05.彼と大地の守護者2
お久しぶりです。作者です。
投稿が遅くなり、申し訳ありません。
PCご臨終と引っ越しと社畜へのジョブチェンジで大幅に投稿が遅れました。
連絡を入れるべきとは思いつつ、疎かにした事も重ねて申し訳ありません。
今後ですが、私生活がまだ落ち着いておりませんので、今回のように更新が滞る事が多くなります。
それでもいいよー。という方はこれから先もよろしくお願いします。
黒い大理石に似た素材の石階段は、真っ直ぐに地下へと伸びている。
岩壁には光る苔が生えていて、歩くだけの光源には困らない。
試しに触ってみたが、光っている以外は普通の苔の様に思う。
(光ってる時点で普通じゃないかー……)
でも軟体生物や虫も光る世の中、苔が光っても不思議じゃないか。とややズレた発想を抱く。
俺は足音を反響させて降りながら、石碑の裏に書いてあった文言をのんびりと思い出す。
「……『不死の同胞に安らぎを』ってのは、単純に腐龍討伐がフラグだって意味だったのかも」
もし条件を満たしていなかったら、石の塔同様先に進めなかっただろう。
だとしたら、討伐メンバーである自分が此処に来たのは運が良かった。
階段はその様相を変え、大きな空洞を、螺旋状に降りていく。
木の洞を思わせる伽藍堂の内部を進む。
(このイベントは、第一陣のプレイヤーと新規プレイヤーの交流、なのは前提として──)
皆で協力して、様々な花火を見て楽しむのがこのイベントの主旨なのは明言してある。
そしてそこまでがイージーモード。
(途中から追加された、災厄だの守護者だのの情報が、先行組向けのハードモードかね)
足裏が大理石を叩く音を反響させながら、俺はこのイベントの展望を予想する。
その予想通りだと、この先には今まで以上の強敵が待ち構えている可能性が高い。
「誰かに手伝ってもらえば良かったかな?」
「にゃう」
得意の他力本願を発動していると、浅緋が尻尾で俺の腕を叩く。
浅緋が教えてくれて初めて、階段の先からこちら側に光が漏れているのに気付いた。
出口の予感に嬉しさと緊張を覚えつつ、俺は足早に残りの石段を進む。
「んあ……」
短い岩のトンネルを抜け、予想以上の眩しさに立ち止まって目を細める。
明るさに目が慣れた俺の眼下に広がるのは、緑萠ゆる豊かな草原である。
「穏やかだなあ……」
先程までの警戒心が吹き飛んだ。
地上と見間違う静閑な光景に、驚愕よりも先に感嘆の息が漏れる。
実際岩壁が見えていなければ、地上に出たと勘違いしていたかもしれない。
(『獣達の休息地』か)
マップを確認して内心そう呟く。
明かりはどうなっているのか気になり天井を仰ぐ。
「……空を、泳いでる?」
はっきりとは言えないが、ただ何となく生きているように感じた。
所々に自生している見たことのない木々を眺めながら、これからを思案する。
久し振りのソロ活動である。景色を楽しみながら、朽葉達とのんびり探索するのも悪くない。
そう計画した矢先、その計画は修正を余儀なくされた。
「めっ!」
数時間前に出会った草で出来た羊が、十数メートル先からこちらに向かって鳴いている。
草羊は俺達が自分に気付いたのを確認すると、こちらに近付いてくる。
「めっ! めっ!」
「……」
「…………めぇ〜。めぇ〜」
「そっちに行くから待ってなさいな」
近付いてくるのだが、いかんせん牛歩なうえに時折休むので、身構えていた俺の方から歩み寄る。
草羊の元まで歩き、屈んで目線を合わせる。
「さっき振りだなー」
「めぇ」
「そうかそうかー」
「めぇっ! めぇっ!」
「ふむふむ」
「めーっ‼︎」
「なるほどー」
やはりそうだ。俺は爽やかに笑う。
「何を言っているのか、さっぱり分からないなっ‼︎」
「めぇッ──⁉︎」
俺は草羊に手を伸ばし、草羊の包み込むような綿の感触を楽しむ。
草羊は大人しくされるがままであったが、
こちらをじっと見ると、徐ろに腕の裾を引っ張る。
これ位分かり易かったら、誰でも意図に気付く。
「めーっ」
「んー。……もしかして案内してくれる?」
「めっ!」
正解らしい。草羊は一度こちらを振り向いて、先導し始める。
それはありがたいのだが、この子のペースに合わせていたら日が暮れてしまう。
地下だから時間の確認は難しいのだが。
「ほいっと」
「めっ?」
草羊を抱き上げる。見た目の嵩の割に凄く軽い。あと畳のような落ち着く匂いがする。
