れるのもありだなあ。それならケチャップオンリーがいいかな。

 皮をむいてないポテトも嫌いじゃないので、次はそのまま揚げてみるのもいい。皮ごと揚げるならまた新しいジャガイモを買ってくるか。小ぶりのジャガイモ、そのまま揚げると香ばしくておいしいんだ。

 サクサク食べ進めていたら、もうあっという間になくなってしまいそうである。晩飯までには残らなさそうだな。


「ごちそうさまでした」



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