公爵家ってどういうことですか?(1)
朝六時。コンコンコンと三度、居丈高にノックが鳴る。
「どーぞ。」
年季が入りレトロなデザインのドアは、ガチャリと重ための音を立ててゆっくりと開いた。
「お嬢様、いつまでお休みですか? お支度をなさってくださいませ。」
ここはグニシア王国の南部、スペンサー男爵の邸宅内、西の棟の二階にある一室だ。かつては祖父のエドガーもこの二階に暮らしていたのだが、数年前に体調を崩して足を悪くしてからは、東の棟の一階に移ったから、この西の棟には私だけが住んでいる状態だ。
もちろん、居候の身では決まった侍女も居ない。乳母のアンが当番の時は助けてくれるけれど、そうでない時は身支度どころか、その手前の準備も自分自身でする。
「あら、とっくに起きて、身支度も出来ているんだけど。誰かさんが手伝って下さらなくてもね。」
今日はこの「ベス」が私の担当なのだろう、赤毛を引っ詰めにした彼女は、ぶすっとした顔のまま、片眉を上げて、つかつかと部屋の中に入ってくる。そして、乱暴にカーテンを開けると「皆様、東の棟でお待ちですが?」と嫌味混じりに話した。
「あら、皆様、東の棟に寝泊まりしているのだもの、東の棟にいるに決まっているでしょう? 何を当たり前のことを言っているの?」
嫌味には嫌味で応酬しながら、にっこりと微笑み返すと、ベスは髪色と同じように顔を真っ赤にして「居候の分際で」と悪態を吐いてくる。
本当ならこうしたベスの態度は、とてもハウスメイドの態度としては許されるものではないのだが、フンと鼻を鳴らして遇うのに留めた。
ベスの言う「皆様」が祖父だけだったなら、こんな態度の悪い家事使用人、即刻、解雇を言い渡してもらって辞めてもらっていただろう。
では、何故、それをしないかって?
それはひとえに彼女が「伯母のお気に入り」だからだ。彼女は伯母の言われた通りに、せっせとエリザベスに嫌がらせをし、伯母にその話を報告しては駄賃をもらうのを良しとしているからだ。
(どうせベスの態度について言ったところで詮のないことだし……。)
デビュタントの翌日に正式に爵位や家督が伯父に移ってしまったのもあるが、こうしたことを祖父に言っても、伯父や伯母は「些細な失敗を許さない狭量な子」だの、「意地の悪い性悪娘」だのと言われておしまいになるか、下手すると「そんなに気に食わないなら」とこちらがお仕置きと称して部屋に閉じ込められてしまう可能性もある。
(五年前は本当散々だったもの。もう軟禁状態だけは勘弁だわ……。)
白と薄紫色を基調とした配色の壁に、所々、モスグリーンが差し色で入っている落ち着いた色合いの部屋はエリザベスにとってお気に入りの部屋ではあるものの、二ヶ月半近く、粗末な食事でこの部屋に閉じ込められた事のある身としては、たとえこの部屋が赤ん坊の頃から使っていて愛着のある部屋だとしても、二度と閉じ込められたくはなかった。
「全く旦那様も奥様も素晴らしい方ですのに。お嬢様はどうしてこうも口性のない方でいらっしゃるのでしょう? ただでも劣っていらっしゃるのですから、くれぐれも旦那様の顔に泥を塗るような真似はなさらないでくださいませ。」
ド平民のハウスメイドごときに「劣っている」と言われてカチンとは来るものの、伯爵家生まれの伯母に言わせれば、私は「誉れある英傑、スペンサー男爵家の唯一の不名誉」だそうだ。
しかも、彼女に言わせると、祖父が存命中で後見しており、建物も別にしているというのに「身寄りのない姪を渋々育てている」気分らしい。
(本当、あの盗人猛々しい奴らの言いなりになるしかないのが、腹立たしいわね……。)
祖父も高齢だし、伯父に爵位や家督を譲るのは前々から決まっていたことだ。だが、こうも立場が弱くなってしまうと祖父のエドガーに告げ口と文句のひとつも言いたくなってくる。
