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閑話:ステファニーからの書簡 再び

 愛すべき弟、ギルへ


 生存確認で連絡します。まだ、生きてるぅ?


 この手紙読んでるってことは、カーラルまでは何とか着いたんだろうなとは思うから、きちんとお母様に事情や近況を知らせる手紙を出してください。


 何とかお兄様が「大公殿下との取引をしたんだ」と誤魔化して「どうしてこんな事になったの? ギル達をどこにやったの?!」とおかんむりのお母様をなだめたものの、お父様は「あなたが付いていながら!」とこっ酷く叱られてしまって、しゅんとしちゃって可哀想なことになっているわ。


 ちゃんとお母様にも事情を伝えておかないと、リジーを社交界デビューさせるのを楽しみにしてたんだから。(あの婚約式の騒ぎじゃ、私も「しばらく大人しくしていた方がいい」って言うお父様やお兄様の言い分に賛成だけれど。)


 こっちでご機嫌取りしておくけれど、その分はそっちでキリキリ働いてちょうだいね。


 さて、もうウィンザー家のご令息より話を聞いているかもしれないけれど、季節外れの狐狩りをする事になりました。


 陛下のご許可も頂いたのだけれど、あいにくそっち方面の巣穴を埋める作業までは手が回りそうにないの。そこで、そっちからも巣穴を埋めてちょうだい。


 なお、ボイル家のご令息もそっちに行っているらしいので、二人で()()()やるように、と陛下からの通達よ。


 でも、ボイル家のご令息はなかなか会って下さらないだろうから、リジーの侍女にでも扮して紛れ込んで話を詰めてきて。役に立ちそうなものは大公殿下にもお話して、あなたの優秀な猟犬と共に必要な物資を届けてくださるように手筈は取ってあるわ。


 直接見られないのが残念だけど、ギルの可愛い侍女姿といい仕事してくれるの、期待して待っているわね。


 王暦XXX年9月吉日


              ステファニー=A=エルガー


 ◇


 ステファニーが手紙をフィリップに渡した翌日の午後、普段、使っている仕立て屋のデザイナーに、既製服を持ってきて貰ってきて、あれこれと吟味をし始めた。


「珍しいですわね、既製品を、しかも大きめなのを持ってきて欲しいだなんて。」

「今回は、急ぎの仕事なのよ。ごめんなさいね。」

「いえ、サイズ直しなら、なんとでもなりますから。」

「これが調整して欲しいサイズなんだけど、出来るかしら・・・・・・。」


 しかし、その内容に目を通した仕立て屋のデザイナーは「え」と短く声を詰まらせてステファニーを見る。


「足りない分の布代は、もちろん用立てるわ。けれど、一から作っていると間に合わないの。そう何度も着るものではないし、それらしく見えれば問題ないわ。」

「そうですか・・・・・・。でしたら、こちら側で編み上げにして、丈は十センチ程でしょうか? 上手くフリルに見えるようにすればそれらしくは見えるかと存じます。」

「まあ、それはいいわね! 最短どれ位で出来る?」

「その程度したら、ウエスト周りのところと丈は即日でお直ししますわ。ただ・・・・・・。」

「ああ、バストね。その辺りは何か詰め物させるからいいわよ。」


 傍で聞いていたメアリーも、洋服店の店主の受け答えに「え」と口にして、ステファニーの視線にハッとする。


「メアリー、どうかした?」

「あ、いえ、何でもございません。失礼致しました。」


 ステファニーは「そう?」と話すとニコリとして、「あ、ちょうど同じような体格の子がいるの!」と言うと「ロバートを呼んできてくれる?」と楽しそうに笑う。

 メアリーはそれを聞くとステファニーが『誰』用のドレスを作っているのか確信して、困ったように笑った。


「ロバートが逃げ出すんじゃありませんこと?」

「あら、彼に着てくれって言うわけじゃないもの。ちょっと布をあてさせて貰うだけよ? 何か言ってくるようなら、ロバート遣いの荒いギルへの仕置きのためだとでも言うから。」


 ふふんと楽しそうにするステファニーの様子にメアリーが肩を竦める。


「あ、もっと面白いことを考えてくれそうだから、ついでにサムも呼んできてくれない?」

「・・・・・・承知しました。」


 そうは言いつつも、ステファニーとサムの組み合わせじゃ、羽目を外し過ぎてしまいそうだから、ストッパーとしてアンも呼んでこようと心に決める。


(ああ、でも、旦那様とブライアン坊っちゃまにお伝えしておこうかしら・・・・・・。)


