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宵闇の練習曲  作者: 由希
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ガライド編 第七話

「賊だ! 賊が侵入してきたぞ!」

「迎え撃て! 司教様をお守りするんだ!」


 奥の廊下から慌てて駆け付けたのだろう、簡易な武装のみをした僧兵達が押し寄せてくる。だが、ただ数を集めたところで俺の――魔法使いの敵ではない。


「『我が内に眠る力よ、雷に変わりて敵を撃て』!」


 僧兵達が特に密集している地点を見極め、そこに雷の束を叩き込んでやる。威力が高い代わりに攻撃範囲は然程広くない雷の玉だが、狭い通路内にいる相手を一層出来るだけの攻撃範囲はあった。


「くっ……シールドを張れ! それで雷は防げる!」


 恐らくは隊長格のものだろう、そう指示が飛ぶと共に新手の僧兵が印を結び始める。だがその完了を、黙って待ってやる俺じゃない。

 俺は杖を天井高く放り投げると、素早く腰の長剣を抜き放つ。そして俺が投げた杖に気を取られた隙を縫って印を結ぼうとしていた僧兵達の元に駆け寄り、一刀の元に纏めて胴を切り裂く。


「ぐああっ!!」

「馬鹿な、魔法使いが剣を使うだと!?」

「生憎、玉を手に入れるまでは剣士をしていたんでな。接近戦は得意なんだ」


 落ちてきた杖を左手で受け止め、右手の長剣を突き出す。二刀流は不慣れだが、ここの僧兵達のような戦闘経験の浅い相手なら十分に立ち回れる程度には鍛えてあった。


「くそっ、怯むな! 奴の体力も魔力も、無限ではない!」


 隊長格の声に圧されるように、再び突撃を開始する僧兵達。それを長剣と杖でいなしながら、俺はサッと周囲に視線を巡らせる。

 ――ここまでは思惑通り。奴らはまだ、俺の本当の狙い・・・・・に気付かないようだ。

 人は何かを守ろうとする際、無意識にそれがある場所の守りを厚くする。それが大切なものであればあるほど、その傾向が強くなる。

 この大神殿は広い。まともに探索すれば、いつエレノアが見つかるか解らない。

 だから俺は、教えて貰う事にした・・・・・・・・・。エレノアがいる、その場所を。

 今奴らにとって、一番守るべき人物は誰か? 聞くまでもない。次期司教のエレノアだ。


 ならば・・・最も守りが厚い場所に・・・・・・・・・・エレノアはいる・・・・・・・


 神殿という場所は、必ず出入口が一つになるように設計されているという。それは内に満ちる神の力の流出を極力防ぐ為だと、以前旅先で出会った教会の神父から聞いた。

 つまり、外に逃げようと思うなら必ず俺のいる方向に向かわねばならない。奴らがエレノアを連れて外に逃れる事は、出来ないという訳だ。

 正直、賭けではある。脱出の手はあるにはあるが、そこまで俺の体力と魔力がもつかは解らない。

 だが俺は危険でも、より確実にエレノアの元へ辿り着ける方を選んだ。彼女を――早くここから解放してやりたかったから。

 脳裏に浮かぶのは、あの日見たエレノアの楽しそうな笑顔。それを守る為なら、俺は何だってする。何だって出来る!


(最も守りが厚いのは……正面の通路か)


 僧兵達の動きをつぶさに観察し、そう当たりを付ける。最初に力を見せつけてやった事ですっかり浮き足立った僧兵達に、隠し事をする余裕はどうやらないらしい。

 相手が戦い慣れしていれば、或いは冷静さを保っていればこう上手くはいかなかっただろう。何しろこちらは一人きり。如何に実力差があろうと、やろうと思えば対処法など幾らでもあるのだ。

 さて、先の事を考えればそろそろ頃合いだ。俺は周囲の僧兵達に全力の回し蹴りを喰らわし、後ろの僧兵達に巻き込ませて詠唱が可能なだけの距離を作った。


「しまっ……シールドを……!」

「遅い! 『我が内に眠る力よ、雷に変わりて敵を撃て』!」


 相手が態勢を立て直す前に杖を向け、正面に最大範囲の雷をくれてやる。雷に巻き込まれた者は皆その場に倒れ伏し、生死にかかわらず立ち上がる事は出来なくなったようだった。

 折り重なるように倒れる僧兵達を一瞥し、俺はその体を踏み越え先を急いだ。



「止まれ」


 後を追ってくる残りの僧兵達から逃れるように廊下を進んでいくと、不意にそんな男の声がした。前方を見ると、白銀の鎧に身を包んだ壮年の男が行く手を阻むように立っている。

 あの出で立ち、恐らくは聖騎士。聖職者の中でも限られた者しか就く事が許されない、武と智の両方を兼ね備えた者。

 男は大剣の先を床に着けた姿勢で、微動だにしない。仕方なく、俺は男の目前で足を止めた。


「そこを退いてくれ」

「ならん。エレノア様の御身を守るが我が役目」


 要求を口にしてみるが、予想通りにべもなく跳ね除けられる。静かに俺を見据える深緑色の瞳は、強い決意に満ち満ちていた。


「何故俺の目的が、エレノアだと思う」

「わざと騒ぎを大きくした事、そして迷いなくここに現れた事。最も守りの厚いこの方角を敢えて選ぶと言うなら、それはその者の目的が警護が必要な人物に用があるからに他ならん」

「……総てお見通しか」


 俺の目論見をアッサリ見破った、その観察眼に舌を巻く。腐り切ったと思われたこの教団にも、切れる人物はいるらしい。

 観察眼だけではない。話を続けながらも、その姿には一片の隙もない。


 この男は――強い。頭で、肌で、俺はそう感じた。


「退いてくれ。でないと俺は、あんたを倒さなきゃならん」

「ほう? 若造が、儂に勝つつもりでいると申すか」


 重ねてそう告げると、男の口角が初めて小さく上がった。その笑みは、獰猛な獣の姿を思わせる。


「このツイード、歳は重ねたが、貴様のような若造に簡単に敗れるほど易くはないぞ。その思い上がり、貴様の命をもって正してくれよう」

「やってみろ……俺も、ここで死ぬ気はない!」


 ツイードと名乗った男が、ゆっくりと大剣を持ち上げ構えを取る。俺もまた杖を背にしまい、両手で長剣を握った。


「エレノアは――渡して貰う!」


 そして俺達は、ほぼ同時に床を蹴った。

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