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彼はそれでもペットをもふるのをやめない  作者: みずお
第三章 夏イベ 腐龍編
79/88

24.彼らが臨むは地に伏し屍龍2

戦闘表現は苦手。

「急いでペアにッ!」


 皆は俺の指示に従い、事前に決めた組にそれぞれ集まる。

 ソラとジャン、ユーナとマリー、アリシアとランドルフ、そしてオカリナ、魔女、リューネに分かれる。

 俺はそれを確認しながら、出発前にソラと話した内容を思い出す。


(さっきのアレが、剣に備わってる固有アビリティか)


  ◇


「リク。ちょっといいかな?」


 部屋を出ようとした俺を、ソラが呼び止める。


「ん?」

「リクには話しておこうと思ってさ」

「話す?」


 ソラが緑の剣を抜く。

 すると風が優しく俺に触れ、離れていく。


「『風の精霊剣 エアリス』。察していると思うけど、限定武装だよ」

「…………」

「後はエアリスの固有スキルと限定武装の特徴と……リク?」


 俺は思わず蹲る。


「何で言うかな……」

「急に頭を抱えてどうしたの?」


 ソラが目を丸くする。

 しかし俺はそれ所ではない。


「ソラが断言しなければ、『限定武装っぽいもの』で終わって、関わり合いにならずに済んだのに……」

「れっきとした限定武装だよ?」

「知ってるよッ!! 知っちゃったよッ!!」


 正直知りたくなかった。

 限定武装はゲームでもレア中のレア。それこそ戦闘プレイヤーなら喉から手が出るほどの逸品である。

 情報を持っていると知られれば、多くのプレイヤーが血眼になって聞き出そうとするだろう。


 そんなリスクを喜んで背負える程、俺は豪胆ではない。


「……剣の事は、人に話さない方がいいよ」

「うん。分かってるよ。エアリスの事は極一部にしか話してない」

「だったら、何で俺なんかに……」


 ソラは柳眉を寄せ、真剣な表情になる。


「信頼できるから?」

「何で疑問系……」


 俺の胡散臭そうな視線を受けて、しかしソラは朗らかに笑う。


「はっきりとした理由がある訳ではないけれど、リクには話しておきたかったんだ」

「えぇ……」

「でも強いて言うなら――」


 ソラはいつもの笑顔で、でも目だけは真剣な光を湛えて言う。


「多分、俺とリクが似てるからだよ」


  ◇


(全然似てないけどなあー)


 俺には彼のように、皆の先頭に立って引っ張る事は出来そうに無い。

 気質というか、柄というか、そういった気概が俺には足りないのだと思う。


 だからこそという訳ではないが、俺は自分が出来る事をするだけ。


「アタッカー組は左右に展開。盾組は正面。サポート組はその後方の息吹ブレス圏外ギリギリ」


 事前の作戦会議のお陰か、俺の指示と同時に皆が理想的な動きをする。

 腐龍が枯れた大樹のような豪腕で地面を薙ぐ。


「アリシア! 左!」

「大丈夫! 見えてるのですよッ!!」


 アリシアは左側に盾を構える。

 衝突の瞬間、アリシアは武技を発動させる。


「《護りの型ディフェンス・スタンス》ッ!」


 使用者のATKとSPDを少し下げる代わりに、DFFを上昇させるスキル。

 発動のタイミングは完璧だったが、それでもアリシアのHPは一割弱削れる。

 そしてHPバーの横に毒の状態異常を示す紫の泡が点灯する。


「《苦しみにある人に安らぎを。――快癒リフレッシュ》」


 オカリナの神聖魔法がノータイムでアリシアの状態異常を回復する。

 反応からして事前に魔法を詠唱していたのだろう。いい判断だ。


 隙が出来た腐龍にソラ組とユーナ組の攻撃が集中する。

 敵のHPは減ってはいるが、劇的とはとても言えない。


(情報通りのタフさだな。ダメージを見るに、防御力が高いというよりもHPがかなり多い感じだな)


