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episode.12



「おっ、おおおお、おま、お前っ!?」


怯えるなら啖呵を切らなければいいのにと思いつつ、アークはアルマを無視して白雪を見下ろした。


「どけ」


「なっ…何を………!わ、私はこの国の時期王になる者だぞ!」


「聞こえなかったのか?そこをどけと言ったんだ」


「ヒイッ!」


この部屋を取り囲んでいた衛兵にも、医者にも薬屋にも、この王子にも


アークは一切手出しをしていない。


それでも醸し出すオーラと威圧的な口調だけで、黙らせるには十分だった。


ローブを深く被った老婆の魔女だけは、先刻から態度を変える事なくただそこに佇んでいる。


アークは迷う事なく白雪の肩を抱き、僅かにその体を起こす。


見せ物では無いし、この阿呆王子の次になったというのが気に食わなかったが、それでもアークは慣れた手つきで白雪に口付けた。


俺の隣は、お前が相応しいのだろう?白雪


心の声は吐息となって漏れてくる。


アークはゆっくりと体を起こすと静かに白雪を見下ろした。





白雪は目を覚ます。魔界の王子のキスで目を覚ます。


「………おはようございます、アーク様」


やはり白雪は誰よりも美しい笑みを浮かべて、アークを見上げていた。


「いっ……生き返った………」


先程、自分でも白雪を生き返らそうとしていた割に、いざ白雪が再び息を吹き返すとそれはそれで化け物を見るかのように阿呆王子は驚き腰を抜かしていた。


そんな周りの状況に、白雪は目もくれず、ただアークを見つめていた。


「わざわざこんな所までお迎えいただき光栄です、アーク様」


「…随分無茶をする」


「はい!埋められる前に迎えがくれば良いなと思っていましたが、よかったです」


ふん、とアークは鼻で笑った。


これまでの様子を静かに見守っていた老婆の魔女が口を開く。


「どうやら呪いの効力は誰でも良いわけでは無いようですな。初めに眠りから目覚めさせた者に、その後の権限が与えられるのでしょう」


誰でも良くてたまるかとアークは心の中で悪態をついた。


あの阿呆が白雪に口付けているのを見た時、自分にこんなにも嫉妬めいた感情があると初めて知った。


自分以外の誰かのものになるくらいなら、壊してしまった方がいいと本気で思った。


正直、今でもそう思っている。


そんな苦い心地のアークを他所に、白雪は得意げに人差し指を立てた。


「やはり、私に必要なのはアーク様ただ1人ですね」


「そ、そいつは魔物だぞ!化け物じゃ無いか!!」


まだ腰が立たない阿呆王子が口先だけは強がって見せると、これまで常に穏やかでニコニコと微笑んでいた白雪が初めてその顔から笑みを消した。


「だからあなたは必要ないと言ったんです。自分が正しいと疑わず、自分と違うものは排除する。そうして魔物達は暗黒の世界へと追いやられました。この国の歴代の王は大馬鹿者です。あなたも、やはり馬鹿の血を継ぐ者ですね。………愚か者」


未だかつて、こんなにも冷たい白雪をアークは見た事が無かった。


いつも穏やかで良く頭が回って、アークが何を言っても冗談めかして返してくるのが白雪だと思っていた。


こんな顔をする事もあるのか、と。


それも、やはり自分の事ではなく、アークや他の魔物達のために。


「馬鹿…だと………?」


白雪は微笑みを取り戻し、またにこやかに笑いながら答える。


「ただの馬鹿では済みませんよ。大馬鹿者と言ったんです。あなたがいずれこの国の王となる時、魔物達と手を取るつもりなら、私がその架け橋になれるかもしれないなど淡く期待していましたが、やはり残念な人ですね」


「しっ…失礼だぞ!しょ、庶民が私にそのような口を聞いてタダで済むと思ってるのか!?」


2人を仲裁すべく、今度はアークが口を開いた。


「そう言えば名乗っていなかったな。俺の名はアーク・サンダリア。魔界国第一王子で、白雪は俺が妃に望む娘だ。彼女への異議申し立てでてれば俺が話を聞こう」


「へっ……………」


アークの言葉にアルマは間抜けな声を漏らし、固まっていた。


女性には強気に出る割に、アークには怯えすぎなほど怯えている。


真っ直ぐに鋭い視線をアルマに向けるアークを、白雪はうっとりと見上げていた。


こうして迎えに来てくれただけでなく、庇うような言葉まで貰ってしまった。


「この恩は体で返すしか」


「………声が漏れているぞ」


「わざとですよ」


こんな時でもこんな調子なのかとアークは呆れつつ、白雪がこの腕の中で熱を持って息をしているという事実にホッとする。


そして、ああそうだと思い出して付け足した。


「それから、今回の件に関しては拉致監禁案件とし、相応の対処をさせてもらう。名誉毀損と猥せつも加えるか」


「……猥せつ?何かされたのでしょうか」


顔を青くするアルマに変わって白雪が首を傾げた。


「聞くな。殺してしまいそうになる」


やけに険しい顔をされてしまったが、服はきちんと着ているし体に異常も見当たらない。


知っておきたい気持ちもあるが、アークに人殺しをさせるわけにもいかないので今は黙っている事にした。


「アーク様…少し……眠く…」


まだ体に毒素が残っている。消化してしまおうと体が反応して白雪は途端に眠気に襲われた。


そんな白雪をアークは軽々しく抱き上げ囁く。


「帰るか」


白雪は微笑み眠りについた。







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