episode.09
「あ、アーク様。あの人は懲罰房行きで良いですかね?」
「ああ」
ミダラは容姿ばかりは穏やかそうに見せておきながら、中身は魔物らしく残忍なところがある。
「イザナはどうしてる」
「まあ、姫さまがあんな事になっちゃったんで、責任感じて私も懲罰房に行くって泣いてますよ」
「そうか」
護衛を任せていた以上、それに不備があった事は確かだ。自分に油断があったことも確かだが、なんの咎めも無しでは仕事に忠実な2人は納得しないだろう。
何か、考えなければいけない。
「3ヶ月、人界への出入り禁止でどうだ」
「はははっ!それはキツい。ですが、ちょうど良いですかね」
淫魔は人間の精気を生きる糧とする。それを禁止するのは3ヶ月程度では死にはしないだろうが、ストレスは溜まるだろう。
ミダラは「3ヶ月かぁ〜、我慢できるかなぁ〜」なんて言っているが、罰則に異論はないらしい。
「それにしても、よく戻ってきましたね」
「?」
「てっきりあのまま朝まで一緒かと」
「こちらを放っておくわけにはいかないだろ」
「朝までくらいだったら適当に時間稼ぎくらいしますよ。僕なら我慢出来ない」
ミダラと話しながら夜会会場をチラリと覗いたが、先ほどまでの騒ぎが嘘のようにパーティーは続いていた。
もう戻る気にもならないが、予定通りこのまま続くのだろう。
「すぐに壊れそうだろ」
「え?何がです?」
「だから手出しはできない」
一時の昂った感情で壊してしまうには惜しい。
「姫さまですか?まあ、彼女は人間ですけど、そこらの人間より屈強じゃないですか、心も体も」
「毒で死なないだけだ。体は脆い」
「まあ、アーク様が我慢出来るなら僕は構わないですけど。耐えられなくなったらいつでも教えますよ、人間を壊さない加減の仕方」
「……………」
人の気も知らないで生意気な男だ。罰則を増やしたくなる。
「お前は白雪の部屋の警備に。俺はイザナの様子を見てくる」
「僕で良いんですか?僕は淫魔ですよ」
「彼女に手を出したらどうなるかくらい分かるだろ。早く行け」
この時、この一瞬、あの部屋に警備も付けずに離れた事をアークは酷く後悔することとなった。