 アタッカー達の追撃を嫌がるように、腐龍の体から汚れた包帯の外見をした物が飛び出す。

 幾条ものそれはアタッカーを止める為、彼らを打ち弾こうとする。

 こちらも情報通りだ。

 アタッカー達は一撃を加えた後、見るよりも早く灰色の攻撃群から離脱する。


「やり難いわねっ!」

「仕方ないよ。焦らずにいこう!」


 ソラの言う通りだ。

 焦って事を仕損じれば、それだけ全滅の機会が増えてしまう。


「ん。……動きに慣れていこ」


 情報を事前に集めたといっても、聞いただけと実際に見るのとでは、どうしても差異が生じる。

 そして差異の積み重ねが、致命的な失敗に繋がる事だってある。

 だからこそ、最初は慎重過ぎるぐらいに慣らしていくつもりだ。


 臆病だなあと自分の考えを情けなく思い、この戦闘に参加している皆を想う。


(……まあ、失敗するよりはいいかな)


 腐龍を正面に見据えながら、俺はステップを踏むようにしてリューネ達に近寄る。


「……首尾は?」

「困難」


 俺の問いにリューネが首を横に振る。

 リューネと魔女には、敵の弱体化をお願いしていたが、反応からして芳しくないらしい。


「私の『黒魔法』やリューさんの『怨舞えんぶ』は、あまり有効的では無いみたい」


 元素魔法の中で黒魔法は、弱体や吸収に優れた魔法である。

 その黒魔法が通らないと言うことは、相性の問題かもしれない。


 同じく通用しなかった怨舞は、『呪』属性のアビリティ。

 感覚的な話だが、陰の気がする物には耐性があるのかもしれない。

 どちらにせよ検証する時間は無い。即時り替えが大事である。


「ん。そっか……。それじゃあ、話した通り――」

「ええ。私は彼女の傍に。リューさんは『鼓舞』ね」


 魔女は身の丈はある黒い大鎌を取り出し、リューネは帯状の仕込み手甲と足甲を淡い桃色の物に交換する。

 そして魔女はオカリナの元に身を寄せ、リューネは最前線へと参加する。


 腐龍は相変わらず、その場から動かない。

 腐龍が再び腕を引き絞り、テーブルから物を落とすような乱雑さで、戦場を薙ぎ払う。

 アリシアがその二度目の攻撃を受け止め、アタッカー組が攻撃を加える。


「くーちゃん《雷華》。あーたん《紅玉》」


 白い雷球と紅い火球が現れる。

 雷華が空間を穿ち、紅玉が大気を焼きながら腐龍に衝突する。


 俺は朽葉達の魔法の待機時間クールタイムを数えながら、敵の行動を頭の中で反芻する。


(肩が動く。腕を後ろに掲げる。力を溜める。薙ぎ払う)


 俺一人ならこの段階でも充分だが、今回の様に他人に指示を出す状況では遅すぎる。

 もっと早く。より詳細に分析しなければならない。


(ま、考えるのは嫌いじゃないからね)