(でも、お祖父様が口を出さなくなったからって、お祖父様が猫可愛がりしている私を、一週間足らずで嫁に出す気満々って、伯父様も外聞ってものを考えないのかしら……。)
デビュタントの時に遠目に見たストベリーブロンドの髪の陛下が自分の父親だと打ち明けて、「私、本当は王族でもおかしくないんだけど?」と言ってやりたい。
(まあ、言ったところで「世迷言を」と一蹴されるんだろうけど。)
「それと奥様より伝言で、本日はグレイ侯爵がいらっしゃるため、こちらの服をお召しになってくださいとのことです。」
そう言ってベスが勧めてきたのは、季節も流行も無視した、白いブラウスに黒のロングスカートが切り返しで付いている『お仕着せ』によく似たワンピースで、来客が来ると分かっているのによくもこんな地味な服を用意してきたなあと思う。
ベスの顔には「アンタにはせいぜいそれがお似合いよ」と書いてあったものの、そのまま言えば、さすがに不敬だとは分かっているのだろう、嫌味な笑みを浮かべると「きっとお似合いですよ」と勧めてきた。
「あのねえ、ベス。私も伯父様の顔に泥を塗るような真似はしたくはないのよ? 伯母様に言われたからって、このまま着ていったらお客様が気を悪くなさるわ。」
「ですが、朝食に遅れてしまいますし、他の服を選ぶ時間はございません。」
ベスは、伯母の言いつけ通り、なんとしてでもこの地味な服を着せたいのだろう。だが、その口車に乗ってやるつもりはない。
「来客があるとご存知なら、今日がいつもと違う予定なのを伯父様や伯母様もご存知でしょう? あなたがふさわしい服を選べないというなら、自分で選び直すから、伯父様たちに少し遅れると先にお伝えしてきて。」
「そういうわけには参りません。奥様からのお申し付けですので。」
ハウスメイドの怠慢でグレイ侯爵に無礼があったなんて言われたら、どんなお叱しが来るか分からない。
「ドナドナされていく可哀想な令嬢」になるつもりはないし、どうせやるなら「居丈高な性悪令嬢」がいいかもしれない。
(それなら、自分の矜持のためにも「性悪ぶり」を存分に働かせないとでしょ。)
親切な伯母様がお勧めしてくれる見合い相手の元に、嫁ぐ気なんてサラサラもない。
たとえそれが原因で婚期が遅くなるとしても、「男爵家風情なのに、鼻持ちならない高慢な令嬢」を演じて、婚姻を見送ってもらうのがいいだろう。エリザベスはわざと小馬鹿にするように、肩を竦めてみせた。
「伯母様も機転の利かないメイドを雇っていて大変ね。」
「な……ッ。」
「私が伯母様の言うことを受け入れないんだから、別の手を考えるなりすればいいのに。」
そう言ってやればベスは目くじらを立てて、顔を真っ赤にして怒った。
「お、奥様に報告させていただきます。」
「そうね、そうしてちょうだい。伯母様も片田舎な男爵夫人だもの、最新の流行をご存知じゃないのもいたしかたないと思うし。」
「まあ、奥様のことまで、そんな風に仰るだなんて!」
「あら、だって本当のことでしょう?」
ここスペンサー男爵領はグニシア王国の中央からは離れた領地で、隣国のヴェールズに接している。王都から離れており、真実、話題の話が聞こえてくる頃には、王都でのブームは過ぎ去っているような土地柄だ。
「とにかく私はその服を着るつもりは無いから。」
「……でしたら、ご自身でお選びくださいませ!」
ベスはそう言うと手にしていた地味なドレスを床にうち捨て、くるりと踵を返して部屋を出ていく。
エリザベスは、足を踏み鳴らして立ち去るベスを見送りながら、エリザベスは「してやったり」と楽しげに笑みを漏らした。
◇
それから四半時の後、エリザベスは、結局、ベスの手を借りずに、比較的最近祖父に購入してもらった若草色のドレスに着替えて、髪をハーフアップにした状態で、東の棟の食堂へと向かった。
朝の七時頃だから、祖父のエドガーは、そろそろ起き始めて身支度を整えている時間だろうか。
