24.彼らが臨むは地に伏し屍龍2
戦闘表現は苦手。
「急いでペアにッ!」
皆は俺の指示に従い、事前に決めた組にそれぞれ集まる。
ソラとジャン、ユーナとマリー、アリシアとランドルフ、そしてオカリナ、魔女、リューネに分かれる。
俺はそれを確認しながら、出発前にソラと話した内容を思い出す。
(さっきのアレが、剣に備わってる固有アビリティか)
◇
「リク。ちょっといいかな?」
部屋を出ようとした俺を、ソラが呼び止める。
「ん?」
「リクには話しておこうと思ってさ」
「話す?」
ソラが緑の剣を抜く。
すると風が優しく俺に触れ、離れていく。
「『風の精霊剣 エアリス』。察していると思うけど、限定武装だよ」
「…………」
「後はエアリスの固有スキルと限定武装の特徴と……リク?」
俺は思わず蹲る。
「何で言うかな……」
「急に頭を抱えてどうしたの?」
ソラが目を丸くする。
しかし俺はそれ所ではない。
「ソラが断言しなければ、『限定武装っぽいもの』で終わって、関わり合いにならずに済んだのに……」
「れっきとした限定武装だよ?」
「知ってるよッ!! 知っちゃったよッ!!」
正直知りたくなかった。
限定武装はゲームでもレア中のレア。それこそ戦闘プレイヤーなら喉から手が出るほどの逸品である。
情報を持っていると知られれば、多くのプレイヤーが血眼になって聞き出そうとするだろう。
そんなリスクを喜んで背負える程、俺は豪胆ではない。
「……剣の事は、人に話さない方がいいよ」
「うん。分かってるよ。エアリスの事は極一部にしか話してない」
「だったら、何で俺なんかに……」
ソラは柳眉を寄せ、真剣な表情になる。
「信頼できるから?」
「何で疑問系……」
俺の胡散臭そうな視線を受けて、しかしソラは朗らかに笑う。
「はっきりとした理由がある訳ではないけれど、リクには話しておきたかったんだ」
「えぇ……」
「でも強いて言うなら――」
ソラはいつもの笑顔で、でも目だけは真剣な光を湛えて言う。
「多分、俺とリクが似てるからだよ」
◇
(全然似てないけどなあー)
俺には彼のように、皆の先頭に立って引っ張る事は出来そうに無い。
気質というか、柄というか、そういった気概が俺には足りないのだと思う。
だからこそという訳ではないが、俺は自分が出来る事をするだけ。
「アタッカー組は左右に展開。盾組は正面。サポート組はその後方の息吹圏外ギリギリ」
事前の作戦会議のお陰か、俺の指示と同時に皆が理想的な動きをする。
腐龍が枯れた大樹のような豪腕で地面を薙ぐ。
「アリシア! 左!」
「大丈夫! 見えてるのですよッ!!」
アリシアは左側に盾を構える。
衝突の瞬間、アリシアは武技を発動させる。
「《護りの型》ッ!」
使用者のATKとSPDを少し下げる代わりに、DFFを上昇させるスキル。
発動のタイミングは完璧だったが、それでもアリシアのHPは一割弱削れる。
そしてHPバーの横に毒の状態異常を示す紫の泡が点灯する。
「《苦しみにある人に安らぎを。――快癒》」
オカリナの神聖魔法がノータイムでアリシアの状態異常を回復する。
反応からして事前に魔法を詠唱していたのだろう。いい判断だ。
隙が出来た腐龍にソラ組とユーナ組の攻撃が集中する。
敵のHPは減ってはいるが、劇的とはとても言えない。
(情報通りのタフさだな。ダメージを見るに、防御力が高いというよりもHPがかなり多い感じだな)
アタッカー達の追撃を嫌がるように、腐龍の体から汚れた包帯の外見をした物が飛び出す。
幾条ものそれはアタッカーを止める為、彼らを打ち弾こうとする。
こちらも情報通りだ。
アタッカー達は一撃を加えた後、見るよりも早く灰色の攻撃群から離脱する。
「やり難いわねっ!」
「仕方ないよ。焦らずにいこう!」
ソラの言う通りだ。
焦って事を仕損じれば、それだけ全滅の機会が増えてしまう。
「ん。……動きに慣れていこ」
情報を事前に集めたといっても、聞いただけと実際に見るのとでは、どうしても差異が生じる。
そして差異の積み重ねが、致命的な失敗に繋がる事だってある。
だからこそ、最初は慎重過ぎるぐらいに慣らしていくつもりだ。
臆病だなあと自分の考えを情けなく思い、この戦闘に参加している皆を想う。
(……まあ、失敗するよりはいいかな)
腐龍を正面に見据えながら、俺はステップを踏むようにしてリューネ達に近寄る。
「……首尾は?」
「困難」
俺の問いにリューネが首を横に振る。
リューネと魔女には、敵の弱体化をお願いしていたが、反応からして芳しくないらしい。
「私の『黒魔法』やリューさんの『怨舞』は、あまり有効的では無いみたい」
元素魔法の中で黒魔法は、弱体や吸収に優れた魔法である。
その黒魔法が通らないと言うことは、相性の問題かもしれない。
同じく通用しなかった怨舞は、『呪』属性のアビリティ。
感覚的な話だが、陰の気がする物には耐性があるのかもしれない。