 このまま、ステファニーが暴走すると、ルーカスとブライアンのため息が一層深いものになりそうな気がする。


「メアリー、百面相してどうかしたの?」


 ロバートを探しに使用人部屋に向かっている最中、頼みの綱のアンと女中頭のミセスラッセルに行き合い、迷いなく声を掛けた。


「ミセスラッセル、ミセススミス! どうかお知恵をお貸しいただけませんか?」

「え、ええ。構いませんよ。どうしました?」


 それからステファニーの目論見を話せば、ミセスラッセルもアンもふふっと笑い出す。


「ステファニーお嬢様らしいお考えね。公爵様とブライアン様にはこちらから報告するから、あなたはロバートを呼んでいらっしゃい。」

「ステファニーお嬢様はあのままに?」

「ええ、その辺りは公爵様か、ブライアン様が手網を取ってくださいますでしょう。」


 そう言ってミセスラッセルが笑うから、メアリーは安心したように頷き、ロバートを探しに向かう。

 アンはその後ろ姿を見届けると少しばかり切ない気持ちになった。


(エリザベス様は不撓不屈ってタイプだけれど、ステファニー様は天真爛漫ってタイプね・・・・・・。)


 叶わない「もし」だとは分かっているものの、エリザベスが王城で育てられていたなら、こんな風に蝶よ、花よと可愛がられて、もっと笑顔に溢れていたのではと思えてくる。


(お二人ともご無事かしら・・・・・・。)


 ジェニファーがギルバートを酷く心配して、ルーカスやブライアンに詰め寄っていたけれど、アンはこの不安とやるせない気持ちを誰かに押し付ける事も出来なくて、エプロンを握り締めた。


(ううん、トムが付いているんですもの、無事に決まっているわね・・・・・・。)


 トムは腕っ節も強いし、きっと二人を助けてくれるに違いない。


「ミセススミス、そう心配なさらないで。きっとお二人はご無事ですよ。」


 自分より年若い、けれど、芯のあるミセスラッセルに言いきられると、不思議と安心する。アンは気を取り直して、彼女に「ありがとうございます」と言って一礼すると、廊下を進み階段下へ向かった。


「げ、アン・・・・・・ッ!」


 困惑した様子のロバートと、ワクワクした表情のサムが上に上がってくるところだった。


「サム、『げ』とは何ですか。」


 回れ右をし始めたサムを咎めたものの、ステファニーが二人を呼んでいることは知っていたから、アンは「ステファニーお嬢様の前で、同じような態度を取らないように」と告げただけで道を空ける。


「ロバート、悪いけれど、ステファニー様だけでなく、サムが調子に乗らないように見張ってておいてちょうだい。」


 すると、ロバートはふっと笑みを漏らして、「分かりました」と話した。一方、お咎めなしだと知ると、サムは足早に階段を上り「早く行こう」と、同じ年頃か、むしろ年下のロバートを急かす。アンはいつまでも落ち着きのないサムを見送りながら「これも育て方が違ったら、もう少しマシだったかしら」と眺め見た。


 ◇


「うーん、花柄よりもシックに無地で纏めようかしら。」

「そうですわね、ただそのままだと淋しくなってしまいますから、体形を目立たなくさせるようにモスリンの生地などにしてはいかがでしょうか?」

「けれど、それでは主であるはずのリジーより目立ってしまわない?」


 ロバートとサムが、ステファニーの部屋に入れてもらった時、ステファニーは「既製品のサイズ直しとは言え、選ぶのが難しいわね」と悩んでいた。


「お呼びと伺い、参じましたが・・・・・・。」


 てっきり力仕事か何かだと思っていたのに、ステファニーは「ロバートに似合うのはギルも似合うと思って呼んだの!」と手招かれて面を食らう。


「へ? え? ギルバート様にお仕立てになるんですか?」

「ううん、サイズ直しで対応しようと思って。ああ、サムも来てくれたのね。ギルに似合いそうなの、選ぶの手伝ってくれない?」


 それにはサムも面食らったような顔で、ステファニーを見て、それから「ギルの旦那に何か恨みでもできたんですか?」と訊ねた。


「やーねー! 逆よ、逆。可愛いギルを助けてあげるのに、潜入用のドレスを送ってあげようと思っているのよ?」

「潜入用、ですか?」


 ロバートとサムが顔を見合わせれば、ステファニーは「二人とも明後日にはあちらに向かうんでしょう? それまでには間に合わせないといけないじゃない?」と大量のドレスの山を見る。


「ギルは理詰めで相手を追い込みがちでしょう? 今までみたいに儀典関係で取り仕切りするなら、ホストを支えてゲストに楽しく過ごしてもらうだけで良かったけれど、政治に関わるんなら、お兄様のように『遊び』の部分が足りないのよ。時に道化になる事も、そろそろ覚えて貰わなくては。」