「……ベスから聞いたわよ。それにそんな浮ついた色の服を着て。そんなことで侯爵夫人が勤まると思っているの?」
開口一番嫌味を言ってきたのは、正式に男爵夫人となったばかりの伯母、パトリシア。つり目に細面といかにも神経質そうな彼女は、見た目通りの性格でエリザベスの事を目の敵のように思っていた。
「エリザベス義姉さんはベアトリス叔母さんの娘でしょ? こういう時の立ち回りは上手いでしょうから、母上が心配することでもないてますよ。」
そう二番目に口を開いて嫌味を言ってきたのは、伯母そっくりの従弟のネイサン。うん、かわいくない。
まだ年端もいかない甘ったれの癖に、やる事が伯母と同じで陰険だから大嫌いだ。
「リジー、さっさと席に着きなさい。」
妻と息子の嫌味を止めるでもなく、叱るでもなく、我関せずとした態度で、間接的に嫌がらせをしてきているのが、母の実兄でもある伯父のキース。彼とも三親等とはいえ血が繋がっていると思うと辟易とする。
「今日はグレイ侯爵閣下がご訪問くださると伝えたはずだ。その服装はパトリシアが『浮ついている』と指摘したんだ。少し抑えた色合いのものになさい。」
こちらを良く確認するでもなく、淡々と話すキースの様子にイラッとくる。どうせ伯母の機嫌を朝から損ねたくないとか、そんな事だろうとは思う。いつもなら、それを踏まえて言葉を飲み込むのだが、今日はいささか程度が酷かった。
「お言葉ですが、伯父様。この後、着替えている時間はございませんわ。」
エリザベスが反論するとは思っていなかったのだろう。伯父は「そうだな、その方が良い」と言ってから、一瞬、置いて、エリザベスが反論したことに気がついて険しい顔付きになった。
そして、そうした時に眉間に縦線が深く刻まれるところは祖父譲りなのだろう。伯父の方がひょろっこいものの、厳しい顔付きはやはり祖父によく似ている。
「何だと……?」
「『着替えている時間はございません』と申し上げました。それに、伯父様はベスの持ってきたワンピースをご覧になりましたか? 白のブラウスに黒のロングスカートだなんて、あんな服を着て侯爵閣下にお会いしたら、『男爵家はメイドを自分に宛てがうのか』とお怒りになると存じます。」
これでもか、と言わんばかり、嫌味をにっこりと微笑んで口にすれば、伯父の表情はますます凍てついたものに変わった。
「メイドのように見える服だと?」
と、風向きが怪しくなったのを察したのか、伯母のパトリシアは「あなた、時間が無くなりますわ。リジーも急いで食べなさい」と話題を変えようとしてくる。
「あら、伯母様。『急いで食べるのは品がない』とお叱りを受けたように思うのですけれど。ゆっくり味わってこその料理。そうでしょう、伯母様。」
そう言って特に急ぐこともなく、ブラッディーソーセージを刻んで、悠々と付け合せのマッシュポテトと一緒に口に含む。そして、ゆっくり咀嚼し、ナプキンで口元を拭うと「私、この後はお祖父様に呼ばれておりますの」と澄して答えた。
「今月末には領地の収益の収支報告の書類をまとめて提出しなくてはいけませんし。」
そうツンと澄まして答えると、これまた嫌がらせだろう、出涸らしの薄ーい紅茶を口にした。
「領地の収支報告の書類か……。」
伯父はアルミ箔でも噛んでしまったかのように悔しげに表情を歪めて「締切も近いし、父に呼ばれているならば仕方あるまい」と呟く。
(よしよし、順調、順調……。)
予想通りの展開に、今度は心からにっこりとして「そうですの。ですから、このままの姿で恐縮ですけれど、お許しくださいね」と話せば、伯父は渋々ながら頷いた。
けれど、それが私の思惑通りと気づいているのだろう、伯母の方は怒りに身体をわなわなと震わせていた。
まあ、そりゃあ、旦那がこんなに簡単に言いくるめられていたら、怒るよねえ?
