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偽るキスと恋心  作者: ハルカ カズラ
18/20

18.誰が好きで、誰を想うのか。


 俺の思い出は社宅に住んでいた頃に、ちょっとだけ出会った女の子と遊んだことだ。仲良くなったわけでもない。だけど、もっと仲良くなっていれば今の俺にはなっていなかったはずだった。それが、偽りを続けて来た俺の人生。


 人生って言うには大して生きて来ていないけど、思い出を美化しすぎた反動なのか、気持ちを理解するということが欠落していた。そのせいか、態度や話し方が冷たい感じになっていて、何も知らない女子たちはかえって、そこが良かったらしかった。


 勝手に想われて、勝手に好かれた。それが乙川奈南おとかわななという女。屋上で騒がしく喚くのを塞ぐつもりで、コイツにキスをした。それがそもそもの後悔だった。


 クラス全員が俺の敵になった。出来れば平穏無事に、存在感が無くてもいいから静かに過ごしたい。それが俺の望み。そんな時、唯原と付き合うことになった。それなのに、あいつも俺から離れて行く。唯原には離れて欲しくない。そんなことを思った。だから、追いかけた。


 学食から去ってしまった唯原を探しに追いかけたら、意外な所にいた。階段の踊り場で黙って突っ立ってた唯原。俺はすぐに声をかけた。彼女に嫌われたくないって、初めて思った。仮の恋人かもだけど、唯原は他の女子と違う感じがした。だから、そう思った。


「唯原、悪い。俺の乙川への態度と言うか、言い方間違った。だから、ごめん」


「未喜くん? どうして謝ってるの? や、なんかあの場にいづらくなって逃げちゃった。確かに未喜くんの言い方は無いかなぁとか思ったんだけど、けしかけたのってわたしだったなぁって思ってたら、ここから戻るかどうするか悩んじゃった」


「そ、そか。俺、てっきり唯原に嫌われたって思った。離れて欲しくなくて、探してた」


「え? そ、そうなんだ。あ、そっか。一応、付き合ってることになってるんだよね。気を使わせたんだね、ごめん~」


「そんなことないし、このまま続けてもらっていいか?」


「うん、いいよ。全然未喜くんのこと分かってないし、知りたいって思うから」


「俺、わざとい態度とか話し方、やめるから。だから、嫌いにならないでくれると……」


 何だろうな。何で俺はこんなに必死に、唯原ゆいはらのことを引き留めてるんだろうな。これって、どういう気持ちになるんだ。それが分かればいいけど、まだ分かんねえな。でも、離れて欲しくないな。


「んん? ならないよ。だって、それも含めて気になってたから。あ、でも、好きかって言われたらそれはまだ言えないんだ~ごめんね。や、追いかけて来てくれたのって何か嬉しいモノなんだね」


「あ、あぁ」


 唯原は怒ってなかった。追いかけたのが良かったかもしれない。俺も彼女も、好きとかって気持ちはよく知らないが、知りたいって思ってるのは確かだ。だから、後で乙川にも頭を下げて謝ることにした。


 少しずつ、俺も変えて行くしかない。気持ちのことをよく知りもしない俺だったが、唯原のことをそんな風に思ったのは初めてだった。これが何かのきっかけになればいいかもしれないな。

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