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プロローグ

世界が駆け足で破滅へと向かっていた。

現状を世界の歴史全体から見て例えるならば、断崖絶壁まであと一歩といったところだろうか。

その原因はきわめて単純で世界中のいたるところで勃発している戦争だった。

互いの利益を求めて行われるその行為は、世界の歴史そのものといっていいほどにありふれたものだったが、技術が高度に発達しながらも、それを抑制する術を得ることができなかったこの世界では、戦争はついに世界を破滅しうることができるようになってしまっていた。

戦争の発端はとある小国で放たれた一発の弾丸だった。

その一発が火種となり、時を置かずして戦争の炎が世界のあらゆるところに飛び火した。

今では戦火を逃れられるところは世界中のどこに存在していなかった。


そんな世界の様相を《銃》を司る神の彼女はただじっと眺めていた。

鉄と火薬の申し子たる銃の発明と共に誕生し、近代になってその存在を確立した彼女は数少ない現代の神の一柱だった。

天地創造が行われたころに生まれた多くの神々からすれば、赤子も同然といっていいほど年若い彼女だったが、その力はとても大きなものだった。

なにしろ彼女の信奉者は人種、年齢、性別、果ては宗教まで飛び越えていたるところに存在し、そして彼女の眷属を通して彼女に届けられる祈りはとても純粋で強いものだったからだ。

ただそうした強い力を彼女が使ったことは、今までに一度も無かった。

神代と呼ばれたころの時代には、神々は気まぐれに人々に新たな知恵を授けてみたり、天罰と称して街を滅びしてみたり、あるいはその身を人にやつし遊びや恋を楽しんでいることもあったのだが、彼女がその存在を確かなものにしたころには、神々はもうすでに世界に干渉する術を失っていた。

彼女が生まれてこの方神としてやってきたことといえば、眷属たちを通して世界を眺めていることくらいだった。

そのことについて不満はまったくない。

歴史の転換点といえるところのそのほとんどには、彼女の眷属たちの存在がありった。

そこで人々が起こす数多くの悲劇や喜劇、それと時折起こる奇跡としか思えない結末は、彼女を退屈させるということは無かった。

だがそれももう終わりのときがきたようだった。


広く豪奢な作りではあるが窓のない一室で、彼女はその最後の瞬間に立ち会っていた。

部屋の中には一人の男と、血だまりに倒れるいくつかの死体があった。

男はとある小国の支配者であり、倒れている死体はその側近達だった。

男の顔には見て取れるほどのはっきりとした絶望があった。

彼の絶望がどこからきたものなのかは、神であっても全能とは程遠い彼女にはわからなかったが、その絶望がこれから世界を終わらせる直接的な引き金となった事はわかっていた。

彼女の視線の先で男が最終兵器の起動を終えた。

そしてパァンという一発の銃声の後、男はばたりと倒れ動かなくなり、彼女も見るべきものは終わったとばかりにこの場を離れていった。

起動された兵器は、この国以外の大よそ全てに十分に致命的な破壊をもたらすものだった。

世界が滅ぶにはこれだけでも十分だったが、これだけならばまだ幾ばくかの猶予があった。

極端な話ではあるが、全てが破壊された世界にこの国だけが残り、そこから世界は真綿で首を絞めるようにゆっくりとほろびていくことになるだろう。

だがそうはならないであろうと彼女は確信していたし、事実そうなることも無かった。

兵器が起動されたことを即座に察知した他国がその報復として、それぞれが保有する最終兵器を使用した。

それらは当然小国が使用した兵器と同程度の威力を有しており、中には何倍も強力なものまであった。

その結果がどうなるかは、報復として兵器を使用した者達もわかっていたるのだろう。

一番最初の報復攻撃まではどの国もためらっているようにやや時間があいた。

小国の最終兵器の使用がブラフであることを祈っていたのかもしれない。

だが、その緊張に耐え切れなくなったのか、とある国から最初の一発が放たれると、あとは堰を切ったように他の国もそれに続き、ほどなく世界にある全ての最終兵器が起動されることになった。

このとき地上には、世界を両手で数えてもなお余るほど滅ぼせるだけのエネルギーが溢れていた。



世界が終末を迎えてしまったことはとても残念ではあるが、それ以上の感慨はもっていなかった。

こうなることは少し前からある程度予想していたからだ。

世界の先行きの予想は、未来予知の権能をもたない彼女のライフワークの一つだった。

この結末は、彼女が立てたいくつもの予想のうちでも最も蓋然性の高いものの一つだった。


そしてもう一つ、世界の終末が訪れるという予想が頭をよぎるようになってからのライフワークがあった。

それは世界が終わってから自らがどうなるのかという予想だ。

こちらに関しては、予想というより妄想といったほうが正しいかもしれない。

なにせそれを予想するに当たっての確かな情報が何一つ存在していなかったからだ。

彼女はこの世界に生まれたときから自分が何者であるか、何ができるのかを正しく把握していたがそれには世界が終わったあと、自分がどうなるかといったことは含まれていなかった。

一時期は他の神と呼ばれる存在ならばその答えを知っているのではないかと、世界中を探し回ったりもしたが、その答えどころか自分以外の神に出会うことすらも無かった。

以来彼女は時間ができるたびに思いをはせてきた。

世界の終焉共に自分も消え去るのなら、後腐れが無くまあ悪いものでもないだろう。

世界と運命を共にするあたりが神としてもポイントが高そうでなお良い。

再び天地創造のようなことが起きるのだとしたら、それはとても望ましく思う。

いままで見守っているだけだったのだから、その分積極的に働いてもいいだろう。

自分はあまり生産的な権能こそもっていはしないが、できることはあるはずだ。

このままの状態が続くのだとしたら、それは少し考え物だ。

何も無くなった世界をただ眺め続けるのは少々退屈に過ぎる。

ともあれどうなるのかその答えはもう目の前にあった。

彼女は全てを受け入れるべく意識をそっと閉じた。

そして世界は真っ白な光に包まれた。
















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