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彼はそれでもペットをもふるのをやめない  作者: みずお
第三章 夏イベ 腐龍編
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19.彼は廃工場を訪れる

 イベント五日目。

 中盤に入った事もあり、イベントにも結構慣れてきた。

 最初は広いと思っていた孤島も今では思った程ではない。

 しかし島の中央部だけは難易度が高く、モンスターのレベルや必要採取レベルが厳しく、探索は困難を極めている。

 それでもイベント参加者で少しずつ切り崩していっているので、近いうちに新しい発見があるだろう。



 俺達――アリシア、オカリナ、リューネ、そして俺の四人は工場跡地へと向かっている。

 工場跡地。正式名称をイグニア魔石精錬工場跡地。

 工場ではサルンの旧坑道(昔はもちろん稼動していた)や他の採掘場で採れた鉱石の精錬を行っていた。

 不純物を取り除いた状態の方が、より多くの物資を輸送できて効率的だったからと聞いた。

 そしてここも鉱物の産出がストップしたのに連動して稼動を停止している。



 工場には廃棄された騎士型の魔動鎧がうろついており、その中でも黒い魔動鎧――通称『黒騎士』が美味しい・・・・相手と評判になっている。

 イベント用の精錬された鉱石や磨かれた宝石を落とす他に、極稀に魔法書――読むことで魔法を覚える魔道具をドロップするらしい。

 《『リザレクション』の書》。

 蘇生魔法の魔法書。これが今回俺達が狙っている魔法書である。



「ほら急ぐのですよッ!」

「駆け足要求っ!」

 アリシアとリューネが俺を急かす。

「遅れたのは本当に悪いと思ってるから、もう少しペース落としてくれ」

 俺の腕が千切れる。

「ど、どうして遅れたの、ですか?……な、何かあったの、ですか?」

 オカリナが浅緋あさひを腕に抱いて俺に訊ねる。

「猫耳メイドの野生の妹と接敵エンカした」

 アリシアが俺の台詞に溜息をつく。

「もっとましな嘘はつけないのですか?」

「……本当なんだけどなー」

 うちの賢妹様はやるときはやるお方なのだ。

 にゃーにゃー言いながら迫ってくる妹の恐ろしさを分かってない。

(あんなに可愛い生物が存在するとは何て恐ろしい……!)

 頭を満足するまで撫でていたら遅くなったのも仕方ないというものだ。

 寧ろその誘惑を振り切って此処まで来た俺を褒めて欲しいくらいだ。遅刻したけど。

「真面目な顔して頷いてますけどこれ絶対ロクな事考えてませんよ……」

「処置不能」

「あ、あはは……」



 荒れ果てた工場の奥に奴はいた。

 騎士甲冑を模して作られた黒の魔動鎧。

 ここに来るまでに見てきた純銀の魔動鎧よりも一回り小さいそれは、しかし他とは決定的に異なる点があった。

 本体と同じ漆黒に染まった両手剣。

 身の丈ほどもあるそれを掲げるようにして構えながら、閉鎖された工場を今でも護り続けている。

「……一体、ですかね……?」

「周りには他の姿は見えないです」

「索敵希望」

「やってるよー」

 俺達は仲良く角から顔を出して黒騎士の様子とその周囲を確認する。

 俺はリューネに言われる前から周囲の気配を探っている。

「……一応いない。けど戦闘中に来るかもしれないから注意して」

「来た場合の対処はいかに?」

「……数にもよるけど二体までなら俺が対処する。それ以上だったら適宜要求していくから。基本盾と回復は黒騎士に張り付いて。踊り子は《退化の怨舞》を切らさないように、かなあ」

 俺の作戦とも呼べない指示に皆が頷く。

「よし、行こう」

 俺達は物陰から飛び出す。

 黒騎士が俺達を認識し、哨戒から迎撃へと体勢を変える。

 肉厚な大剣を軽々と掲げ、黒騎士が猛然と俺達に迫ってきた。



 空間を上下に両断する死の黒剣を地面を滑るように疾駆してやり過ごす。

 避けた勢いのまま黒騎士の背後に回ると、武技を立ち上げる。

 《バックアタック》。

 背面補正の高い武技を選択して叩き込む。

(かったいなあ……)