朽葉と浅緋が、草羊の左右にすっぽり収まる。
「重いんですけどー」
口ではそう言うが、実際のところステータスで強化された俺の腕力では、そんなに大差は無い。
それを知ってか知らずか、三匹は早く出発しないのかと無垢な瞳で訴える。
「……はいはい。行きますよー」
三者三様の鳴き声を聞きながら、俺は歩みを再開する。
『獣達の休息地』は浅い盆状の地形で、所々に木々や池は見られるが、殆どが見通しの良い草原である。
中心では、大きな樹がのびのびと枝葉を伸ばしている。
その樹に既視感を覚えつつも、俺はそこを最後に回して、外壁に沿うように草原を一周してみた。
三匹を抱えて歩きながら、ノンアクティブモンスター達を眺める。
そもそもここにはアクティブモンスターは居ないみたいだ。
漠のような獣モンスターは、水を飲むのを一旦止めてこちらを観察し、すぐに興味を失ったのか水飲みに戻る。
オコジョみたいな子供のモンスターが、草を掻き分けて追いかけっこを楽しんでいる。
その他、思い思いに過ごすモンスター達を眺めながら、俺は言葉を漏らす。
「遊牧的というか、まさしく名称通りに『休息地』なのかねー」
ノンアクティブモンスターばかりなのも、そういった意図からだろうか。
「?」
問い掛けた訳では無い俺の独り言に、しかし腕の中の三匹は律儀に首を傾げる。
その可愛らしい仕草に、笑みが零れる。
「……さてと──」
俺は中央に鎮する一本木を見据える。
既視感の正体は謎のままだが、だからと言って行かない選択肢は無い。
「鬼が出るか蛇が出るか……」
そう言いつつも、俺は待ち構えているモノの正体をある程度予想出来ていた。
(あの碑石から察するに、海の守護者は海豚。空の守護者は鷲。そして大地は──)
俺が一本木に近付くと、樹に寄り添うように伏せていた『それ』が身を起こす。
「こんばんは少年。貴方が来るのを心待ちにしていました」
そこに居たのは、鬼でも蛇でもなく、龍──それも、大地を司る地龍だった。
◆
全長二mにも満たない綺麗な地龍は、自分の事を『アルゥマ』と名乗った。
きめの細かい滑らかな鱗は深緑で、更に濃い色の瞳は穏やかな光を湛えている。
圧倒される生命力にも関わらず、地龍が動いて初めて、俺はその存在に気づいた。
「最初に少年。闇の瘴気に苦しんでいた私の同胞を救ってくれた事、感謝します」
大きくはないが不思議と良く通る声でアルゥマは文字通り感謝を述べる。そしてそのまま視線を俺の腕の草羊に移す。
「もう仲良くなったのですね」
「めぇぇ」
草羊が肯定とも否定とも言えない鳴き声と仕草をする。
「知り合い?」
「草羊達の住処はこの草原です。でも時折ふらっと外に抜け出すのは、その子くらいのものです」
腕の中の草羊はのんびりした見た目に反して意外とアクティブだった。
「めー」
「めぇー」
「んめぇ」
そしていつの間にか、草羊達が周りに集まっていた。
周囲の草羊を見るに、腕の中の子は草羊の幼体らしい。
それにしては、色合いが他の幼体と比べて
鮮やかな気がする。
「単純に色違いって訳じゃなさそう──ん?」
考え込んでいたら、腰の辺りに軽い衝撃が来た。
確認すると、一体の草羊がこちらの腰に頭を擦り付けていた。
その行為の意味を理解する前に、別の方向から草羊が頭を当ててくる。
「何なに?」
「 ふふっ。珍しいお客さんですからね。皆、少年と遊びたいみたいですよ」
耐えきれずに尻餅を付いた俺に、次々と草羊達が群がってくる。
押し競饅頭状態である。
「ちょっ、君ら少し待って!……暑苦しいからヤメテッ‼︎」
「そう言えば少年」
「この状態で話続けるのッ⁉︎」
流石イベントモンスター。システムに忠実である。
「貴方達の王、その娘がこの島にいますね」
「まあ、王女さま主催のイベントだからな。確か第三王女さまが館にいるらしい。病弱だから滅多に出ないらしいけど」
「そうですか……」
アルゥマが俺の言葉を肯定する。
アルゥマは目を伏せ、しかし直ぐにこちらを見る。
「ではこの懐かしい火の巫女の気。これはその王女からですか……」
「?」
意味がわからず首を傾げると、眷属と草羊達が真似をする。
真似っ子めー。と大人の草羊の首筋辺りをぽふぽふと触っていると、アルゥマが俺を見る。
「少年」
「ん?」
「少し、昔話をしてかまいませんか?」




