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彼はそれでもペットをもふるのをやめない  作者: みずお
第三章 夏イベ 腐龍編
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22.彼が動くは誰が為か

 今月中には投稿できましたね。次は来月ですね。

 一度夕食で落ち、用事を済ませた俺は再度ログインする。


 ラーさんが自作した薬品作業台。そこに目当ての人物はいた。

 椅子にもたれ掛かる彼女を見て、俺は眉を寄せる。


 暴走した新人職人の弱みを握って帰ってきて、上機嫌だと思っていたが違うようだ。

 朽葉達と一緒になって首を傾げながら、彼女に近付く。


「……お疲れみたいだけど、どうしたの? 確か初心者職人を注意しに行っていたんだよね?」


 突っ伏すとまではいかないが、緩慢な動きでテーブルに体を預けた彼女はこちらを見る。


「……そうね。藪を突いたら蛇じゃなくて鬼が出た、と言ったらいいかしらね……」

「ん?」


 意味が分からない。


「……何でもないわ。忘れて頂戴。……そちらは随分遅かったけど、魔法書は手に入ったのかしら?」

「んー。半々?」

「意味が分からないわ……」


 今度は魔女が困惑した顔をする。


「ま、それはいいや。実は頼みたいことがあるんだ」

「……嫌な予感がするわ……」

「気のせい。気のせい。それで内容なんだけど――」


 俺はお願いを口にした。

 魔女さんは俺の言葉を聞くたびに嫌そうな雰囲気を濃くしていく。

 そして全てのお願いを言い終わった俺に、彼女は短く一言。


「嫌よ」

「だろうね」


 予想通りだった。


「それは明らかにチームでの役割以上の負担じゃないの。割りに合わない仕事は御免よ?」

「それは大丈夫。これは俺からの個人的な依頼って事にしてくれればいい。報酬はこれ」



 寝ぼけ眼を擦る朽葉と浅緋を片手に抱き、もう片方の手でインベントリから白い魔法書を取り出す。

 金糸を使った立派な装丁のそれを見た魔女が更に頭を抱える。


「……私、自分を善人と言うつもりは無いけれど、それでも貴方を見ていると自分がマシに思えてくるわ……」

「いやいや。さすがに俺でも魔女さんには負けるよ」


 フードの向こうから睨まれた。

 俺は誤魔化すように本をテーブルに置き、眷属達を抱き直す。


「最低十数万フィル。今なら期間限定百万フィル! お得だねっ!」

「……間違いじゃない分、余計にいらっとくるわね……」


 彼女は深い溜息をつくと、本の表紙を白い指でこつこつと叩く。


「あの子にあげる約束なんじゃなかったの?」

「んー……。気が変わったから、かな」


 あまり理由は話したくない。


「……事情を話しなさいな」

「……もし断ったら?」

「依頼の件は無しよ」

「ですよねー」


 俺は仕方なく今日の出来事を簡潔に話した。

 話を聞き終わった彼女は、より一層頭を抱える。


「……つまり貴方は、自分のお人好しの為に、また私を利用するつもりなのね」

「人聞きが悪いなあ。ちゃんと依頼報酬も準備してるじゃないか」