 ミリしか減らない敵のHPに辟易する。

 黒騎士は各種耐性が高く、特に斬撃、刺突、打撃の物理系の耐性が高い。

 反面、ステータス低下耐性や状態異常耐性はとても低い。

 暗闇状態や防御力低下にすれば簡単に抑えられる。

 また、魔法防御は物理防御ほど極端に高くはなく、ある程度の威力のある魔法なら十分なダメージになる。

 状態異常でハメて、安全に魔法で削るのが主流となっている。

 とりわけ魔法職が完封出来る為、彼らのスキル上げの体のいいサンドバックと化している。

 このパーティには魔法職は居ないが、手が無い訳ではない。



「初舞」

 リューネが左右に体を揺らしながらステップを踏んでいく。

 黒騎士に淡いオーラが降り掛かる。

 俺が《シャープピック》を入れると先程よりも手ごたえを感じた。

 リューネは薄紅色の踊り子衣装の飾り裾をはためかせながら拳を振るっていく。

 こちらも最初と比べたらマシな程度に敵のHPを減らす。

 羽虫を払うように振るわれた黒剣は、アリシアが盾でしっかりと防ぐ。

 リューネは静かに流れる水のように穏やかに、しかし留まる事無く動き続ける。

「昇華。承舞」

 またしても黒騎士にオーラが掛かる。しかも先程よりも強いエフェクトで。

 合間合間にステップを挟みながらリューネが次々と【拳】スキルの武技を当てていく。

「昇華。転舞」

 リューネの動きが加速していく。緩急の滑らかだった動きは鋭さを増し、猛る炎を思わせる激しい動きに変わっていく。

 ステップも軽やかなものから、大地を踏み締め、跳ぶような動きが増えていく。

 オーラもはっきりと濃くなり、敵に重く圧し掛かる。

 この頃にはダメージが目に見えて削れるくらいに敵が柔らかくなっていた。

「……ッ! リクさん敵ですッ!!」

 一歩離れた所から状況を見ていたオカリナが俺に言葉を飛ばす。



 オカリナの注意を聞くと同時に俺は意識を外に向ける。

 俺達が飛び出した角とは別の角から一体の純銀魔動鎧が現れていた。

「ここは任せたッ……!」

 俺は弾かれたように黒騎士の囲みから離脱し、その純銀魔動鎧に近付く。

 相手も気付いたのか、持っていたシャベル・・・を振り回して俺に迫ってくる。

 俺はシャベルの柄を削るように刃を滑らせるとカウンターで『涼鳴』を斬り込む。

 銀製の魔動鎧は狙いを俺に定めてくれたようで、止まってこちらと向き合う。

「……早くあっち片付かないかなあ……」

 絶対倒すと言わない辺りが、何とも情けなくて俺らしいと自分で思ってしまった。



 俺は魔動鎧の突き出してきたシャベルを横合いに弾く。

 一合、二合と武器を交わして気付いたのだが、シャベルの一撃は存外重い・・

 集中しないと大怪我をする危険があるので気が抜けない。

 客観的に見ると正面から打ち合っているように見えるが、実際のところは軌道を逸らすが精一杯で、敵の攻撃を受け止めた瞬間に俺は押し込まれて負けるだろう。

(……二体任せろとか見栄張っちゃたなー)

 幅広の刃の腹に『涼鳴』を当てて、頭部狙いの突きを打ち落とす。

 一体でも辛いのに二体同時とか俺だけなら無理だ。

(……来ないで欲しいなあ)

 出来れば楽がしたい。

 しかし神様はお茶目らしく、こういった楽観的観測は大抵裏切られる。

 二体目の純銀魔動鎧が角から顔を出す。

(神様ありがとうこんちくしょー)

 謂れの無い罵倒をしながら俺はお願いする。

「……あーたん」

「なうっ!」

 魔法陣が新しく現れた銀色の敵の足元に走り、火柱が相手を包み込む。

 恐怖の無い機械だからだろう。純銀の魔動鎧は炎に炙られながら火かき棒のような得物を繰り出してくる。

 俺はそれをいなしながら再度お願いする。

「……くーちゃん」

「きゅうっ!」

 雷球が初めに相手していた敵の頭に命中し、敵が衝撃に体を震わせてる。

 俺一人なら難しいが、俺にはこの子達がいる。

 俺は回避に専念し、彼女達が魔法を当てていく。

 だからといって無傷で済む訳ではないが、通す訳にもいかない。

(……二体任せろって、言っちゃったからなあ)

 言ったからには実行しないといけない。それに年下二人がいるのに情けない姿は見せれない。

 そう思ったそばから火かき棒が俺の横腹を抉る。

「リクさんッ!? 大丈夫ですかッ!?」

「大丈夫じゃないから早めにそっちを処理してくれると嬉しいな!」

「この人相変わらず情けないですよッ!?」

 情けない姿じゃなくで台詞なのでセーフと心底どうでもいい言い訳を内心呟く。

「……でもリクらしい。安心する」

 リューネが貶してるのか褒めてるのか分からない事を言う。

「――昇華。結舞」

 弱体化のオーラに包まれた黒騎士をリューネが殴る。

 黒騎士のHPがごっそりと減り、敵は衝撃によろめく。

 黒騎士は緩慢な動作で両手剣を構え、振るおうとするが最初の頃の凄烈さは見る影も無い。

 アリシアが防ぐまでもなく、リューネは剣閃を掻い潜ると足にオーラを纏う。

「《垂苛すいか》」

 前方宙返りからの踵落としが黒騎士の頭を粉々に潰す。そのまま衝撃が下まで抜けて、黒騎士を二つに砕き割った。

 耐下の怨舞→退化の怨舞

 書き換え忘れです。

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