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友人との再会

 お尻が焼けるように痛い。衝突したので胸が痛い。倒れ込んだ人を抱えているので、それなりに重い。アバターなのに、ここまで痛覚を再現しているとは驚きだ。この呆れるほどのリアリティに感動するが、正直言わせてもらうと、痛いのは勘弁して欲しい。


 実際には完全に仰向けで倒れたわけではなく、(とつ)()に首を曲げて後頭部を打たないように回避したのだけど、そんな実世界での反射神経がゲーム内でも活用できるとは嬉しい。もし、まともに打っていたら(のう)(しん)(とう)まで再現されたかも知れない。もちろん、もう一度試すことはしませんが。


 胸の辺りを見ると、水色に近い青髪の頭のてっぺんがこっちを向いている。アバターの頭頂部をこんな間近で見るというレアな機会に、相手の頭のつむじとかを観察してしまう。だが、観察は3秒も続かなかった。


「いつつっ……、ご、ごめんなさい!」


 つむじが私の視線を離れ、片目をつぶった痛そうな女性の顔が私の方を向いた。顔立ちは丸顔の美少女だが、髪がベリーショートなので少年っぽくも見える。彼女は、まだ私の上に乗っかったまま弁解する。


「押しても開かないからって勢いよく押したら、いきなり開いちゃって……」


 ということは、二人で両側から押したので開かず、私が手前に引いたのと同時にこの人が押したのだろう。


「すみません。私は中へ入ろうとして」


 と、その時、彼女の視線が私の額の上辺りへ移動する。


「赤い髪? もしかして!」


 彼女の目が急に輝いた。


「私はシャルロット! あなた、名前は!?」


「スカーレット」


「合い言葉は!?」


「コーコ」


「こーみ」


 私たちは同時に吹き出し、倒れ込んだまま大笑いした。


 先に立ち上がったシャルロット――もちろん、リアルの世界ではココ――の手を借りて私は立ち上がり、服の泥を払う。といっても、こけた場所は石畳の歩道なので泥は付いているようには見えなかったが、リアルでの習性がVRの世界でも出てしまったのだろう。


「なんか、声が違うけど、私も違う?」


「うん。だいぶね。おそらく、声でリアルが誰だかバレないようにしてるんだと思う」


「なるほどね」


「男のプレーヤーが女のアバター使っているのに、地声ならキモいでしょう?」


「確かに。……しかし、アバターでも転んだら痛いんだね。ゲームだから、その辺りは手を抜くと思ってたけど」


「ああ、それね。このゲーム、ベータテスト版では痛みを伴わないようにしていたんだけど、マストの上から甲板まで飛び降りるとか、決闘中に建物の屋上から飛び降りるとか、危険行為をするプレーヤーがいたんで、痛みを入れたんだって。中にはバーチャルとリアルの区別が付かなくなる人がいるから、リアルの世界に戻って真似されたら危ないからね」


「ゲームの中でめっちゃ高い所から落ちると、どうなるの?」


「即HP0でゲームオーバー。まあ、リアルでは骨折確実だからそのくらいは当然だね。ところで、チュートリアルは見た?」


 私は顔の前で手を振る。


「見てない見てない」


「攻略サイトは?」


「そっちも。だって、ココ――ごめん、シャルロットと銀行で待ち合わせるのを優先したから」


「それにしては、ずいぶん時間がかかったねぇ」


「このアバターを出すために苦労したんだから。ヘンなおじさんとか、いまいちな女性キャラとか、センスないのが目白押しで」


「ふーん。でもそれ、時間かけただけあんじゃん。かっこいいよ」


「ありがと」


「そんじゃ、簡単に説明すっかな。僕に付いて来なよ」


「僕?」


「この世界では『僕』と言っている。それに、リアルとはずいぶん性格も違うよ」


「いや、言葉を聞いている限り、リアルと大差ないけど……」


 なるほど。ココは、バーチャルな世界でシャルロットという人物の個性を作り上げ、それになりきっているんだ。私も見習わないと。


 シャルロットは近くにあった円形の噴水のところまで歩いて行き、縁の所に腰掛けて左隣の場所を手のひらでパンパンと叩いて私に勧める。腰掛けると、彼女はゲームの進め方をかいつまんで話し始めた。

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