ガライド編 第八話
俺の長剣と相手の大剣の刃が、真っ向からぶつかり合う。瞬間掌に伝わってきた衝撃に、俺は舌を巻いた。
とても壮年の歳とは思えないこの力。常に自らを鍛える事を忘れない、生粋の武人のものと言って差し支えないだろう。
「ほう、儂の一撃を受け止めたか!」
ツイードの顔に、獰猛な笑みが浮かぶ。それはどこか、俺との戦いを喜んでいるようにも見えた。
すぐに互いに剣を引き、また打ち合う。大剣という大振りな得物である事を感じさせない素早さと狙いの的確さに、俺は一撃一撃を受け止めるので精一杯だった。
「若造が、やりおる。魔法使いにしておくには惜しい」
「お褒め頂き光栄……だっ!」
何とか攻撃に転じようとするも、打ち込むべき隙が見当たらない。これほどまでの手練れと戦った経験は、他になかった。
「何故あんたほどの使い手が、こんな教団に使われる事に甘んじる!」
「教団の意志は神の意志。儂はファレーラ様のご意志に従うまでよ!」
もう何度目になるか、互いの剣を合わせながら俺達は吼える。防戦一方とは言え向こうに決め手を与えない程度には防げているらしく、それが嬉しいのかツイードの笑みはますます深まっていく。
「その神のご意志とやらが、罪無き人々を犠牲にするものであってもか!」
「!!」
しかし俺がそう問うた瞬間、ツイードの顔から笑みが消えた。同時に動きが僅かに鈍り、俺はこれを機にと攻撃に転ずる。
今ので確信した。この男は――心から今の教団のやり方を是と思っている訳ではない!
「あんたも解っている筈だ! この教団に正義などない、あるのは都合のいいように教義をねじ曲げた利己心だけだ!」
「黙れ若造! 貴様に何が解る!」
「解るさ! 今この教団が歩む道が、エレノアの望む在り方とはまるで異なる事だけは!」
受けられるのにも構わず、矢継ぎ早に斬撃を繰り出す。相手の足が、少しずつ後退を始めるのが解った。
「――エレノア様は、儂の希望だ」
静かに、重々しくツイードは口を開いた。その間も、決して手を休める事はない。
「今は、お飾りの聖女かもしれぬ。しかしあの方が今よりもっと成長なされば……必ずや、この教団を変えて下さる。それこそが儂の望み」
「その為なら、エレノアの自由が、心が犠牲になってもいいと言うのか!」
「……」
俺の問いに、ツイードは答えない。ただ眉間の皺を更に深め、大剣を振るい続けた。
「俺は、認めない。例え世界に歯向かう事になっても、エレノアの自由を、心を守る!」
俺が力を込めて上から振り下ろした長剣を、ツイードが受け止める。その時、僅かにだがツイードの体が硬直したのを感じた。
決めるなら、ここしかない。俺は直ぐ様長剣を引くと、即座に全力でツイードの大剣を下から打った!
「!!」
大剣がツイードの手を離れ、くるくると宙を舞う。それが床に着く前に、俺の長剣の先端がツイードの喉を捉えた。
「くっ……!」
「……大人しく通してくれ。でないと本当に、あんたを殺さなければならなくなる」
喉に長剣の先端を付けたまま、俺は今度こそ最終通告を下す。そんな俺に、ツイードは狼狽える事なく静かに問うた。
「……何故、すぐに殺さぬ。儂を殺せば、目当てのエレノア様の元まではもうすぐだと言うに」
「あんたは心の底では、エレノアへの、エレノアの愛した人々への仕打ちを悔いている。でなければ、これほど簡単にはあんたほどの使い手を下せなかった。だから殺したくない。エレノアだって、きっとあんたの想いに気付いている。エレノアを、悲しませたくないんだ」
「……」
流れる沈黙。それを先に破ったのは、ツイードの方だった。
「往け」
たった一言、ツイードはそう言った。そしてゆっくりと、俺に道を譲る。
――俺はたった今、彼の夢を奪った。それは謝っても謝り切れるものではない。だが。
「……必ず、エレノアを幸せにする」
それだけ言って、俺はまた走り出した。そうだ。だからこそ、俺は立ち止まる訳にはいかないんだ。
夢を諦め、俺にエレノアを託してくれたツイードに背中を押されるように、俺はエレノアの元へと急いだ。