しかも、伯母はお見合い相手がだいぶ年上のグレイ侯爵を勧めるのにあたって、伯父に「相手に合わせた服装を用意した」とでも伝えていたのだと思う。
そして、伯父のことだ。下手なことを言って、妻の怒りに触れるくらいなら「それもそうだな、お前が見繕ってやりなさい」とでも言ったに違いないのに。
(どうせ嫌がらせをするなら、もっと徹底的にやればいいのに。)
こういう時、私がこっそりそんな事を考えていると言うと、乳母のアンは決まって「お嬢様、そういうのは火に油を注ぐというのです。火種を大きくしないでくださいませ」と窘められる。
だけど、こういう誰でも思い付きそうな事をされると、それこそ、この十八年間で何回も煮え湯を飲まされ続けてきた身としては、少し物足りなさを感じるのも事実だった。
(私が伯母様なら……。)
そう、例えば、今着ているような娘らしいワンピースを着せたくないなら、手持ちのドレスやワンピースには全てハサミを入れるとか。
うーん、でもアンの手にかかれば素晴らしい服になって戻ってくるから、一層のこと、色の落としにくい染料や飲み物を着ている服にぶちまけた方がいいかしら。
(とにかく、それくらいの事をすればいいのに。)
じゃないと、祖父に訴え出て徹底的に叩くには説得力に欠けてしまうし、こうやってグチグチと後から嫌味を言われる程度の事で収まってしまう。
「もちろん、グレイ侯爵閣下とお会いする約束の時間までには戻りますわ。それに伯母様が勧めてくださる方ですもの、さぞかし素敵な方なのでしょう?」
目を三角にして小刻みに震える伯母の様子に、内心は「フーッ、フーッ」と闘牛士に突っ込む前の牡牛みたいに怒っているのだろうなと思うものの、伯母は貴族らしく怒りを飲み込んで「ええ、そうなのよ」と僅かに引き攣った笑みを浮かべた。
(ああ、もう、本当に『幼稚』だわ……。)
成り上がりの男爵家として侮られないように、家格を無理にでも上げたいのだろう。
赤ん坊の頃から馴染みのあるコックス子爵家のノアや、お金を持っている大店の若旦那とではなく、伯父とそう年齢の変わらないグレイ侯爵家に第三夫人として嫁がせようとするなんて、世間からどう見られるかとか考えないのだろうか。
しかも、それがデビュタントに出席して夢見がちな年頃の私に対する、『酷い嫌がらせ』のつもりなら、付き合わされているグレイ侯爵閣下とやらも大変だなと思う。
(でも、きっと嫌がらせじゃ、済まないのでしょうね。)
こちらとら、アンの爆弾発言を受けて以降、あいにく夢見る暇もない状態なんだけど。
(グレイ侯爵閣下が本気で私との婚姻をまとめるおつもりなら、『既成事実』でもない限り難しいはずだわ……。それに祖父に伝われば絶対に纏まらない類のものよね……。)
祖父が知っていたなら、それこそ大反対するだろうし、何なら王家や宰相を代々輩出しているエルガー公爵家に報告する事態だろう。
(でも、そうなったら、王家とエルガー公爵家が出張ってきて……? うわ、そうなったら、本当、すっごい面倒臭いんだけど……。)
それもこれも、このタイミングでお祖父様が引退なんぞを決めたせいだ。
あとで一言、物申さねば、この何の味もしない美味しくないお茶をいくら飲んだとしても、溜飲は下がりそうになかった。
◇
「おお、可愛いリジー! もっとこっちに来ておくれ。」
オーケー、一旦、落ち着こう。
グニシア王国にこの人ありと謳われた英傑、エドガー=スペンサーは、その筋の人には猛将として恐れられる人物だが、私を前にした時の祖父はそんな噂とは丸っきり印象の違う人物になってしまう。