 それに自立型AIのペットを持っている俺だから出来る事でもある。

 全体を見る為に、俺自身の近接戦闘が疎かになるが、そこは適材適所。サボリジャナイヨ。


 腐龍が歯の朽ちた顎門を開き、口腔を晒す。

 厄介な息吹を吐く気らしい。

 先程はソラのお陰で助かったが、『アレ』は何回も撃てるものではないらしい。


 ま、うちには優秀なメイン盾がいるから心配していないが。


「《挑発の咆哮シャウト》! 《鉄壁》」


 アリシアが移動して、誰も居ない所に屍龍の首を誘導する。

 粘性のある霧、とでも言えばいいのだろうか。

 毒性を孕んだ紫の霧にアリシアだけが飲み込まれる。


「――ッ!!」


 ガリガリガリッ!! という幻聴が聞こえそうな勢いでアリシアのHPが削れていく。

 盾役の役目とはいえ、見ているこっちの背筋が凍りそうな状況である。


 だから俺は盾役のプレイヤーをリスペクトしているし、力になりたいとも思っている。

 アリシアの事も純粋に尊敬している。

 調子に乗りそうなので、アリシアに言う気は無いが。


 オカリナが聖女の杖を軽く掲げ、神聖魔法を唱える。


「《降りしは、天からの恵み。――癒しの光》」


 回復魔法がアリシアの傷を癒すが、その間にもアリシアのHPが減っていく。

 足りない事をオカリナも分かっていたのか、杖のお尻を地面に付けて追加詠唱をする。


「《降り注ぎしは、天上の祝福。――癒しの光条》」


 オカリナの足元に、白い魔法陣が展開する。

 広域魔法が、アリシアのみならず俺達の傷も塞ぐ。


「《苦しみにある人に安らぎを――快癒》」


 発動が早過ぎる状態回復魔法。

 息吹を吐き終わった腐龍が、虚の双眸でオカリナを睨む。


「えっ」


 過剰回復によるヘイト移動。

 腐龍が振り向くと思っていなかったオカリナが、驚きで身を竦める。

 腐龍が威嚇するように地鳴りのような呻りを漏らす。


 腐龍が行動に移る瞬間に割り込むように、霧の残滓からアリシアが勢いよく跳び出してくる。

 彼女は白いオーラを発するフレイルを強く握りしめる。


「《逆撫ヒート》ッ!!」


 腐龍の顔面に、凶悪な鈍器を振り下ろす。

 威力以上に派手なエフェクトを撒き散らす。

 危機感を煽る一撃に、腐龍がアリシアに頭突きをする。


「《剛体ディ・クリティカ》ッ!」


 アリシアが抱え込むようにして盾で受け止める。

 鎧に包まれたアリシアの足が乱暴に地面を耕す。

 引き摺られながらも、それでも彼女は腐龍を止めた。


「流石よアリシアッ!! 《垂苛》ッ!!」


 ユーナが彗星の如く腐龍の頭に降る。

 顎が外れそうな衝撃に、腐龍の体が震える。


「《イクシード・バスター》」


 オカリナを助けるために風を展開していたソラが、風を収めて二刀流武技で腐龍を切り刻む。

 ラー様やジャン達の追撃も加わり、腐龍のHPを削っていく。


「オカリナはポーションでMP回復。マリーさんはアリシアの回復をっ」

「分かりましたッ! 《生命の泉ライフウォーター》」


 《逆撫》は使用者のヘイトを高める武技。

 オカリナ自体のヘイトは溜まったままなので、回復は念のためオカリナではなくマリーに頼む。


「無いよりはマシかしらね。――《魔属付与【黒】ダークウェポン》」


 フレイルに闇の加護が宿る。

 アリシアはそれを振りかぶると、整った眉をキリッとさせる。


「――お返しです。《逆襲アベンジ》ッ!!」


 白と黒のオーラが混じり合うフレイル。

 アリシアの盾型である『逆襲アベンジャー』タイプ。

 その名前の由来となった反撃武技を、アリシアはアッパーのように弧を描いて顎に叩き込む。


 腹の底に響く重音量と共に、腐龍の体が後方に飛ぶ。

 僅かな時間であったが、アリシアの一撃で丘ほどもある腐龍が確かに浮いた・・・


 武器を振り抜いた姿勢のまま、アリシアが口元を緩め、頬を紅潮させている。

 一目で楽しんでいるのが分かる。


 そしてそれは、彼女だけではない。

 危険に晒されて尚、敵に挑む俺達を冒険者と呼ぶのは、相応しいのかもしれない。


「さあ、まだまだこれからなのですよッ!!」

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