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宵闇の練習曲  作者: 由希
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レジーナ編 第十二話

 サークの計算通り、コレアロに着く頃にはすっかり夜になっていた。壁の上に立て掛けられた松明が、コレアロの周囲を仄かに照らす。


「ここで一旦止まるか。向こうも今攻められたら一番不味いのは解ってる筈。夜でも見張りは当然置いてるだろ」


 上からの明かりが届くか届かないかの辺りで、サークは進軍を止めさせた。それから壁の上に目を遣り、そこから視線を外さず傍らのリーブスに問い掛ける。


「コレアロの門も、フーリと同じで北と南にあるんだったか」

「はい。どちらも大きさは同じだと思います」

「となると東か西……オアシスがどっち寄りかってのは解るか?」

「すみません、そこまでは……」

「だよな……ふーむ……」


 リーブスの答えに、腕組みをして考え込むサーク。すると背後のアントニーが、おずおずと声をかけた。


「あ、あの、ふと思ったんですけど、隊長の呼ぶ精霊って隊長の側にいないと姿を保てないんですか?」

「いや、ある程度力のある精霊だと近くねえと駄目だが、あまり力のない小型の精霊ならそれなりに遠くへ飛ばせるぜ」

「な、なら、その小型の精霊に町の中を偵察して貰ったらどうでしょう? 門のある方向からは流石にバレるから、東か西の壁を飛び越えて貰う事になりますけど……」

「……それだ」


 その提案を聞くと、サークはぽんと手を打ち笑みを浮かべた。そして懐から硬貨を一枚取り出し、指の上に乗せる。


「表なら東、裏なら西」


 サークの親指が硬貨を弾き、宙を舞った硬貨を今度は手の甲の上に押さえ込む。すぐに取り払われた掌の下に見えた硬貨は……裏を向いていた。


「決まりだ。まずは西に向かおう」

「いいのか、そんな決め方で?」

「どうせ条件は五分だ。なら運を天に任せてみるのも悪かないさね」


 軽い調子でそう答え、サークが町の西側に向けて進軍を再開させる。……確かにここばかりは、勘に頼るしかないか。

 見張りの目を避けるように、迂回して町の西側を目指す。西側にも灯りはあったが見張りはいないらしく、我々は容易く壁のすぐ側まで行く事が出来た。


「ここまでは順調だな。さて……」


 サークが小さな声で何かを唱え、子供の姿をした碧色の精霊を呼び出す。精霊はふわふわと浮かびながら、じっとサークの命令を待っている。


「この壁の向こうを見てきてくれ。それで近くに大きな水場があれば教えてくれ」


 精霊はこくりと頷き、猛スピードで壁を飛び越えていった。そのまま暫く待っていると、やがて精霊は帰ってきてサークに耳打ちをし消えた。


「こっち側は倉庫街になっててオアシスもないらしい。大丈夫だ。通れる」

「隊長よお、オアシスが近いと何で駄目なんだ? オアシスの近くに出れば、喉も潤せて一石二鳥だと思うんだがよお」


 こちらを振り返って告げるサークに、ウォルターが疑問をぶつける。それは確かに、私も気になった事柄だった。


「あー……それはだな。例えばこっから壁を潜っていくだろ? そうすっと当然外の様子は見えねえよな?」

「見えねえな」

「そこでうっかりオアシスの水源に穴空けてみ? 俺達どうなる?」

「あ……」


 そう言われて、私を始めとしたその場にいる全員が納得する。そんな事になれば、砂の中にいる全員が溺れ死に。オアシスそのものも、ただでは済まないだろう。

 沈黙した私達に、解ったかという風にサークが大きく頷き返す。そして今度は、今やすっかり見慣れた砂の精霊を呼んだ。


「それじゃあ行ってくる。先発隊以外の奴らは、そうだな……北門側の、見張りに見つからない位置に待機しててくれ。南門より北門の方が、幾分か警戒も薄いだろ。門が開いたら突入だ」

「解った。隊長達も気を付けろよ」

「ああ。先発隊、俺の周りに集まって離れるなよ!」

「はい!」


 サークが号令をかけると、私を含めた先発隊に選ばれた十人がサークの周りに集まり、他の兵達は距離を取る。それを確認すると、サークは精霊に命令を下した。


「砂の精霊よ。俺達を砂の中に導き、中でも動けるようにしてくれ!」


 すると私達の足元に流砂が生まれ、ゆっくりと体が砂に沈んでいく。しかし予想していたような、砂が体に絡み付く感触は全くと言っていいほどなかった。

 体が半分ほど砂に埋もれたところで、漸くその理由に気付く。私達の周りに見えない膜のようなものが出来、それが砂の侵入を防いでいるのだ。


「……もう出られなくなる訳じゃないとはいえ、恐ろしい光景だな……」


 誰かがそう呟くのを聞き、思わず苦笑する。確かにサークがついていなければ、これほど絶望的な眺めもそうないだろう。

 そうして私達の姿はやがて完全に砂に覆われ、外で見守る兵達の視界から消えた。

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