どちらにせよ検証する時間は無い。即時り替えが大事である。
「ん。そっか……。それじゃあ、話した通り――」
「ええ。私は彼女の傍に。リューさんは『鼓舞』ね」
魔女は身の丈はある黒い大鎌を取り出し、リューネは帯状の仕込み手甲と足甲を淡い桃色の物に交換する。
そして魔女はオカリナの元に身を寄せ、リューネは最前線へと参加する。
腐龍は相変わらず、その場から動かない。
腐龍が再び腕を引き絞り、テーブルから物を落とすような乱雑さで、戦場を薙ぎ払う。
アリシアがその二度目の攻撃を受け止め、アタッカー組が攻撃を加える。
「くーちゃん《雷華》。あーたん《紅玉》」
白い雷球と紅い火球が現れる。
雷華が空間を穿ち、紅玉が大気を焼きながら腐龍に衝突する。
俺は朽葉達の魔法の待機時間を数えながら、敵の行動を頭の中で反芻する。
(肩が動く。腕を後ろに掲げる。力を溜める。薙ぎ払う)
俺一人ならこの段階でも充分だが、今回の様に他人に指示を出す状況では遅すぎる。
もっと早く。より詳細に分析しなければならない。
(ま、考えるのは嫌いじゃないからね)
それに自立型AIのペットを持っている俺だから出来る事でもある。
全体を見る為に、俺自身の近接戦闘が疎かになるが、そこは適材適所。サボリジャナイヨ。
腐龍が歯の朽ちた顎門を開き、口腔を晒す。
厄介な息吹を吐く気らしい。
先程はソラのお陰で助かったが、『アレ』は何回も撃てるものではないらしい。
ま、うちには優秀なメイン盾がいるから心配していないが。
「《挑発の咆哮》! 《鉄壁》」
アリシアが移動して、誰も居ない所に屍龍の首を誘導する。
粘性のある霧、とでも言えばいいのだろうか。
毒性を孕んだ紫の霧にアリシアだけが飲み込まれる。
「――ッ!!」
ガリガリガリッ!! という幻聴が聞こえそうな勢いでアリシアのHPが削れていく。
盾役の役目とはいえ、見ているこっちの背筋が凍りそうな状況である。
だから俺は盾役のプレイヤーをリスペクトしているし、力になりたいとも思っている。
アリシアの事も純粋に尊敬している。
調子に乗りそうなので、アリシアに言う気は無いが。
オカリナが聖女の杖を軽く掲げ、神聖魔法を唱える。
「《降りしは、天からの恵み。――癒しの光》」
回復魔法がアリシアの傷を癒すが、その間にもアリシアのHPが減っていく。
足りない事をオカリナも分かっていたのか、杖のお尻を地面に付けて追加詠唱をする。
「《降り注ぎしは、天上の祝福。――癒しの光条》」
オカリナの足元に、白い魔法陣が展開する。
広域魔法が、アリシアのみならず俺達の傷も塞ぐ。
「《苦しみにある人に安らぎを――快癒》」
発動が早過ぎる状態回復魔法。
息吹を吐き終わった腐龍が、虚の双眸でオカリナを睨む。
「えっ」
過剰回復によるヘイト移動。
腐龍が振り向くと思っていなかったオカリナが、驚きで身を竦める。
腐龍が威嚇するように地鳴りのような呻りを漏らす。
腐龍が行動に移る瞬間に割り込むように、霧の残滓からアリシアが勢いよく跳び出してくる。
彼女は白いオーラを発するフレイルを強く握りしめる。
「《逆撫》ッ!!」
腐龍の顔面に、凶悪な鈍器を振り下ろす。
威力以上に派手なエフェクトを撒き散らす。
危機感を煽る一撃に、腐龍がアリシアに頭突きをする。
「《剛体》ッ!」
アリシアが抱え込むようにして盾で受け止める。
鎧に包まれたアリシアの足が乱暴に地面を耕す。
引き摺られながらも、それでも彼女は腐龍を止めた。
「流石よアリシアッ!! 《垂苛》ッ!!」
ユーナが彗星の如く腐龍の頭に降る。
顎が外れそうな衝撃に、腐龍の体が震える。
「《イクシード・バスター》」
オカリナを助けるために風を展開していたソラが、風を収めて二刀流武技で腐龍を切り刻む。
ラー様やジャン達の追撃も加わり、腐龍のHPを削っていく。
「オカリナはポーションでMP回復。マリーさんはアリシアの回復をっ」
「分かりましたッ! 《生命の泉》」
《逆撫》は使用者のヘイトを高める武技。
オカリナ自体のヘイトは溜まったままなので、回復は念のためオカリナではなくマリーに頼む。
「無いよりはマシかしらね。――《魔属付与【黒】》」
フレイルに闇の加護が宿る。
アリシアはそれを振りかぶると、整った眉をキリッとさせる。
「――お返しです。《逆襲》ッ!!」
白と黒のオーラが混じり合うフレイル。
アリシアの盾型である『逆襲』タイプ。
その名前の由来となった反撃武技を、アリシアはアッパーのように弧を描いて顎に叩き込む。
腹の底に響く重音量と共に、腐龍の体が後方に飛ぶ。
僅かな時間であったが、アリシアの一撃で丘ほどもある腐龍が確かに浮いた。
武器を振り抜いた姿勢のまま、アリシアが口元を緩め、頬を紅潮させている。
一目で楽しんでいるのが分かる。
そしてそれは、彼女だけではない。
危険に晒されて尚、敵に挑む俺達を冒険者と呼ぶのは、相応しいのかもしれない。
「さあ、まだまだこれからなのですよッ!!」




