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3 うさぎのおばさんとおじさん

 あれれ、とっても美味しそうな匂いがしてるよ。


 もう少し顔をあげて山小屋の窓から中をのぞくキツネ君。あっ、うさぎのおばさんに見つかってしまったかな。


「あらあら、こんばんは。キツネ君、どこから来たの?」

「こんばんは、おばさん。僕たち、ねむの木の向こうから来ました。

ドングリ池に行くんだけど・・・。暗くなって疲れてしまったんだ」

「そう。みんな、いらっしゃいな。寒いでしょう」

「ありがとう、呼んできます」


 クマ君は暗い顔をして山小屋に入っていくけれど、アライグマ君は怒って皆とは行かない。お人好しなキツネ君が声をかけようか迷ったけれど、少しの間待つことにした。


 中に入ると、暖炉があってとても温かい。みんなは手を火に向かってのばしていると体がポカポカしてきた。顔がオレンジ色になって気持ちがいいみたい。


「もうすぐ野菜のスープが出来るのよ。おじさんが作ってくれたの」

「さっき来る時に、うさぎのおばあさんに会ったんだ。おばさんたちのお母さんかな」

「おじさんとおばさんはきょうだいなの?」

「僕たくさん食べたい。お肉もはいってるの、野菜だけ?」

「はいはい、質問は1つずつにしてね」


 そのおばあさんのことは知らないみたい。おじさんとおばさんは結婚してる人たちのよう。お肉も2人が畑で育てた野菜もいっぱい入ってる。


「さあ、どうぞ。お食べ」

「ありがとう。いただきます!」

「わぁ! 美味しいね」


 あれあれ、ヘビ君は体が一番細いのにお肉をいくつも飲み込んで。誰よりも早く食べて、おかわりしたよ。


 うんうん、美味しいのはわかるよ。だけど、どうなんだろうね、バクバクと急いでかまずに飲み込むのは。テレビや本を見ながらダラダラ食べる人を見ていて、もどかしいこともあるけどね。

 よくかんで味わうのが作ってくれた人への敬意って考え方もあるんだよ。


「あなたたち5人で願いごとをするために?」

「あのぉ、6人なんだけど」


 クマ君は皆の視線を感じた。みんなは非難していないけど、どうするのかな? って周りは気になるもの。


 温かくて美味しくて。だけど、アライグマ君は外で寒いよね。勇気を出してクマ君は出ていった。彼、謝ったら許してくれるかしら、と不安な気持ちを持ちながら。


「ア、アライグマ君。あの、その・・・ごめんなさい。

 僕はイライラしてたし、暗くて怖くなって君を傷つけた。

 本当にごめんなさい」

「中にいれば?

 僕のこと嫌いなんだろ」

「ごめんよ。

 じゃ、じゃあさ。

 僕がここにいるから暖炉にあたってスープ食べてきてよ」


 アライグマ君の手をとって、背中を軽く押すと彼は中に入っていく。

「おや。外は寒かったろう」

 うさぎのおじさんが体をさすり、おばさんはスープを出してくれた。ああ、美味しくてポカポカするね。


 キツネ君が窓から見るとクマ君は体を丸めていた。肩を震わせて。泣いてるのかな、寒いのかな。

 彼がドアを開けようとすると、アライグマ君が立ち上がり自分が行くと出ていった。


「クマ君。寒いだろ」

「君もここにいたんだよね。それに、なんていうか僕の言葉で心も寒かったよね」

「うん。ひどいと思った。今は許せるよ、僕の気持ちをわかろうとしてくれたから。

 行こうよ、もっと食べさせてもらおうね」

「あ、ありがとう」


 2人は並んで歩いたよ。

 好きな人に向かって「好き」って言うと2人とも素敵な気持ちになれる。だけど、「嫌い」「好きじゃない」って言うと、もう関係が終わってしまうかもしれないからね。


 クマ君はどうして泣いていたんだろう?


 寒いからかな。許してもらえなかったからかな。どうしてだろう。


 寒いしお腹もまだすいてたし、1人ポツンと外にいて。ごめんと言ったけど皮肉を言われたね。そういうのも悲しかったんだろうね。

 それから、涙ってね、自分が悲しい時だけじゃなくて。人を悲しくさせてしまった時にも出るものなんだろうね。謝ることも大事だし、そのことと言葉が人の心を傷つけるってことに気がついて良かったよね。


 

