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水色のワンピース

作者: 十波あき

小さいころ、お母さんはわたしにこう言った。


「あなたはピンクの似合うとっても可愛い女の子ね」って。


だからわたしの日常は、常にピンクに彩られていた。


ピンクのヘアゴム、ピンクのシューズ、ピンクの鞄。


お母さんはわたしに色んなものをプレゼントしてくれた。


わたしのことを大切に、とても大切にしてくれるお母さん。


ありがとう。


大好きだよ。


でも成長するにつれ、わたしは知ってしまったんだ。


わたしの好きな色は他にあることを。




9歳の誕生日を迎えた夏。


わたしはお母さんと一緒にデパートへ自分への誕生日プレゼントを選びに行った。


そこで見つけた水色のワンピース。


それは空よりも色鮮やかで。


雲よりもふわふわしていて。


わたしの胸はキラキラときめいた。


「お母さん」


お母さんの洋服の袖を引っ張り、あたしは水色のワンピースを指差した。


そしたら、お母さんは笑って


「あなたは可愛い女の子なんだから」


隣のお店に並んでいるピンクのワンピースを手に取り、ほら、やっぱりこっちの方が似合うわ、といった。


違うの、あたしは水色のワンピースが欲しいの。


心の中ではそう思った。けれど、わたしはそれを口にすることができなかった。


代わりに


「うん、ありがとう」


満面の笑みでお母さんにお礼をいった。




その夏の間、わたしはずっとピンクのワンピースを着ていた。


本当のことをいえないまま。


それ以来、お母さんの前でわたしはピンク色が好きな女の子を演じ続けた。


でもね、本当は違うの、お母さん。


あたしが好きな色はピンクじゃない。


水色が好きなの。


とてもとても、大好きなの。


それでもお母さんはわたしにピンクを与え続ける。


あなたはピンクが似合うから、という理由で。


それでもあたしは水色がいい。


水色がいいの。


似合わなくてもいいから、みんなに笑われてもいいから、可愛い女の子になれなくてもいいから、わたしは水色のワンピースが着たい。


それが“わたし”の好きな色だから。


なのに…。


どうしてわたしはなりたい自分になれないの?


お母さんの望む色に染められていくたび“本当のわたし”が欠けていく。


わたしはただ、“わたし”でありたかっただけなのに。

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