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偽るキスと恋心  作者: ハルカ カズラ
14/20

14.偽男と疑女


 初めて彼女が出来た。好きでも無ければ、想いも無いのに。シャクなことに、よりにもよってウザ友の津田から紹介された女だ。カラオケに行ったときに一度会っていたソイツは唯原羽多ゆいはらうた


 嫌いじゃないし、嫌でもない。一緒にいても気をつかうこともなく、ただ黙って歩くだけの関係だ。それでも、何も感じなかったわけじゃ無い。お互いが恋のことをよく知らない関係で、いわばどっちもお試しな状態だ。それがかえってよかったのかもしれない。強引に好意を伝えて来る相手じゃなかったのが、俺には良かった。


「じゃあ、貴樹くん。明後日の学校で!」


「分かった。唯原もな」


「名前で呼ばないの? あ、やっぱりいいや。名前呼びって、いかにも特別っぽい気がするしね」


「特別か……よく分からないが、学校で変に言われたり思われたりされるのは嫌だしな。名字でいいだろ?」


「いいよ、わたしは貴樹くんって呼ぶのはいいよね?」


「お前に呼ばれるのは悪い気がしないから、それでいい」


 俺のことをまともに名前で呼んでくれる奴は親兄弟を抜かせば、本当にほとんどいないだけに、唯原から名前を呼ばれるのは何か嬉しい。そんな感情が俺の中で湧いた。


 唯原の言葉通りに俺は、いつもの俺じゃない俺を演じることにした。学校に行き、教室に入ったその時から俺は、俺じゃなくなる。そうすれば、好きと言って来ている女たちが自然に離れていくと踏んだからだ。



「おーす、未喜貴みきたか! あいつはどうだった?」


「……」


「ん? どした? また気配を消してるのか? おーい、未喜貴~?」


「まさ美ちゃんは朝から元気なんだな。聞こえているよ」


「おま……それ、マジでやめてくれ」


「悪ぃな。おはよ、津田。あいつって唯原のことだろ? いい女だ。気に入った」


「おお! マジか。いやーそう言ってくれると俺まで嬉しくなるよ」


 津田と話をしていると、乙川が俺に近付いてきた。やはりコイツは、押して押しまくる女なのだろう。


「未喜くん。お昼、一緒にいい?」


「いいよ。乙川も、それに他の女子たちも誘っていいぜ」


「え? ホントに?」


「俺は、女が好きだから多くいればいるほど楽しくなる性質たちなんだ。だから、お前の友達とも仲良くしたい。いいだろ?」


「え、あれ? 未喜くん、何か変わった? 前はそんなこと言わなかったのに……」


「そうか? 元から俺はこんなだけどな。なぁ、津田!」


 寡黙でクールでSな俺が、週明けから少しだけチャラそうな一面を見せれば、きっと乙川の様な女はがっかりするはずだ。そうすれば、変な噂も消えてクラス連中の関心も失せるだろう。目論み通りに行くかは不明だが、恐らく期待出来る。そんな気がした。


「お、俺に聞くかよ!? え、えーと、そう! 確かそうだな、うん。未喜貴は軽すぎる奴だ。俺が保証する!」


「保証するな」


「そ、そうなんだ。と、とりあえず……お昼、学食に行くんだよね? 行ってくれるんだよね」


「おお、いいね! 乙川だけじゃ俺は寂しいから、とにかく可愛い子をたくさん呼んでくれよな。俺は唯原辺りを誘ってみるぜ」


「それはいいけど……じゃ、じゃあお昼にまたね」


「おう! 昼にな」


 こんなもんで通用したのだろうか。俺の芝居で乙川は、若干だが引いたような何とも言えない表情を浮かべていた。それで正解なら、俺はこのろくでもない嘘つき男を演じて、女子たちの幻想をぶっ壊してやる。

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