7.ウワサの俺
7.勝手なウワサ
誰に見られたわけでもないのに、翌日教室に入ると俺は乙川と付き合っているということになっていた。見られたというよりは見ていた奴がいる。それは間違いなく、彼女自身だ。後はそれをどう、広めたかによるが。
「お前、未喜だったか?」
「そうだけど?」
「夏になる前にもう落とすとか、お前やるなぁ。地味な奴だと思ってたけど、見直した。そんだけ」
名前も名乗らない奴が勝手に感想を述べて、話しかけて来るとか気に入らない。それとも、乙川はこの教室じゃ人気女子だったとでも言うのか?
「ミキタカ」
「ん? お前……」
どいつもこいつもフルネームを勝手にカットして呼ぶなんて、失礼な奴等だ。目の前の彼女もそうだ。
「私じゃないから。でも、嘘じゃないし、こんなことで嫌いにならないで」
「何のことだ? 嫌いも何も好きでもない……」
「じゃ、戻るから」
俺の言葉を最後まで聞くことなく、女子たちの集まりの中に戻って行く乙川。何なんだ一体。私じゃない? それってつまり噂を流したのは自分じゃないって言い訳か。別にどうでもいいけどな。
「未喜貴~このモテオ! 何だよ、カラオケですでに彼女成立してたんかよー。うらやま~」
「そんなんじゃねえよ。津田、お前も勝手なウワサを信じる最低な野郎か。見損なったぞ」
「信じてねえけど、未喜貴なら信じてたっていうか。乙川だったのは意外だったけど、お前ってモテる奴だし驚かなかった」
「は? 何だそれ。乙川が意外なら他の誰かだと思ってたのか?」
そういや、コイツは俺を狙ってる奴がいるとかほざいてた気がするが、乙川では無かったのか? そもそもカラオケでキスしてきたのは乙川じゃないんだよな。なのに、付き合っていることになってるなんて早過ぎだろ。どれだけこのクラスの奴等は暇なんだ。
「え? あぁ~ま、気にすんな。気のせいだ」
「お前、そういういい加減なこと言うなよ。友達無くすぞ?」
「お? 俺のことダチだと認めてくれてたか。泣けるぐらい嬉しいじゃないか~」
「認めてないし」
色々面倒な奴だ。だが津田は情報を持っているってことは分かった。後は、ウワサを広めた奴を知ればいいが、俺自身がそうじゃないって言ってることだし、どうでもいいな。その内に見向きもされなくなるだろ。ウワサどころか、いちいち誰と誰かが付き合ってることに興味を持つなんて暇人じゃないとしない。
そう思っていたが、昼休みになり購買へ向かおうとすると、見知らぬ女子たちからの誘いが俺を待っていた。




