14.偽男と疑女
初めて彼女が出来た。好きでも無ければ、想いも無いのに。シャクなことに、よりにもよってウザ友の津田から紹介された女だ。カラオケに行ったときに一度会っていたソイツは唯原羽多。
嫌いじゃないし、嫌でもない。一緒にいても気をつかうこともなく、ただ黙って歩くだけの関係だ。それでも、何も感じなかったわけじゃ無い。お互いが恋のことをよく知らない関係で、いわばどっちもお試しな状態だ。それがかえってよかったのかもしれない。強引に好意を伝えて来る相手じゃなかったのが、俺には良かった。
「じゃあ、貴樹くん。明後日の学校で!」
「分かった。唯原もな」
「名前で呼ばないの? あ、やっぱりいいや。名前呼びって、いかにも特別っぽい気がするしね」
「特別か……よく分からないが、学校で変に言われたり思われたりされるのは嫌だしな。名字でいいだろ?」
「いいよ、わたしは貴樹くんって呼ぶのはいいよね?」
「お前に呼ばれるのは悪い気がしないから、それでいい」
俺のことをまともに名前で呼んでくれる奴は親兄弟を抜かせば、本当にほとんどいないだけに、唯原から名前を呼ばれるのは何か嬉しい。そんな感情が俺の中で湧いた。
唯原の言葉通りに俺は、いつもの俺じゃない俺を演じることにした。学校に行き、教室に入ったその時から俺は、俺じゃなくなる。そうすれば、好きと言って来ている女たちが自然に離れていくと踏んだからだ。
「おーす、未喜貴! あいつはどうだった?」
「……」
「ん? どした? また気配を消してるのか? おーい、未喜貴~?」
「まさ美ちゃんは朝から元気なんだな。聞こえているよ」
「おま……それ、マジでやめてくれ」
「悪ぃな。おはよ、津田。あいつって唯原のことだろ? いい女だ。気に入った」
「おお! マジか。いやーそう言ってくれると俺まで嬉しくなるよ」
津田と話をしていると、乙川が俺に近付いてきた。やはりコイツは、押して押しまくる女なのだろう。
「未喜くん。お昼、一緒にいい?」
「いいよ。乙川も、それに他の女子たちも誘っていいぜ」
「え? ホントに?」
「俺は、女が好きだから多くいればいるほど楽しくなる性質なんだ。だから、お前の友達とも仲良くしたい。いいだろ?」
「え、あれ? 未喜くん、何か変わった? 前はそんなこと言わなかったのに……」
「そうか? 元から俺はこんなだけどな。なぁ、津田!」
寡黙でクールでSな俺が、週明けから少しだけチャラそうな一面を見せれば、きっと乙川の様な女はがっかりするはずだ。そうすれば、変な噂も消えてクラス連中の関心も失せるだろう。目論み通りに行くかは不明だが、恐らく期待出来る。そんな気がした。
「お、俺に聞くかよ!? え、えーと、そう! 確かそうだな、うん。未喜貴は軽すぎる奴だ。俺が保証する!」
「保証するな」
「そ、そうなんだ。と、とりあえず……お昼、学食に行くんだよね? 行ってくれるんだよね」
「おお、いいね! 乙川だけじゃ俺は寂しいから、とにかく可愛い子をたくさん呼んでくれよな。俺は唯原辺りを誘ってみるぜ」
「それはいいけど……じゃ、じゃあお昼にまたね」
「おう! 昼にな」
こんなもんで通用したのだろうか。俺の芝居で乙川は、若干だが引いたような何とも言えない表情を浮かべていた。それで正解なら、俺はこのろくでもない嘘つき男を演じて、女子たちの幻想をぶっ壊してやる。




