12.一緒にいても苦じゃない
「それで、俺はどうすればいいんだ?」
「おいおい、未喜貴くん。それは自分で考えてくれよ。何でもかんでもダチがバックアップするとか考えないでくれよな。俺は紹介をした。それだけだ。後は、コイツと相談してくれ。決めたんだろ?」
「そそ、とっととまさ美は帰れ! 私は未喜くんとふたりになりたいしー」
「あんま、チョーシ乗るなよ? 羽多。すぐにウワサ広まって、お前アレだぞ」
「えーでも、彼女カノジョしてないんだし、そんな心配しなくてもよくない?」
勝手に話が進んで勝手に想像しているようだが、俺はとりあえず唯原羽多と付き合うことにした。考えてみれば、自分の姉たち以外で、どこの誰とも分からない女子とふたりで会うとかは今まで無かった。これが自分にとって何かのきっかけになるなら悪くないかもしれない。そう思えた。
「じゃあそういうことだから、津田。サンキュな」
「お、おお!? ツンがデレた……だと!? 早速変化してきたのか! ふはは! いいね」
「早く帰れ」
「そうだそうだ~!」
なるほど。自分の味方をしてくれるって意味では、同じことを思う女と一緒にいるのは悪くない。
「くっ、分かったよ。未喜貴、間違ってもコイツにアレはするなよ? お試しなんだからな。本気になったらお互いに気まずいだろ? 同じクラスなんだし、とにかくそういうことだから。羽多も、未喜貴を無駄に怒らせるなよ? お前は……」
「あーウザい! 邪魔」
しつこいくらいに念を押す津田がウザい。似たことを隣の女子、羽多は考えているようだ。それなら、俺の行動はコレしか無かった。
「羽多、行くぞ」
「わわっ」
さっさと帰ってくれない津田よりも先に、俺たちがここから去ればいいだけだ。簡単なことだ。そう思った俺は、羽多の手を掴んでさっさとその場から離れた。取り残された津田が一番驚いていたみたいだ。
そもそもバーガー店なんかがある場所は学校からも近い。こういう所で変に噂されるのはごめんだった。だから俺はコイツを連れて、適当な所にまで行こうと突き進んだ。
「ちょ、ちょっと未喜くん。ど、どこまで行くの~?」
「人が少ないとこだ」
「へっ!? ちょい待って、その前に手を握られたままなんだよ~」
そう言えばそうだ。あの場からとっさに逃げる為にコイツの手を掴んでしまったが、ずっと握ったままだ。別に何の感情も湧かないが、女子であるコイツは何か恥ずかしいのか?
「俺は気にしてない」
「いやー、そう言われると女子として見られてないっぽいから、それはそれでへこむんだけどさ~。で、でもそうだとしても、まだそういう関係じゃないし離して欲しいな~なんて」
「分かった」
「……あっ」
そう言われたからさっさと手を離してやったのに、何とも微妙な表情を浮かべているのは何なんだ。とりあえず、そこに住んではいないが団地群の中にある公園で休むことにした。
「はー……だる」
「未喜くん、聞いていい?」
「何?」
「何で私なら平気なの?」
「嫌じゃなかったから」
それは事実だ。他の女子にはない気楽さが、羽多から感じられた。少なくとも、俺に好きだ好きだなんて言いふらす乙川よりは断然マシだ。一緒にいて嫌じゃない。これは今の俺にはすごく重要な事だ。
「そ、そっか。そう言われるとなんか、嬉しいかも」
「で、羽多はどうして俺なんだ? 別に津田に言われたからってわけじゃないんだろ? いちお、聞くけど少しは意識してるから付き合いたいってことだよな」
「まさ美に言われたからって好きでもない人と一緒にいたいとか、そんなのないよ。嫌じゃないのは私も同じなんだ。未喜くんは気になる男子なんだよ。それが好きかって言われたら、それについては私もまだ分かんないんだよね~。そういう意味じゃ、未喜くんと似てるかも。好きとかの境目? それに気付くまでは時間かかりそうかな」
「津田がウザいって意味じゃ似てるな。じゃあ、俺はお前と付き合う。好きじゃない、いや、まだそんなの分からない。それだけ。ただ、嫌じゃない。それでいいか?」
「おっけ。いいよ、それで」
「別に誰かに言う様なことじゃないし、教室とかで顔合わせても特別にして来なくていい。ってか、迷惑だ」
「あー、それって奈南のことをゆってる? んとね、彼女には多分すぐばれるよ。あの子、強いから」
「あ? 何だそれ。めんどいな。まぁいい。とりま、よろしくな羽多」
「う、うん。ミキくん」
どうなるのかなんて予想も想像もしない。ただ、俺がそうしたいからそうする。少しでも、思い出の女の子に記憶と想いが近づくなら俺は、女子の気持ちってものに寄ってみるだけだ。良くも悪くもない。