「これは、貴方一人の物ではないでしょう?」


 魔女が一際強く指で本を叩く。


「いやいや。別にドロップしたらオカリナに渡すって約束した訳じゃないからねー。本ドロップしたらいいねー。って集まって狩りしただけだし」

「…………」

 ローブで見えないが、彼女が汚物を見るような目をしているのは何となく分かった。

 仕方ないので本音も付け加える。

「……それにさ。今のオカリナにこれ渡しても、多分意味無いからね」

「……それは、…………そうね。私が同じ立場でも渡さないでしょうね」


 蘇生の魔法書は、オカリナにとって力にも重荷にも成り得る。

 魔女はこつこつと本を叩きながら、暫し逡巡すると、本を俺に返す。


「依頼の件は引き受けるわ。これは貴方が持っておきなさい」

「ん。いいの?」

「依頼に掛かった費用に応じて報酬を戴く事にするわ」

「んー。でも俺これ以外で払える目処ないよ? 今渡しといても変わらないんじゃ……」


 魔女は溜息をつく。


「あのねえ……。もし私が本だけ受け取って仕事をしなかったらどうするの? もしくはいい加減に仕事をする可能性だってあるでしょう?」

「……それ、逆も言えるよね」

「あら? 私相手に踏み倒せるとでも?」


 彼女が妖しく笑う。

 思わず頬が引き攣る。

 俺の表情を見て満足し、彼女は俺に忠告をする。


「物の取引ならともかく、情報なんて実体の無いものを扱うんだから、もう少し警戒しなさいな」

「それはほら。信頼? みたいな奴で」

「『信頼』って、これほど貴方に似合わない言葉は無いわね……」

「自覚があるから曖昧に言ったんだけどね。それじゃあ、まだお願いする人達がいるから行くね」


 俺はそう返すと扉に向かう。

 取っ手に指を掛けた所で、魔女が思い出したように訊ねてきた。


「貴方が、彼女の為にそこまでする理由を、聞いてもいいかしら?」

「んー。実は俺が真性のロリコンである可能性が微レ存――」

「シスコンでロリコンだなんて、通報するしかないわね」

「止めてください。死んでしまいます」


 社会的に。


「あと勝手にシスコンも増やさないでくれるかな。誤解されたらどうするのさ」

「……誤解?」


 魔女さんが笑えないギャグを聞いたような反応を示す。

 その反応を理解できないまま、俺は扉を開けて魔女に振り返る。


「それじゃあ、後はお願い」

「ええ。任せておきなさい」


 怖いくらいに頼りになるその言葉に、俺は微かに笑いながら部屋を後にした。



  ◆



「つーわけでお願いっ」

「お願いってあんたねえ……」


 俺の話を聞いたユーナが困ったように俺を見る。

 ソラはおとがいに指を当てて考えを纏めている。

 今この場にはソラとユーナしかいない。


「私は別にいいわよ。殴り合いは嫌いじゃないし」

「大好きの間違いじゃ……」

「き・ら・い・じゃ・な・い・し」

「あ、はい」


 素直に頷く。


「私が言いたいのはね。この前の会議ではあんたは積極的な中央進出に否定的だったじゃないの。ううん、それどころか他のチームが倒した後に乗り込むって言い出したのはリクじゃない。それなのにどうしてそんなにやる気になってるのよ?」

