1 にぎやかな作戦会議
白いふわふわした衣が夜のうちに森をおおう冬。
逆さ森にも寒い季節がやってきた。
雨だと”しとしと”ふるっていうよね。そんな風に音が聞えることもザーザーザーって時もある。ふれば夜でも目が覚めてしまうことがあるから「雨がふってる」ってわかる。
雨上がりの空に、まあるく出来る7色の虹。なんだか、暗かったのに虹から光が出てるみたいなんだよね。月とも太陽ともちがう明るさだから不思議だね。
この森の虹は反対でね、下にへこんでまあるくなって出来るんだよ。
面白いね、もし虹にすわることが出来たらユラユラユラユラとぶらんこみたいに揺らして遊べるのに。雲と雲が虹をささえててくれるから乗れるんじゃないのかな?
ほら、勇気のある子はやってみてよ。大人では無理なんだから。
雪はどんな音がするんだろうね。
ああ、ごめんね。うん、「衣」ってのは地面や木の枝や家の屋根に白いカーテンかけられてるように見えるんだ。うっすらとしてて、お昼にはすぐにとけちゃうくらいの雪。
だけど、たくさんふると衣じゃなくてさ、ケーキのうえにたっぷり生クリームをかけたみたいな感じかな。クリスマスケーキや誕生日のケーキみたいにね。少ない雪より、こっちの方がうれしいかな。雪だるまもつくれるし。
だれもが一度は雪を食べたことがあるんじゃないかな。ママに見つかってしかられてしまうけど、どんな味がするんだろうって。
いつ雪がふってもいいくらいに寒い森。強い風がふくとビュービュー音がして耳や指の先が痛い。
・・・ ・・・
さてさて、そんな寒い冬。逆さ虹の森の子たちは思いついたんだ。一番さいしょに言い出したのは、歌が好きなコマドリ君。
”ラララ~ンンン~ドレミ~”って気持ちよさそうに歌ってる時に【冒険がしたい】ってね。
友達のアライグマ君に話したよ。
「あのさ、ドングリ池があってね。美しくて透明な水の池を見てみたいんだ」
「うん。そこはドングリを投げて願いごとするといいんだってキツネ君から聞いたよ。
願いごとのことは、君は知っていたの? コマドリ君」
「へえ、初めて聞いたね。わあ、願いごとがかなうだなんて。
僕、絶対に行きたくなってきたよ」
アライグマ君はキツネ君に話したよ。そしたら、どんどん話が伝わって冒険したいって子が6人集まった。
言いだしっぺのコマドリ君、食いしんぼうのヘビ君、あばれんぼうのアライグマ君、おひとよしのキツネ君、いたずら好きのリス君にこわがりのクマ君だ。
よし、作戦会議をするよ!
どうしてそんなことするのかって? だって、初めての冒険だからさ。
いいかい、冒険の目的はドングリ池にたどり着くこと、そして、池にドングリを投げながらお願いごとをすることだ。
「ちょっと待って。じゃあ、行くまでにドンクリをひろわないといけないね」
「リス君、そうなんだよね。ドングリ落ちてるかな。それに池ってどこにあるのかな。遠いの? だれか知ってる?」
こわがりのクマ君は遠いのかって、とても心配。
「森にある、もみの木があるよね。そこから右に右に進んでいくって聞いたよ。キツネ君が言ってたよね」
「うん、ヘビ君。でも、僕は残念ながら、もみの木の場所は知らないんだ。ママかパパに聞けばいいのかな」
「僕、その木ならどこか知ってるよ。飛んでる時に見たことがあるよ。そんなに遠くなかったと思うけど」
「じゃあ、みんなコマドリ君に教えてもらおう」
・・・ ・・・
だけど、またまたみんなから意見が出てきた。当たり前といえば、当たり前。親はいなくて子供たちだけで行く。しかも、まだ6人の中で誰も行ったことない初めての場所。
実は僕は、アライグマ君が好きじゃない。
疲れたら休んでいいの?
お腹すいたらどうするのかな、おやつを持って行きたい。
木の実やきのこ、野菜があるみたいだよ。
好きなものを食べたいよ。
夜になったらどうするの?
あっ! 気をつけてね。2つのことに。根っこ広場とオンボロ橋があるんだよ。
何、それは。
実はね、橋が古くてぼろぼろなんだよね。
風に揺れるだけでこわれそうなくらいだったりしてね。大丈夫、橋から落ちた人はいないんだよ。
ワイワイとどうする、こうする、そうだよ、でもね・・・6人が心配なことも、したいことも、言いたいことを言いだした。
誰かがいいアイデアを出すと誰かが反対のことを言う。ああ、もうこれではまとまらないね。「今日」が終わってしまうじゃないか。
明日があるさ。そうかな、そうかな。だって、みんなが全然ちがうことを考えてるんだ。きっと明日も、明後日もその次の日も決まらないよ。
とてもしっかり考えるのは大事だよね。必要なものを準備をして、怪我のないように、お腹が空いたときに困らないようにって。
だけどさ、冒険なんだ。
冒険って、何があるかわからないから楽しいし想い出に残るんじゃないのかな。困ったことがあった時にどうしたらいいいかを考える、アイデアを出しあってみる。実行してみる。
失敗してもいいじゃないか。途中でやめても諦めてもいいんだよ。それも1つのアイデアだから。
「もし今日行ってね、それでどんぐり池に行くことが出来なかったら。
来週にもう一度行けばって思うよ」
「あっ、そうだね、コマドリ君。途中で帰ってもいいから。2回目に行くときにさ、どんな道か持って行かなきゃいけない物って何かわかるから」
「リス君って、勇気あるね。なんだか僕までやる気が出てきたよ。そうだ、おばけが出たらすぐ引き返せばいいし」
「クマ君、大丈夫。おばけが出たら目に手をあててあげるから。そうすれば見えないだろ」
「ありがとう、キツネ君。だ、大丈夫そうだね」
うんうん、これで全員が「行こう!」って気持ちになった。何がおこるかわからない、だから試してみるんだよね。
そうだな、でも1つだけは約束をしない?
6人みんなで歩くこと。
珍しい花を見つけて横道に行ったり、知ってる人がいてつい話したくなった時、疲れて座りたいって時には、声をかけるんだよ。
いいかい、1人だけがどこに行ったかわからないと残された皆は心配になるから。その1人は遅れてしまって思い切り走って転んでけがをするかもしれないから。
よし、ルールは皆わかったね。
出発だ!
2話は「蛙のダンス」です。
ねむの木を右へ右へと進む6人が・・・