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彼はそれでもペットをもふるのをやめない  作者: みずお
第一章 彼は新しい世界に触れる
9/88

08.彼は眷属とゆっくり歩む

あらすじ:戦闘詐欺

 始まりの街アルスティナに戻った俺は、街の中央から南東へ伸びるメインストリートに足を運ぶ。

 プレイヤーの露天が所々に立ち並び、喧騒が俺を包み込む。歩くプレイヤーを見ていくと、明らかに初期装備よりもいい武器や鎧を装備している人達がちらほらいる。


(サービス開始からもう八日たってるからなー)


 そりゃそうかと頷く俺はまだ初期装備。余談だが初期装備はプレイヤー間で差が出ないように、全ての装備の総額は同じになるようになっている。

 したがってリクの防具は武器が無い分、装備箇所が多かったり少しいいものだったりする。

 それでも誤差の範囲でだが。

 ゆくゆくは装備も整えていかないといけないと思いつつ、どうやってお金を稼ぐかそれが悩ましい。


「……ん。着いた」


 この所通っているプレイヤー露店に到着した。俺は露店を挟んで向こうに座っているプレイヤーに手を上げて挨拶する。


「……ども。おっちゃん」

「ん? おおボウズかっ! いらっしゃい」


 厳つい顔に人の良さそうな笑みを浮かべるプレイヤーは『ガイル』さん。

 生産系のプレイヤーで俺が持ってくる二束三文にもならない物を適正価格で買い取ってくれる俺の良心。顔は恐いが。


「……草買ってくれー」

「お前言い方ってもんがあるだろ。買うけどよ」


 呆れた風にガイルは言いながらも、俺が提示するアイテムを買い取ってくれる。

 本当に良い人だ。顔は怖いが。

 俺は露店の空いている所に両手をつき、少し身を乗り出すようにしてガイルに話し掛ける。


「……おっちゃん何かいいお金の稼ぎ方ないかなー」

「モンスター倒せば良いだろ」

「……それ以外で」

「あとは生産系で素材をアイテムに変えたりだな」

「……それ、以外で」

「あははははっ!! んなのがあったら俺が知りたいぜっ!」


 ガイルが豪快に笑う声を聞き、俺は溜息を吐く。うまい話はそうそう転がっているものじゃない。


「……んじゃ雷華って知ってる?」

「雷華?」

「……スキルらしいんだか」


 ふうむ。ガイルは唸りながら考え込む。

 元々厳つい顔が更に強面へと変貌し、身に纏う雰囲気に圧が増す。子供がみたら泣き出すかトラウマになること必至。


「…………すまないな。装備とかならともかくスキルについては分からねえな」

「……ん、大丈夫。ありがと」


 眉を下げてこちらを見る巨漢に俺は首を振り気にしてない仕草をする。


「どうやって見つけたとかスキルの事については聞かねぇ方がいいか?」

「……そうしてもらえると助かる」


 顔に似合わず気のいい店主に別れを告げて、俺はその場を去った。


「……さーて、イース平原に行くか」


 こうなった以上戦闘するしかないだろう。

 朽葉がどの程度戦えるか分からないが、唯一保持していたスキルの情報が無い以上試してみる必要がある。本格的な戦闘はせずまずは様子見をしよう。


「くぅーっ! きゅーっ!」


 頭の上で四肢を脱力していた朽葉が、非難がましく俺の額を前足でぺしぺし叩いてくる。


「……ん? 魚か、忘れてた」

「くぅーっ! くぅーっ!」

「..........悪かった」


 結局NPCのお店で魚を買うまでの道中、朽葉は終始俺の頭を叩き続けていた。



  ◆



「……久々だな」


 イース平原を見渡し俺はその場で伸びをする。今の《Unlimited Online》のゲーム内時間はお昼を少し過ぎたぐらいで太陽の光がぽかぽかして気持ちいい。

 頭の上の朽葉も光に当てられて微睡んでいる気配がする。

 予定を変更して日向ぼっこにしたくなる気持ちを押し殺し、魚二匹分のお金を無駄にしない為に心を鬼にして朽葉を下ろして向き合う。


「……くちは、起きろ」


 語気が強めになるように心掛けて自分のペットを呼ぶ。されるがままだった朽葉が、閉じかけていた目を開けこちらに意識を向ける。

 なあに?

 純粋な瞳が俺にそう問いかけてる。


「……今日は試しに戦ってみるから。……だから気合い入れるんだ分かったかー」


 普段の俺と比べて二割り増しでハキハキ喋れた自信がある。

 朽葉は俺の言っていることが分かっていないのか俺の足元に甘えてくる。


「……くーちゃんぇ……」


 俺は溜息をつくと微かに笑う。さっきまでのやる気満々なやり方は俺らしくない。俺の眷属である朽葉も俺の気質に近い筈だ。


「……くーちゃん。程々にやるから良かったら手伝ってくれな?」

「きゅっ!!」


 俺は朽葉を頭の上に戻し一匹のワーハウンドに歩いて近付く。

 装備して実体化させた木剣を軽く振り、こちらに突進してくるワーハウンドを見据える。


「……よっと」


 試しに魔物の突進を受け流す。受け止めた訳ではないのに木剣から嫌な違和感が伝わる。

 木剣は店売りの片手剣の中では一番ランクが低いものだから仕方がないが、一番の原因はリクの【片手剣】スキルがゼロであることだ。


 結局この日はワーハウンドと戯れるだけで終わった。

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