「こうみえて男の子ですから。こう強敵との熱い戦い? みたいなやつを――」

「あんたはそんなキャラじゃないでしょう? 縁側でのんびり座ってる方が似合ってるわよ」


 ばっさり断言された。

 そんなお爺ちゃんみたいな印象を抱かれていた事に、若干のショックを受ける。


「ソラッ。さっきから黙ってるけどあんたはどうなのよ?」

「……ソラ。あんたの嫁さんが俺を枯れた老人と言った件について」

「だだだだ、誰が誰の嫁ですって――ッ!?」

「あ、起きるから静かにね」


 ちらりとソファでくっ付いて寝ている二匹を見る。

 ユーナもそれを確認し、我慢してくれたようだ。

 頬を染め、わなわなと口を震わせて、俺を前後に揺さぶる程度に収めてくれた。

 見え隠れする八重歯も相まって勝気な猫みたいだなーと揺れる頭で思う。

 可愛い方に分類されるユーナの顔が近くにあっても動揺しないのは、俺のタイプじゃないからか。それともソラという旦那がいるからか。


「うーん。そうだね。……って二人とも何してるの?」


 思考の海から帰って来たソラが俺達を見て驚く。

 俺達の会話は聞いていなかったらしい。


「な、何でも無いわよッ!!」

「そう? でもゆーちゃん顔赤いよ?」

「あ、赤くないわよっ! ばかっ!!」


 そっか。と言ってソラが納得する。

 納得するんだ……。と俺が見ていると、ソラがこちらに向いて聞いてくる。


「一つだけ聞いていいかな?」

「ん。どうぞ」

「意味があるんだよね?」

「……ソラやユーナには何の意味も無いかもね」

「つまり誰か・・には意味のある事なんだね」


 ソラは笑顔でそう言うとあっさり頷いた。


「うん。いいよ。他の皆には俺から話しておくよ」

「頼んだ俺が言うのもおかしいけど、安請け合いは控えた方が……。俺の気まぐれの可能性もあるんだし」

「それならそれでいいさ。だってリクが我儘言ってくれたのなんて初めてでしょ? 何かこう、頼られてる感じがして嬉しいよ」


 ソラの笑顔が眩しいのは、顔の作りが良いだけではないようだ。

 俺は溜息をつくと、ユーナに言う。


「……いつもこんな感じ?」

「……ええ、大体ね」

「そっか。苦労してるね」

「……少し、ね」


 ユーナも眉間を押さえながら、溜息をつく。

 彼女のこの様子だと、ソラが誘蛾灯のように女性を惹きつけているのは想像に難くない。

 真のイケメンは内面もイケメンなんだな。と感想を抱きつつコーヒーに口を付ける。

 ユーナがぽつりと零す。


「……でも、そんな所も嫌いじゃないのよね」

「……さいですか……」


 ブラックのはずなのに、甘く感じるコーヒーを飲みながら、俺は投げやりに答えた。

 寝ている二匹が羨ましく思えた。



  ◆



 甘い空間を出た俺は、島の中央、未開の地の入り口に向かう。


 魔女からのメールで、腐龍のデータはある程度揃った。

 あとは実際に対面して、齟齬や動きを知るのがいいだろう。


(そうなると、朽葉達は誰かに預けた方がいいかな)


 今から行うのは情報収集の為の勝ちの無い戦いだ。

 自分の自殺行為に大事な眷族を巻き込むのは気が引ける。


(コハネ辺りに預けておくかな)


