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偽るキスと恋心  作者: ハルカ カズラ
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9.ふたりは、付き合っているの?

    9.ふたりは、付き合っているの?



 教室にいるだけなのに、興味を勝手に持ち始めた見知らぬ女子たちからの視線が、どうにも気になって仕方ない。一方の男たちは、興味がなさそうなフリをしながら妬みのセリフを呟く奴や、わざと体当たりして来る奴が出始めて来た。


 野郎たちに対しては、むしろ全然向かって来てくれて構わないくらいに俺は戦いを望んでいた。それなのに、面と向かって言ってくる男はほとんどいなくて結構、寂しいとまで感じている。


 こんな俺に調子よく話しかけて来る奴は今のところ、津田くらいなものだった。どうやら津田は、男たちにとって貴重な情報屋らしく、俺と乙川のことについても聞き出して様子を探っている状態のようだ。


「未喜貴、どうしたよ? モテても嬉しくないのかね?」


「嬉しいっていうのはどういう意味だ?」


「あ! あー……そうか。キミはまだお子ちゃまだったな。教えていかないと駄目だったんだ……。だが俺は甘やかさないぜ! 未喜貴よ、女子から学びたまえ。俺はお前の味方だ。味方だから応援だけはしてあげよう」


「お前に応援されても嬉しくない」


「そう、それだよ! その感情だ。理解出来たか~?」


 回りくどい奴だが、俺には有効な答えをくれる津田だった。モテて嬉しい、か。好かれて嬉しいかと問われれば、俺はその感情を理解するに至っていないのが現状だ。俺が女子にキスをしている、するのにはそんな感情を入れていないことが正しいからだ。分からねえよ……女子の気持ちなんて。


 津田に答えを貰った俺は居心地の悪さを多少感じて、昼は1人で購買に行くことにした。チラっと乙川を見てしまったが、特に俺を追いかけて来るような素振りを見せていなかった。俺は何故、彼女のことを気にし出したのだろうか。付き合っているわけでもないのに。


 購買で適当に余り物のパンを買って、好きなコーヒー牛乳パックを手にしながら席を探す俺だったが、周りの野郎たちが俺を睨んでいるように見えた。いつから俺は人気者になったのだろう?


「未喜貴くん、ちょっといい? ウチらと一緒にお昼食べよ」

「キミに拒否権なんてないから。付いて来て」


「は? と言うか、誰?」


「や、おなクラなんだけど?」

「同じく」


「あ、あぁ。どこに行くって?」


 話したことも無い、同じクラスらしい女子ふたりに手を掴まれながら、俺は屋上に連れて行かれた。


「……それで、お前らって何? 俺に何の用?」


 屋上に着くと、昼はさすがに他の連中が自由気ままに昼を取っていた。ただ、ふたりの女子に引っ張られている俺を見た途端に、そそくさと見ないふりをしながら屋上から去ってしまった。


「おいおい……他の奴等に迷惑かけるなよ。何だよ? 話があるんだろ?」


「未喜貴くんって奈南ななとどういう関係?」


「何だ、そんなことか。悪ぃけど、俺と乙川は付き合ってない」


「付き合って無いのにキスしたって何で?」


「それはあいつから聞いたのか?」


「そうだけど。何でそんなこと出来るわけ?」


「落ち着いて名前を名乗ってから聞いてくれ。お前ら、誰?」


「わたしは苺花まいか持西苺花もにしまいか。奈南と関係ないのに何でキス出来るのか知りたいんだけど」


「苺花。分かった、覚えた。キスするのに理由と関係が必要なのか?」


 苺花と名乗る女子は口うるさいタイプみたいだ。そしてやたらと疑問ばかり投げかけて来る。正直言って、ウザい。見た目は男にモテそうな感じではあるが。


「未喜くんは、一度聞いたら忘れないんでしょ? それならウチも名乗っていい?」


「好きにすればいい」


「ウチは、椎名しいなね。井出椎名いでしいなだから、これからよろしく~」


 これから? 何か知らんが、こうも次々と見知らぬ女子が俺に近付いてくるのは何なんだ? この中に俺がキスした女子がいて、その中の誰かが正解だとでも言うのか? それとも、思い出の女の子が誰かだったりするのかよ……


「あぁ、よろしく……」


「ウチは未喜くんがフリーって信じてるんで、奈南と付き合ってないって確信したらウチと付き合ってもらうのでよろ~」


「わたしは奈南の友達だから。あの子、傷つけたら許さないから! それだけだから。じゃあね、未喜貴」


「んじゃ、またねー未喜!」


 何なんだ……? 恋でも好きでもない女子にキスしただけで、どうしてこんなにも俺に関係を持とうとして来ているんだ。分からないな。俺と恋がしたい……そう言いたいのか?


 出会う女子たちの一方的な言い分と告白は、謎で固められた俺の心の壁を崩し始めようとしていた。それでも俺は、子供の頃に社宅で出会った女の子に会いたい。


 その想いだけは嘘ではないということを自覚し始めていた。

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