 2人が入っても、みんなは何も言わなかった。

 おじさんが薪を追加して暖炉の火がごうごうと燃え上がり、部屋が明るく温かくなってきた。


「どんぐりって、どこに落ちてるんだろう?」

「どこかしらね。きっと見つかるわよ」

「おばさんたちは知らないの?」

「教えたら【冒険】じゃなくなるだろう。

 それにオンボロ橋もあるからね。気をつけるんだよ」


 そう、そっとそっと橋を渡るんだよ。


「根っこ広場はみんな通れるかな。嘘をついていたら進めないんだからね」

「ええっ! 僕は大丈夫」

「僕も・・・たぶん」


 ちょっと緊張する6人。


「おまじないがあったよ。もしも根っこが足をつかんで『はなさないぞ、嘘をついた子は』なんて言ったら。『約束します。もう嘘をつきません』ってお願いすればいいさ」


 うん。これで、ちょっと安心かな。


 あふぅ~。たくさん歩いたし、食事も美味しくて6人はあくびしてすぐに眠ってしまった。おじさんとおばさんが毛布をかける。


 ぐっすり眠れるといいね、もう少し【冒険】は続くんだから。


 ・・・ ・・・


 カーテンの隙間から朝日が差し込んでくる。黄色のような優しい光だ。


「おはよう!」


 あれあれ、またヘビ君はたくさん食べてるね。今朝はおばさんが作ったオムレツ、トマト、ブロッコリーにパンだけど。わあ、テーブルがカラフルな色で奇麗だね。


 片づけを手伝って、さあ、そろそろ出発だ。


「おばさん、おじさん。どうもありがとうございました」

「気をつけて。また、おいでなさいな。

 春にはチューリップが野原に咲くのよ」

「ありがとう。いってきます!」



 トコトコ ズンズン 歩き出す。

 コマドリ君はヒューって空を一回転してみんなを驚かせた。気分がハイになってるかな。

 おっと。野原を出るとまた道だ。右へ右へと進もうよ。


 途中で木の陰にいる赤色のりぼんをしてるリスがいた。こっちを見ているよ。女の子だね、リス君はとても気になってしまった。お話ししたいと思って近づいていく。


 ちょ、ちょっと待って。ルールを忘れてるよ、みんなに声をかけるってことを。


 リス君はりぼんのリスちゃんに、

「やあやあ、おはよう」


 大きな目をしたリスちゃんは、

「おはよう。はじめまして。

 あ、あれ? ねえ、リス君。あの子たちはあなたの仲間なんじゃないの?」

「あっ! いけない」


 もうずいぶん5人は進んで、どうしよう。早く追いつかないと見えなくなりそう。ああ、せっかくリスちゃんとお友達になれそうだというのに。でも、迷子になってしまうから、急いで、急いで。


「ごめんね。僕の仲間だ。またね」


 困ってしまった。もう姿が見えなくて。みんなもそうだ。リス君がいないことに気がついて、

「どうする、どこに行った?」

 と大騒ぎ。


 コマドリ君が、

「空を飛んだ方がはやいよね。ここで待っていて」


 来た道を戻るとリス君が泣きそうな顔をしていた。コマドリ君が頭におりて、


「みんな、とっても心配してるよ。ルールを忘れちゃったね」

「つい、りぼんしたリスちゃんがいてね、その・・・友達になりたくて」

「君が転んで怪我してないかとか気になったんだよ」

「ごめんね。ルール忘れちゃって」


 進んでいくと4人が見えた。みんなからも2人が見えて手を振ってくれている。


「ごめんなさい。声をかけるの忘れちゃって」

「そうだね。みんなも気をつけよう」

「このルールは大切だよ、心配しちゃうからね」

「うん、待っててくれてありがとう」


 ・・・ ・・・


 トコトコ ズンズン 歩いてく。

 あら、まだ朝だというのに少し暗いよ。木がたくさんあって上が枝でおおわれてる。枝に残っていた枯れ葉が風でチラチラと落ちてきた。


 ほら、下を見て。なんだか根っこが絡み合ってるよ。ここが、根っこ広場なんだな。

 んんん? 声がしてくるよ。


「やあ、はじめまして。よくここまで来たね」


「うひゃ。ど、どうする? おばけかな」

 怖がりのクマ君が肩をすくめてる。


「おばけじゃないよ。根っこさんが呼び掛けてるんだ」

「お、おはよう。はじめまして。僕たち、これからドングリ池に行くんだよ」

「踏んじゃってごめんね。通っていきます」

「どうぞ、どうぞ。だけど、わかってるよね、ここで嘘をつくと・・・」


 みんなはドキドキした。嘘なんかつきっこないよ。と心の中で思うけれど目の前にすると緊張しちゃうね。よし、口にチャックをすればいい。そうすれば話さなくてすむから。


 よいしょ、よいしょと歩いてく。


「みんな、待って!」


 ヘビ君の体が根っこの隙間に入ってしまってる。嘘をついちゃったのかな。

「ヘビ君。君、う、嘘ついたの?」

「違うよ。助けて」

「じゃあ、どうして捕まっちゃったんだったろう?」

「ねえ、苦しそうだよ。まず助け出そうよ」

「根っこさんたち、ヘビ君をはなしてあげて下さい」

「ヘビ君は嘘をついてません」


 根っこさんたちは何も言わない。


 アライグマ君がヘビ君の尻尾を引っ張ってみた。痛い、痛いとヘビ君は苦しそう。

 さあ、どうしようか、根っこさんたちに捕まってしまって。助けるとみんなも捕まっちゃうのかな?

 根っこだけじゃなくて枝ものびてきて体にまきついて! ひ、ひええぇ~。

4話は「みんなの願い事って、なぁに?」です。

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