 自分達のチームに預けようとも思ったが、あの甘い空間に戻るのは気が引けた。

 コハネ達のチームの本拠地に行けば、コハネが居なくても誰かしらいるだろう。

 それにコハネにも会っておきたい。


 そう考え直し、進路を変更する。

 現在地は市場だが、深夜であるこの時間はさすがに人が疎らの様だ。

 特に警戒せずに向きを変えようとする。


 しかし、それが不味かったようだ。

 後ろから来たプレイヤーとぶつかってしまった。


「きゃ」

「すみませんっ! ……ハル?」

「あー。リクだ~」


 和む笑顔を浮かべるハルがいた。

 ハルは青いローブを着ているがフードは外しており、緩いウェーブの掛かった栗色の髪が外気と踊っている。

 そして俺は、彼女の胸元で光る緋色のネックレスに気付く。


「ハルッ!? フラフラしたら迷惑かけて危ないよッ!? ……ってリク?」


 ハルの後ろから金属鎧を着たユキトが遅れてやって来る。

 こちらは若干赤みがかった片手剣を帯びている。


「ユッキー! リクだから大丈夫だよ~」

「あのねハル。それは結果論であって、知り合いじゃなかったら大変な事になってたからね。リクも大丈夫?」

「左腕折れたかも」

「なら大丈夫だね」


 ユキトが俺の言葉を華麗にスルーする。

 ハルが俺の腕の中を見る。


「良く寝てるねー」

「ん。抱いてみる?」


 頷く彼女に二匹を渡す。

 嬉しそうに抱き締める彼女を見て、そのままハル達に預けるのもアリかなと考える。

 ユキトが俺に寄って来て、ハルに聞こえないように小声で言う。。


「リク。ありがとう」

「ん? いきなりどしたん?」


 俺がユキトに振り向くと、彼はハルを見たまま答える。


「ハルがさ。ギルドに入って以来、ギルドの事を何度も僕に教えてくれるんだ。それはもう嬉しそうな笑顔でさ」

「…………」

「だからありがとう、かな?」

「……俺がハルに頼んだのは手伝いだけで、ギルド加入はハル自身が決めた事だよ。それにユキト達を手助けしたのも、俺自身の都合だよ」


 すると、ユキトが思わずといった感じで笑みを作る。


「そうだね。……でも、プレイヤーの募集とダンジョン踏破。どちらが大変かは、さすがの僕でも分かるよ?」

「……好きに言えよ。もう……」


 俺が拗ねるように折れると、ユキトがさも可笑しそうに吹き出す。

 そして宥めるように俺の肩を叩く。


 そんな俺達を、ハルが不思議そうに見ている。


 俺にメールが届く。

 腹の立つユキトの慰めを振り払い、俺はメールを確認する。


「…………ッ」

「リク?」


 俺の雰囲気の変化にユキトが気付く。


「急用が出来た。朽葉達を預かってて貰えるかな?」

「それはいいけど、急用って?」


 俺は駆け出した足を止め、ユキトに答える。


「いい機会だから釘を刺しとこー、ってね」



  ◆



 朝焼けの森。生物はまだ眠っているのか、鳥の囀りは聞こえない。

 俺は工場跡地の入り口でそいつが来るのを待っていた。

 奴は昼間と違い、今回は一人だった。

 そいつが壊れかけの門を潜る前に、俺は近くの木陰から声を掛ける。


「やっ」

「ッ!? 何だ昼間の調教師じゃねえかよ。脅かしやがって……。そんな暗がりで何やってやがる?」


 昨日の昼間に出会ったガラの悪い男が、俺を見てにやにやと薄ら笑いを浮かべる。

 俺はメールの内容を思い返しながら、彼の名を呼ぶ。


「何かをしようとしていたのは、貴方の方じゃないんですか、ギールさん?」

「テメェどうしてッ……!?」


 彼がとっさに胸から下げた護符型のペンダントに触れる。

 きっとその護符が、隠蔽効果を持つアクセサリーなのだろう。


 俺達、正確には工場跡地で朝早くから、黒騎士と戦っている彼女に気付かれないように、準備したのだろう。

 隠蔽アビリティはフレンドの位置情報をマップから消す効果もあるのだから。


「……何しに来たんですか?」

「ふんっ! あの役立たずを止めに来たんだよッ!! 知り合いが無駄な努力をしていたら止めるのが親切ってやつだろう?」

「……嘘が下手ですね。貴方はただ、オカリナが一人前になって、貴方の元を離れるのが嫌なだけでしょう?」


 彼の顔が不快に歪む。

 ギールは足音をさせて俺に近付くと、そのまま胸倉を掴んでくる。


「ああンッ!? お前が俺達の何を知ってんだよッ!? 調教師風情が、言ってみろよ・・・・・・ッ!?」


 俺は死んだ瞳でそれを確かに聞いた。

 言ったのはそっちだからな。後悔するなよ・・・・・・


「キャラクター名ギール。純粋な前衛職で海賊刀などの曲刀を好む。性格は好戦的で直情的。以前は『竜威風ドラゴンウィンド』に所属していたが、自分勝手な命令無視を幾度も重ね、除名。同時期に除名となった初心者と共に臨時のパーティを組むも、上手くいかない日々を過ごす。にも関わらず、何故かパーティを変更しようとはしない」

「なッ――!?」


 得体の知れないものを触ったかのように、彼の手が俺から離れる。

 しかし、俺は止めない。


「除名で失った自尊心を、初心者に物を教えるという優越感で満たすのは楽しかったか? 誰か他の人がパーティに入って、彼女を捕られるのが嫌だったか? 下に見ていたはずの彼女が、俺達のパーティで活躍してるのを聞いて怖くなったか?」

「てめえ――ッ!!」


 彼が顔を赤くして再び掴みかかってくる。

 俺はされるがままになりながら、笑顔で魔法書を取り出す。


「はっきり言って迷惑なんです。チームメイトの俺達にも被害があるんですよ? これやるんでさっさと何処かに行ってください。それがあれば貴方のチームメイトにも、此処を訪れていた面目は立つでしょう?」