 それを聞くと、サムも「ああ、確かにギルの旦那は生真面目だからなあ」と言い、ロバートまで「確かに計画通りに進行させる事には長けていらっしゃいますが、遊びの点ではホストである陛下や王太子殿下が上手く采配を取っていましたからね」と頷く。


「でっしょーッ! だから、これは姉なりの激励なのよ。でも、リジーの侍女として潜入させるのに、派手過ぎず、でも、ギルの顔立ちの良さは上手く生かしたいじゃない?」


 うふふと、ステファニーが微笑むと、サムは調子に乗って「うちのお嬢より別嬪さんになりそうですよね♪」と、どれどれとドレスを選び始める。一方、ギルバートの代わりにマネキン代わりにされ始めたロバートは「つまり、私で試してみようとお考えなのですね」と肩を竦めた。


「あら、話が早くて助かるわ。そっくりに変装できるロバートが似合えば、ギルもだいたい似合うでしょう? 髪色を合わせるのに、いつものウィッグもつけてくれるともっと助かるけれど・・・・・・。」

「仰せのままに。テイラー夫人、主の名誉のためにも、Mrs.Taylor(ミセス・テイラー)の看板のためにも、この事は他言無用にお願いしますよ?」

「もちろんですわ。この事は墓の中まで持っていきます。」


 ロバートが頷き「ウィッグを取って参ります」と部屋を出ていき、入れ替わりにブライアンが顔を覗かせる。


「ステフ、ちょっと邪魔するぞ。」

「あら、お兄様。いかがなさいました?」

「メアリーがすっ飛んできたよ。 話を聞いたぞ? ギルを虐めるのも程々にしておきなさい。」

「まあ、お兄様も人聞きの悪い。私は『可愛い子には旅をさせよ』と思っている口でしてよ?」

「いや、それでどうしてギルバートにドレスを送り付ける流れになるんだ?」

「陛下から『エルガー家、ボイル家、両家で協力して事にあたるように』との通達が出たでしょう? それなのに息子同士で喧嘩したらまずいんじゃないの?」


 しかも、アルバートがヴェールズ公国に向かった理由はエリザベスの見極めのためと、ソフィアから聞いたステファニーは二人を喧嘩させずに合わせる方法を考えたのだと言う。


「そのまま、二人が会うように仕向けたら、リジーを挟んで、良くて舌戦、悪くすれば血を見るわよ?」

「そうならないように、大公殿下を使うとか、ウィンザー家のご令息に間に入ってもらうとか、他の方法はなかったのか?」

「あら、そんなことをしたら、大公殿下にリジーを奪われる口実を作ったり、ウィンザー家に出しか抜かれかねないでしょう?」


 しかし、ブライアンは「いくらなんでも形振り構わな過ぎだろう」と眉間に皺を寄せる。


「まあ、あいつが片道切符分しか考えてなさそうだったから、父さんに頼んで例の印章をトムに渡してあるし、それを使ったとしたら、アルバートの奴も応じない訳には行くまい。」

「それで応じてもらって? 結果、喧嘩別れしたら、ギルの命が危険だわ。違う?」


 こうなった時のステファニーは、母のジェニファー以上に頑迷だと知っていたから、ブライアンは「はあ」とため息を吐く。

 後ろからそっと入ってきて、二人のやり取りを聞いていたアンは「その辺りになさいませ」と二人のことを止めた。


「お二人とも、ギルバート様の事を思ってのことかと存じますが、今、言い争っても詮のないことにございます。それにブライアン様、切れるカードは多い方がギルバート様も助かるのではないでしょうか?」

「まあ、それはそうかもしれないが・・・・・・。」

「それとステファニー様。お考えは承知しましたが、あまり旦那様の評判が落ちるような格好は、仕えるものとして受け入れかねます。あまり扇情的な仕立てや愛らし過ぎるものは省いていただき、禁欲的、儀礼的なドレスをお選びくださいませ。」


 サムが手にしていた派手なドレスを見て話せば、ステファニーも「そうね、サム。私が選んで欲しかったのは、イブニングドレスよりはデイドレスだわ」と苦笑する。


「チェーッ、ギルの旦那を可愛くしたかったのに。絶対、化粧すれば美人になると思いますよ?」

「・・・・・・サム、お前は黙っといで。」


 アンがじっとりとした視線をサムに向けたところで、サムは肩を竦めて、すごすごと選んだイブニングドレスを元に戻しに行く。

 一方、そんなやり取りをしているとも知らないで、ロバートがギルバートに変装する時に使っているウィッグを持って戻ってきた。


「ロビン、お前もか・・・・・・。」


 ロバートが手にしているものに気がつくと、ブライアンは寄ってたかって、おもちゃにされるだろう末っ子の弟を不憫に思った。

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