16.急接近
「……何で急に変えたの?」
「ん? 何のこと?」
「そんなのわたしが好きになった未喜貴くんじゃないんだけど?」
「そんなこと言われてもなー……俺って、しょっちゅう自分を変えるからさ~なに? 前の俺が俺だと思ってて好きになったんだ? そっか、それは悪かったよ。悪ぃな、乙川」
「楽しくない……こんな嘘ばかり固める未喜貴とは、ご飯なんか食べても楽しくない!!」
学食のトレーを叩きつけるようにして、乙川は席を立って学食から立ち去って行った。乙川に付いてきた女子たちも、気まずそうに立ち上がって彼女の後を追っていく。
「何だよ……何が嘘なんだよ」
「貴樹くん、追いかけないの?」
「いや、いい。それが狙いだし、唯原もそうした方が良かったんだろ?」
「んーまぁ……嫌われて離れて行くだけなら楽になれるかなぁって思ってたんだけど、間近で聞くと結構……」
「お前も俺のことが嫌になる?」
「そ、そんなことないけど。でも……」
ゴメンと言って、唯原も何故か席を立ってしまった。何だよ。分かんねえよ、女の気持ちなんて。
「そこ、空いてるの?」
次々と席を立っていなくなった俺の周りには、男すらも寄り付かなかったが、突然声をかけられて驚いた。考えに考えて周りが見えていなかった俺だったけど、さすがに驚いた。
「瀬織?」
「そ、そうだけど、空いてるなら座っていい?」
「あ、ああ」
何でコイツが急に声かけて来るんだよ。それでどうして俺は、緊張してんだよ。これは何だ? ドキドキ? 何のドキドキだよ。
「食べないの?」
「た、食べる」
瀬織に言われるがまま、さっきの騒動で手付かずの昼飯に口をつけた。
「……」
何も話さないのか。なのに何だこの、プレッシャー。俺に近付きもして来なかった女が、何で急に来るんだよ。
「未喜くんって、いつから?」
「え?」
「いつから嘘をついてるの?」
「それはどういう……や、人って小さい頃から嘘をつくだろ。そういうことなら小さい頃からが始まりだと思う」
「ううん、違う。あのキスは嘘だった?」
な!? 何だコイツ……やっぱり初めましてじゃなかったんだ。それがどうして急にこんな場所のこんな形で来るんだよ。ワケ分からねえよ。
「ち、違う」
「どっちに?」
「え」
「わたしと奈南にしたキス、どっちが嘘?」
「……い、いや、そ、そんなのは答えられるわけが……」
こんな、こんな俺が女子を怖いと思うだなんて初めてだ。ど、どう答えればいいんだよ。




