2.同じクラスの遅刻魔女子
俺は思い出に出て来た女の子……今は同じ学校の女子だが、何の前触れも無しにキスをした。した後に、名の知らぬ女子は声を出さずに泣き、そのまま走り去っていった。そしてすぐに後悔をしている。
同じ学校で同じ学年なら、翌日には俺は晒されていると思った。好きだったのか? とか、そうじゃないのにキスをしたのか? とか、格好の的だからだ。
内心、びくびくしながら教室に入った。ところが、誰も何も言わないどころか注目も浴びない。答えは簡単で、まだ誰とも話したことがない俺。男の友達もいなければ、話せる女子もいないからだった。
そろりそろりと遅刻間際に入った俺にいち早く、そして目ざとく声をかけて来た奴がいた。そいつは、入学式で隣に座っただけで話しかけて来た男だ。まだ親友でもない。
「よお、遅刻ギリだな! 未喜貴」
俺は未喜 貴樹が本名のはずなんだが、すでに略されて呼ばれている。何故、『き』を抜かすのか、意味不明だ。どういうわけか、俺は男どもには好かれやすいらしくすぐにダチが出来る。それは幼稚園生の頃から変わってない。
「そう言う津田は朝イチで来てるんかよ?」
「いや、お前が来るちょい前くらいだな。遅刻ギリではないぜ?」
「変わらねえよ」
「で、未喜貴に聞きたいことあんだわ!」
どうせ朝からくだらねえこと聞いてくんだろ? マジでうぜえ。と言いつつ、聞いてやる俺。
「このクラスの女子、レベル高くね?」
「あ?」
「だからーレベルだよ! レベル」
「何のゲームだよ?」
「ちげえ! 未喜貴はアレですか? 女子にはキョーミなんて無いほど硬派だ! そういう奴か?」
「……そんなことねえけど。可愛いとか綺麗とかくらいは理解出来る」
「それだ、それ! それのレベルのことだよ。そう思わね?」
俺がキスをした女子に可愛い、綺麗だとか感じていなかった。思い出の子だからってそれだけのことで、行動に出た。自分でも今さらながらに思うが、酷い奴だ。
「多少はそう思うかもな。それで?」
「それがさ、お前よりさらに遅刻ギリ……いや、その女は遅刻魔なんだが、マジでやべえくらい可愛い女子がいるんだよ。同じクラスだぜ? ビビるだろ?」
「怖くねえし」
「か~~! もう、未喜貴ってばアレか? 心を読ませない奴なん?」
心か。可愛いから好きになる? 綺麗だから恋が芽生える? どうなんだ? それは本当の気持ちってことになるのか? その辺がたぶん、欠落してるかもしれない。子供相手にするのと同じで、どうすればいいか分からない。どう言葉をかけたらいいのか見当が付かない。それが俺。
「かもしれねえな。お前、いま俺が考えてること分かるか?」
「早くその女子が見たい! だろ? 当たった!」
「さぁな。まぁ、数ミリ程度の興味はあるけど」
「細けえな! 遅刻魔の女子の名前知っとくか?」
「どうでもいい」
どうでもいい? 気にはなるけど、知ってどうする。そこから何かが変わるのか? それなら俺自身を変えていきたい。好きでも嫌いでもどっちでもいい。それを知るために変わりたい。
「おっ! 遅刻魔女子キター!!」
津田が興奮気味に教室の後ろのドア口に目を凝らしているので、仕方なく俺も見てやった。そして驚愕する。遅刻魔女子? あの子まさか……?
「お、どうした? 真っ青だぞ」
「い、いや……別に何ともねえよ」
俺が何にも後先考えずにキスをして泣かせて、その場から逃げ出した女子だ……同じクラス? マジかよ。嘘だろ? おなクラの女子の敵になるのか? この日、家に帰るまで存在を消した俺だった――