不自由手帳
やわらかいホイップクリームが、右の人差し指。いちごのジャムが左手の人差し指と中指と薬指。
そんなの当然笑顔になるに決まってるじゃないの。
胸の中はドクドク、わたしにもわたしにもって手を伸ばそうとしてる。
あげませーん、ぜったいにあげませんー。
え?まあ、そうよこれは私の心臓だから私の心臓は私だけど
それとこれとは別です。このあまいあまいは“私”のものです!
さあ、どっちから味わってやろうか、このやろうが
ふわふわだから、右が最初?いや、ふわふわは“最初”の理由にはならないわね。ジャムさんは…あ、このままだと垂れ落ちちゃう、このトロトロとつぶつぶは私の中身になるのね。私の血はさらさらでたぶんこのジャムよりも美味しくない。それなら、早くこのジャムを私の中身にして私自身が美味しくなってから、ゆっくりとふわふわを味わってやろうか…
そうねそれがいい!
あなたもそう思うわよね。
ほら、これは涎っていうの
昨日から水飲んでないのに、逃げようとしてる
焦らしてあげたい。いっぱいいっぱいに焦らしつくしたい
けど、それも我慢
私はねニーズには応えるタイプ
ほら、あの人も言ってたじゃない
あの…あれ、あの海外の映画の、なんとかっていう俳優さん。いや、あのその俳優さんが言ってた訳じゃなくて、その俳優さんがそのあの海外のなんとかっていう映画で言ってたの。
たしか、車が出てきてたわ。黒い車。…白だったかも、グレーの可能性もあるわ。黄色ではなかった、黄色だったら私もっと笑ってたはずだもの。私はその時は笑ってなかった。うん。ぜったいに笑ってなかった。若干の口角の上昇はあったかもしれないけど、それは感情によるものではないわ。ないない。だったら覚えているはず。
ホイールがなんだか、固そうだった。あとは…ごめんなさいね、私車には疎くて、車よりかは馬車派なもので。
まあ誰が言ったかなんて、どうでもいいわよね。大事なのは…大事なのは?そもそも私はあなたに何を伝えるためにこうしているのかしら?
ねえ、あなた何か知らない?なんでもいいの。何か知っていることがあれば教えて頂けないかしら。そのためなら私なんでもするわよ。そうね…これをあげるわ、いちごのジャム。トロトロでつぶつぶであまいわよ、きっと。あまいってことは、美味しいんじゃないかしら。
美味しくなかったとしても、差し上げるわ。まずはね。
うーんこの右手は私のものだから、あとはなんでもいいわよ。お金だって私だって欲しいものを欲しいだけあげるわ。無くなったらまた育てればいいだけだもの。
さぁ、私に“それ”を教えてください。ね?