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彼はそれでもペットをもふるのをやめない  作者: みずお
第四章 夏イベ 〇〇編
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00.届かぬ声

 白い部屋。

 ベッドには一人の女性が寝かされている。


 烏羽色の長い髪に、羽二重のように色白で滑らかな肌。

 切れ目がちの目は静かに閉じられ、桜色の唇も開くことは無い。


 一つしかない引き戸が開く。

 静寂を守って開けられた扉から、一人の少女が入る。


 あと数年もすれば、ベッドの女性に似て美人に成長するであろう少女。

 彼女は青紫の髪紐を揺らして、女性の傍に寄る。


「おはよう。お母さん。来るのが遅くなってごめんね」


 彼女は、花の交換などの雑用を済ませると、ベッド近くの椅子に腰掛ける。


「先にお父さんの病室に行って来ました。お父さんも元気でしたよ」


 彼女は学校での話や、家での出来事を、目覚めぬ女性に語っていく。

 決して返事の来ない会話を、少女は続ける。


 そして話題は、今遊んでいるゲームに移る。

 ギルドメンバーや、お世話になっている人々の話をする。


「その子は明るくて、楽しい人なんです。一緒に居ると私も温かい気持ちになって……。そうそう、彼女にはお兄さんが居るんです」


 今年の二月から着け始めた髪紐に、そっと触れる。


「……私の勝手な予想なんですが、彼は多分『あの人』だと思います。お母さんには以前話しましたよね。バレンタインの時に私の落とし物を届けてくれた人の事」


 確証は無いのですけどね。と少女は眉尻を下げる。


「あの人は正直よく解りません。とても変な人というのと、でも同じくらいお人好しという事。私に解るのはそれぐらいです。だからという訳ではありませんが、私はあの人を少しでも知りたいです。……こう想うのは、可笑しいのでしょうか?」


 彼女の偽らざる気持ち。そもそも彼女は、嘘や隠し事が下手な性分である。


(この感情が何なのか、お母さんなら教えてくれたでしょうか?)


 目覚めない両親を想い、小さく溜息を吐く。

 日は既に傾き、夕日が部屋を染める。

 夕日に向けていた視線を母親に戻す。


「……また来ますね。お母さん」


 少女は無理に微笑もうとして失敗し、諦めると病室をあとにした。

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