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episode.01



「姫さまあああああああ!!!」


この日、涙目で白雪の部屋を訪ねて来たのは吸血鬼のスイだった。


「どうしましたか?」


「弟が!弟が倒れちゃったんだ!!」


「それは大変!すぐに行きましょう!」


白雪が魔界に来て約半年、今ではこうして魔族達に頼られる事もある存在だ。


スイには双子の弟、チイがいる。


弟が倒れたと、スイは迷う事なく白雪の元を訪ねた。


では白雪は医者だろうか?


否、医者では無い。それでもこうして頼られるのにはもちろん訳がある。


「毒を食べたんですね?」


「そう、多分そう。赤いキノコを食べたんだ。俺たち腹が空いてたから」


赤いキノコ。明らかに怪しいが、吸血鬼達にとって赤とは何色にも変え難い魅惑の色だ。


どこかの世界では赤いキノコは体を大きく強く成長させる作用があると聞くが、この世界ではまあ恐らくは毒キノコだ。


「スイも食べたのですか?」


「口には入れたけどチイが苦しみ出したから飲み込む前に吐き出したんだ」


それは良かった。2人も倒れていたらこうして助けも呼べなかっただろう。


スイの案内で白雪は吸血鬼達の住処にやってきた。どうやらスイが白雪を訪ねる前にチイをここに運んでいたらしい。


他の吸血鬼達がチイを取り囲んで心配そうに見ていた。


「ああ姫さま!」

「どうか、どうかお助けを」


魔族達は家族という垣根を超えて、種族同士の繋がりが強い。皆がチイを本気で心配していた。


「はい、大丈夫ですよ」


白雪は微笑む。かつて人界一とされ、人も魔族も魅了する微笑みで、吸血鬼達の緊張は少し解けた。


苦しそうに息をするチイの傍には、齧り付いた後のある赤いキノコが残されていた。


「これをチイが?」


「そう、何か分かるかと思って一緒に持ってきたんだ」


「そうですか、それは素晴らしい判断ですね」


白雪はまじまじとキノコを観察した後、吸血鬼達にお願い事をした。


「よく分からないので試してみましょう。10分経っても私の目が覚めなかったら、アーク様を呼んできて頂けますか?」


「必要なら今すぐにでも…」


「10分で目覚めたら問題ないので。一国の王子に無駄足を取らせるわけにはいきませんからね。」


「で、ですが姫さま……」


「私の事はお気になさらずに。元よりこういった体ですので」


「お願いしますね」と微笑んだ後、白雪は赤いキノコを一口齧る。ゆっくり咀嚼して嚥下するとほんの数秒で意識が絶たれ、パタリと力なく倒れ込んだ。




白雪は王子のキスで目を覚ます。


「おはようございます、アーク様」


「ああ」


短い返事に白雪は笑みを返した。


白雪を目覚めさせた2本の角に金の双眸を持ったこの男は、3年の長い眠りから白雪を目覚めさせた張本人、魔界の王子アーク。


白雪を魔界へ連れてきたのも勿論アークだ。


何をしているんだと呆れた視線を送られているのだが、白雪は気にする様子は無かった。


「さて、始めましょうか」


途中吸血鬼達の力も借りて、薬草やら毒物やらを煎じ、おどろおどろしい液体が完成する。


知らぬ者が見れば、毒キノコよりも毒のような見た目だった。


「姫さま…こ、これは………」


「はい。薬です」


薬を作っていたのだから薬が出来上がるのは当然なのだが、吸血鬼達は嘘だと言って欲しかったようだ。


アークはそんな様子を数歩下がった場所から腕を組んで見守っていた。


「姫さま…これには先程毒物をいれてませんでしたか?」


「はい、入れました。少量であれば薬です」


信じられないと口をあんぐりしている吸血鬼達に構わず、白雪は問答無用でそのドロっとした液体をチイの口に含ませた。


ごくんと喉仏が動くと、周りは心配なようでザワザワした。


その時まで、1分とかからなかった。


パチリと急に目を開けたチイはこれまた急に上半身を起こし、周囲は先程までのざわめきが嘘のように静まり返った。


「………まずーーーーーーーーーーーー!!」


チイの叫び声は人界まで届きそうな程大きく、近くにいた者達は思わず耳を塞ぐ程だったり


チイはチイで状況をうまく理解出来ないのか、叫び終わると「あれ?姫さま?」と首を傾げていた。


「意識も問題ありませんね、良かったです。」


白雪が微笑むと吸血鬼達は歓喜した。このまま今夜は宴になりそうな勢いだ。


「チイもスイも、皆さんも気をつけてくださいね。赤いものは全て美味しいとは限りませんよ?特にキノコなんて毒を持ってる種類も多いですから………」


言いながら立ち上がろうとした白雪だったが、視界が歪み、途端に体はバランスを崩して倒れ込みそうになったのをアークが見逃さなかった。


「…ありがとうございます、アーク様。逞しいお体、素敵です」


「言ってる場合か」


アークはひょいといとも簡単に白雪を抱え上げた、


「ひっ、姫さまっ!?」


チイの意識が戻った代わりに白雪が倒れたと、吸血鬼達が心配そうにこちらをみていた。スイに至ってはまたしても涙目である。


「大丈夫ですよ、問題ありません」


「姫さま、毒を食ったから!薬も飲んでないし、きっとまだ毒が体に残ってるんだ」


スイの推測は正しい。まさにその通りだ。


白雪の体は、眠っていた3年の間にあらゆる毒物への耐性を持つ体へと変化していた。


一度体に取り入れればどういった効力で何で中和出来るのか分かる便利な体になった。


だが、濃い毒素は10分では流石に解析するのが限界で消化するまでには至らず、未だ白雪の体を蝕んでいる。


それでも白雪は余裕そうに微笑むのには訳がある。


白雪にはアークという名の特効薬があるからだ。


「心配しなくても、本当に大丈夫ですよ。私の体は少々特殊なので、アーク様とえっちな事をしたらすぐに治りますから」


「……………えっち?」


何を想像したのか、吸血鬼達、特に年頃の者達は頬を赤く染めて言葉を失っていた。


白雪は微笑み、アークはポーカーフェイスのまま白雪を抱き抱えて踵を返したのだった。






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