「どうした、もっとこっちに来て、可愛い顔を見せておくれ。」
会う時は決まってこうして猫なで声で迎え入れてくれて、文字通り猫っ可愛がりしてくれる。
うん、完全なる孫バカだ。
そして、エリザベス自身もそんな祖父のことを、孫娘としてはもちろん、唯一の自分の味方をしてくれる人として、とても大事に思っているのだが、今日は幾分ささくれだった気分もあって口を尖らせた。
「あら、お祖父様? そんな事を仰ってご機嫌を取らなくてもよろしくってよ? 私の事をお厭いで、今回のお見合いの話は黙認なさっていらっしゃるのでしょう?」
「は? 何じゃと? 見合い?」
「ええ、今日、この後、昼下がりにグレイ侯爵閣下がいらっしゃるそうよ。」
「なんじゃと……ッ?!」
ああ、やっぱり知らなかっただけか。まあ、知ってたら大反対するわよね。
年寄りに、こんな話は悪かっただろうか。エドガーはエリザベスの話を聞くなり、青くなり、それから、一気に顔を赤くして憤怒の表情になった。
「リチャードッ!! お主、何ぞ、話は聞いておらんかったのかッ?!」
「も、申し訳ございません、旦那様。本日、来客がある予定は伺っておりましたが、よもやその方が侯爵様で、ましてやお嬢様とのお見合いが目的とは存じませんでした。」
以前はこの邸の筆頭執事をしていたリチャードは冷や汗を掻きながら、顔を険しくして答える。
彼も一週間ほど前に伯父にその任を解かれてしまったこともあり、今はお祖父様専用の執事をしている。
どうも伯父の息のかかった者にその座を追われてからは情報が遅くなってしまったらしい。
「あんの馬鹿息子め、何を考えて、可愛いリジーを、あの色ボケな陰険侯爵なぞに縁付ようとしているんじゃッ!!」
「色ボケな陰険侯爵?」
「ああ、あの侯爵はな、今でこそ猫を被っているようだが、昔はあれこれと、ビーにちょっかいを出してきて苦慮したんじゃ。」
「あら、お母様とご縁のある方ですの?」
「あれは『縁』なんて生易しいものではない。ゴミまで漁るなど『ストーカー』そのもの。ビーも毛嫌いしておったゆえ、家格が合わぬのを理由にずっと断ってきたというのに。」
そして「エルガー公爵家に報せを入れねばならぬな」と、急ぎ一筆を認めて、リチャードに「超特急の速達で頼む」と手渡す。
「儂の目が黒い内は、リジーに愚かな輩を近付けるつもりはない。今日は具合が悪くなったとでも言って、あとの応対はリチャードに任せ、リジーはこのままここに居なさい。」
「あら、お祖父様、それには及びませんわ。」
「む?」
「鉄は熱いうちに打てというではありませんか? 売られた喧嘩も熱いうちに叩くのが一番かと。」
「リジー、鉄と喧嘩は違うぞ?」
「でも、後々、エルガー公爵家が介入下さるなら、この縁談が壊れるのは確実なのでしょう? ならば、私もムシャクシャしていますし、憂さ晴らしくらいさせてくださいませ。」
「憂さ晴らし……?」
「ええ、一度、貴族社会の礼に則りご挨拶はいたします。むしろ、当人から思惑を聞き出した方がよろしいのでは?」
そうして、努めて淑女らしくにっこりとすれば、祖父は頬を引き攣らせ、リチャードは堪えきれなかったのか、ふふっと笑みを漏らした。
「お嬢様は、大旦那様の血を引いて、剛毅でいらっしゃいますね。」
エドガーは「リチャード、笑い事じゃないぞ?」とリチャードを窘め、「リジーの血の気の多さは誰に似たのかのう」と遠い目をした。
「あら、お祖父様、私、英傑の孫娘でしてよ?」
売られた喧嘩は買わなくちゃ。エリザベスはふふっと微笑んだ。