13.エモい貴樹
告白をしたわけではないのに、ウザい津田の紹介に乗り唯原羽多と付き合うことにした。津田いわく、羽多も恋についてよく分かってないからお似合いだ。と、余計なことを言ってくれた。
紹介をされた日の翌日は休みだったこともあり、俺と羽多は会うことにした。学校の日にどうなっているかはその時に分かるはずだが、そこまで注目が長続きしているとは思っていない。
「なぁ、羽多は津田とはそうならないのか?」
「冗談だよね?」
「何が?」
「まさ美と恋をしないのかって意味なら、絶対あり得ない。タイプじゃないし、好きじゃない」
「好きじゃないのには同意できるが、タイプって?」
「貴樹くんと津田は同じ感じ? 違うよね。そういうこと」
「あぁ、なるほど」
世の中の幼馴染と呼ばれる男女関係は必ずしも、いい関係でいられるかと言われればそうではないことの方が多いらしい。津田と羽多はそういうことか。
羽多は俺のことをまともな名前で呼ぶ。俺の名前をまともに呼ぶ奴は学校じゃいなかっただけに、羽多の話すことを素直に聞くくらいに俺は、僅かながら何かの感情が動き出していた。
「明後日から学校だけど、その辺のことは平気か?」
「心配してくれてるんだね。貴樹くんこそ、奈南のことはどうするの? 好きじゃないのは私も知ってるけど、彼女は手強いよ?」
「それは何だ?」
「手強いってことの意味なら、そのままだよ」
「しつこい奴は好きにならない。男も女もだ。お前、何か出来ないのか?」
「んー、意識してないんなら、お昼とか一緒に食べるのってどう? 私も一緒でいいなら」
「それで何が変わる?」
「奈南は攻める系だと思うし。貴樹くんがずっと拒否ってても、たぶんやめないと思うんだ。だったら、分かりやすく感情表現見せとけば、クラスの中での立ち位置……んー? 存在理由? よく分かんないけど、彼女の気持ちが変わるかもだよ」
「俺が拒めば拒むほど、乙川は諦めずに色々仕掛けて来る……そういうことか。そんなに厄介な奴だったとはな。で、俺はどうするって?」
「感情……エモっておけばいいよ。普段、貴樹くんはさ、クールで寡黙でSっぽいから女子は何とな~く、興味もってるんだ。他の男子、まさ美を筆頭にチャラい系多い中で貴樹くんだけがそうじゃなくて……だから、嫌かもしれないけれど他の男子を真似てみると女子の反応が変わるかもだよ」
津田になれってことか。俺がウザいキャラになるのか? そんなのはさすがに予想外だ。とは言え、クラスに敵を作ったままだとこの先やり辛いな。俺が目指そうとしている心が遠くなるかもしれない。それなら腹をくくるしかないのか。
「止むを得ないのか。津田にだけはなりたくなかったのに……羽多、お前はそれでも俺と一緒にいたいか?」
「うん。貴樹くんも私もまだ分かってないままで一緒にいるよ? だから、時間が経たないと分かんないよ。だから、付き合ってもいない状態。でしょ?」
「そうか、ならそうする。サンキュな羽多」
俺は羽多の頬に思わず、手を付けた。どちらかと言えば褒めるような感情で礼を示しただけだ。
「い、いやー照れますな。私、何も大したこと言ってないのに」
「嫌か?」
「スキンシップってことだろうし、素直に嬉しいデス」
「じゃあ、明後日。学校で、普通に話しかけて来ていい」
「え? いいの?」
「エモればいいんだろ? なら、お前が近くにいた方がいい。見よう見まねで俺は、チャラい男になってやる。そうすれば、女子も冷めるんだろ? お前をのぞいて」
「あーうん。じゃ、それで! バイバイ、貴樹くん」
「羽多、またな」