 手打ち金という訳ではないが、酷く脆い希望的観測でそれを渡す。

 彼は驚いた顔をしていたが、渡された物の正体が分かると、せせら笑う。


「はんッ!! 偉そうな事を言ってた割りに、お前も俺と同類じゃねえかッ!? これをあいつに渡してないのがその証拠だぜッ!!」

「ええ。そうですね」


 俺の即答に彼が白む。

 どんなに言い繕おうとも、俺が一度彼女を信じなかったのは紛れも無い真実である。


 きっとソラや他の皆なら、彼女を信じて魔法書を渡しただろう。

 そして彼女がきちんと扱えるように支えるだろうし、ギールかれのような人間に立ち向かえるようになるまで守っただろう。


 でも俺はそうしなかった。いや出来なかった。

 今も昔も、俺に出来るのは、こんなやり方だけなのだから。


「……俺達は明日、いやもう今日か。今日のお昼前に腐龍に挑戦します。そして貴方の知っての通り、腐龍は足手纏いを連れて勝てるような相手ではありません」


 それは他のチームが手をこまねいている事態で一目瞭然のはずだ。

 彼もそれが分かっているらしく、そこに何の意味があるのかといった顔をしている。


「失敗する可能性が高いです。もしその時はその本でも渡して彼女を慰めればいい。ただ、もし成功したなら、彼女の事を少しでも認めてやれよ」

「…………」

「初心者に一度でも教えたんだったら、せめて最後まできちんと面倒みろよ」

「――ッ!?」


 俺が先程まで放ったどの暴言の時よりも、最後の台詞を聞いた時。その時が一番痛々しい顔をしていた。

 そして彼はその顔をとっさに隠し、俺の言葉から逃げるようにして立ち去っていった。

 俺が渡した本はきちんと持って行ってくれた様だ。

 彼が完全に立ち去ったのを確認して、俺は倒れこむようにしてその場に座る。


「……疲れた」


 人の心に踏み込むような行為は、とても疲れる。

 しかし、まだ終わりではない。気を引き締めなければ。



  ◆



 それから数十分後。

 周囲は大分明るくなり、鳥も元気に囀っている。

 狩りを終えたアリシアとオカリナが工場跡地から出てくる。


「あれ? お兄さん何してるです? ストーカーですか? GMコールしていいですか?」

「違うから止めて欲しいなー……」


 アリシアの言葉に俺は苦笑する。


「チームのこれからの予定が変わったから、君達に伝えに来たんだよ」

「メールでよくないですか?」

「ついでに俺のスキル上げだね。普段はうちの子達に頼りっぱなしだからね」

「あ、あのっ。伝言って何ですか?」


 オカリナがおずおずと俺に聞いてくる。

 別れた時よりもずっといい顔をしている。アリシアには感謝しないと。

 俺は伝えるべき事を口にする。


「今日のお昼。ドラゴン討伐に行くから」

「はい?」

「えっと、それは……?」


 理解していない彼女達に、俺は爽やかな顔をする。


「ドラゴンゾンビ退治に行くよっ。楽しみだねっ!」

「ちょっ! 待ってくださいっ! いきなりドラゴンゾンビだなんて唐突過ぎて……」


 アリシアは混乱している。

 そんな彼女を無視して、俺はオカリナを見る。


「凄く難しいと思う。特にオカちゃんの負担は大きい。今までのように初心者だからって大目にみてた部分も遠慮なく要求すると思う。だから無理強いはしないけど……。――どうする?」


 俺は静かにオカリナを見る。

 彼女は何かに気付いたようにはっと目を見開く。


「い、今の私がどこまで出来るか分かりません。皆さんにこれまで以上のご迷惑を掛ける、と思います」


 彼女はそこで一旦深呼吸を挟む。

 そして前髪の隙間から俺を力強く見上げる。


「……それでもっ。私は挑戦してみたい、です――ッ!!」

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